4. ステータス
テンプレの儀、最後まで行きます。
2年F組の面々を対象とした「『ギフト』と『ステータス』の確認」は、淡々と続けられた。
相沢晴美という華麗なる序曲の後は、Cクラスギフト2人が出るとBクラスギフト1人が出るといった趣で進む。
Bクラスギフトの判定を得た者は敷物の上に座らされ、Cクラスギフトの者は石造りの床に直に座らされる。
Aクラスギフトの者のためには、布製の椅子が用意されていた。Sクラスとされた相沢晴美が座るソファにこそ見劣りするものの、床に座らされたクラスメイトたちとの間の格差は明らかだった。
「カズハ・カツラギ、性別は女、レベル26、ギフト『疾風の呼吸』、Aクラスです」
「エレナ・サガ、性別は女、レベル24、ギフト『天空の魔導士』、Aクラスです」
「マモル・センドウ、性別は男、レベル27、ギフト『栄光の守護者』、Aクラスです」
出席番号30番まで進んだ結果、そのAクラスと判定されたのはこの3人だけだった。
桂木和葉。バドミントン部のエースで全国級の実力を誇る。
嵯峨恵令奈。社長令嬢にして「陽キャ」としての地位も保つ。
仙道衛。バスケット部でポイントガードとしてレギュラー入りしている。
そして、出席番号31番、平田正志の番になった。
「マサシ・ヒラタ、性別は男、レベル42! ギフト……『聖剣の持ち手』、Sクラスです!」
相沢晴美の時以来の高らかな声で、女神官が結果を読み上げた。
「おお!」
「Sクラスが二人目か!」
「素晴らしい!」
これも相沢晴美の時以来の賛嘆の声が上がる。
「今、『聖剣の持ち手』と言ったか?!」
えんじ色のコートの司教が女神官に問いかける。
「はい! ヒラタ様のギフトは、『聖剣の持ち手』です!」
「まことか! 『聖剣』は、魔王を倒すべき『勇者』のみが御することを得るもの。それにまつわるギフトとは……」
女神官の答えに、男は破顔して言う。
「……なんと……」
「彼は、勇者のギフトを……」
そんな声がさざめきつつ、平田に熱い視線が集まる。
「ヒラタ様、お疲れ様でございました。どうぞこちらへおかけください」
世話係らしき神官は、相沢晴美のそれと同格のソファを平田に勧めた。
「おい、平田、お前、『勇者』ってマジかよ」
「ん? あ、いや、狙った訳じゃないんだけどな。けど……」
毛利の問いに答えつつ、平田の顔は愉快げに紅潮した。
そして、その毛利の番になった。
「毛利! 水晶玉つぶすなよ!」
Bクラスと判定されていた男子の一人がからかいの声を上げる。
「うっせ!」
そう返して、毛利は水晶玉に両手を乗せた。
「ツヨシ・モウリ、性別は男、レベル22、ギフト……『強力漢』、Aクラスです!」
4人目となる「Aクラス」の判定。2年F組側も、ノーディア王国側も、どよめきがわき上がる。
「毛利、すげえな」
「ごうりきかん……て、よっぽど怪力なんだろうな……」
BクラスやCクラスと判定されたクラスメイトたちは、Aクラスとされた毛利に直接話しかけることをはばかっていた。
「俺もこっちに来れたぜ」
得意げに言って、毛利は、Aクラス用の布製の椅子に座った。
さらに判定は進み、いよいよ残り2人となった。
出席番号39番、度会聖奈が水晶玉に向かう。
「セイナ・ワタライ、性別は女、レベル25、ギフト……『魔法の王者』、Aクラスです!」
ここに来て、5人目のAクラス判定が出た。聖奈は、由真にちらりと目を向けて、Aクラスの席に着いた。
ここまでで、男子29人・女子10人の判定が終わった。内訳は、Sクラスが相沢晴美と平田正志、Aクラスが男子2人に女子3人、Bクラスが男子のみ12人、Cクラスが男子14人・女子6人の計20人だった。
そして最後の一人、出席番号40番、渡良瀬由真の番となった。
記入事項は、日本語で「氏名」「読み(ローマ字)」「年齢」「性別」とされていた。由真は、「渡良瀬 由真」「Yoshimasa Watarase」「16」と記した後、「性別」の項を見て、一瞬迷ってから「男」と記す。
(今の身体は、なぜか女になっている……とはいえ、元は男なんだから……)
もしかしたら。「あさおん」こと「朝起きたら女の子になっていた」の逆で、「朝起きたら男に戻っていた」となる可能性とてある。あるいは、ノーディア王国の魔法文明の力で「本当の性別」に戻される可能性も。
そう思いつつ、記入を終えた由真は、水晶玉に向かう。
(これ、嫌な予感しかしないな)
Sクラス・Aクラス・Bクラス・Cクラス。39人のクラスメイトたちが、この4つの階級に振り分けられた。「ギフト」という、この水晶玉が示した判定の結果のみによって。
最近のライトノベルにありがちなパターンだ。集団召喚されたクラスメイトの一人が「才能なし」や「役に立たない能力」という判定を受け、他全員から見捨てられて死亡確実な状況に身を置かれる。
創作であれば、そこから「実は優れた能力」が開花、逆転して生存し、さらに力をつけて、自分を見放した「仲間たち」に復讐するという流れになる。しかし、そこまでのご都合主義を期待するほど、由真は楽観的ではなかった。
(まあ、なるようにしかならないか)
そっとため息をついて、由真は水晶玉に両手を乗せた。その華奢な手指が、由真の意識をとらえる。
「ヨシマサ・ワタラセ、性別は女、レベル……0、ギフト……『ゼロ』……です……」
当惑をあらわに、震える声で、女神官が告げる。由真の側に据えられた水晶板には、こう記されていた。
NAME : ヨシマサ・ワタラセ
AGE : 16
SEX : 女
LV : 0
STR : 0
DEX : 0
AGI : 0
VIT : 0
INT : 10000
MND : 10000
CLASS : -
GIFT : ゼロ (X)
SKILL
標準ノーディア語認識・表現総合 LV 10
無系統魔法 LV 0
無相武術 LV 0
ステータス・オープンです(という詠唱はしない設定ですが)。
ちなみに、「わたらい・せいな」と「わたらせ・よしまさ」は、出席番号順で「最後の二人」にするように考えた名前です。
「あいざわ・はるみ」も、「出席番号1番」にするつもりでつけました。