48. 出陣へ
物事を決めるときには話し合い。
大事なことではありますけど…
この日は、午後の魔法実習も取りやめになった。
午前に編成されたパーティーによる訓練が、午後も継続される。15時に訓練が終わると、生徒たちは言葉もなく自室に帰っていった。
「で、最重要の課題、『共通認識の形成』? どうしたものかしらね」
自室に戻った晴美と由真は、ユイナを含む3人でテーブルを囲んでいた。
「個人的には、ドルカオ司教の実家? それも避難した農民を奴隷に落としたっていう鬼畜外道? そんなののために協力するなんて、まっぴらごめんなんだけど……そうも言ってられないのよね?」
「ええ、まあ……神殿としては、『39人』全員を出陣させる方向は譲らず、で……」
「『39人』って言われると、なおさらよね」
「そうすると、僕はどうするつもりなんでしょう?」
晴美とユイナのやりとりに、由真は口を挟む。「39人」ということは、「従者」由真は枠外ということになる。
「現地には、行かせるつもりのようです。あの、代表クラスは『雑兵』ですから、現地の兵団の中に入れるつもりかと……」
「私の『従者』なのに?」
「ハルミさんの『従卒』という扱いにすると、パーティーの行動に同行するという話になりかねない、と……」
「同行してもらえばいいじゃない。由真ちゃんは、少なくとも、桂木さんと毛利君よりは圧倒的に強いんだから」
「普通に考えれば、そうなると思うんですけど……」
ユイナは大きくため息をつく。先日の「試合」で由真が見せた「戦闘能力」は、神殿幹部連にとっては「役に立つ」ものではないらしい。
「まあ、僕のことなら、どうでもいいです。生き残る覚悟は、もうできてますから」
由真は、あえてそう言い切る。召還されたあの日ならいざ知らず、このノーディア王国で一月を過ごし、晴美たちとの関係ができた今、むざむざと殺されるつもりなどなかった。
「それより、『39人』ってことは、島倉さんと七戸さんも、動員される訳ですよね?」
「はい。お二人の属する『C3班』も、現地に出兵することになります」
由真の問いにユイナが答える。
「え? ちょっと、それはどうなの? ……そんなの、参加しない訳にいかないじゃない。美亜と愛香は、神殿に対抗できないんだから……二人を人質に取られたら、従わなきゃいけないでしょ」
そこに晴美が反応した。
神殿側にとっては「まつろわぬ『聖女騎士』」と「役に立たない兵卒」の関係に過ぎない彼女たちの間には、固い友人関係がある。
そして、晴美は友人を見捨てるような冷酷な人物では当然ない。
「ほんっとに悔しいけど……美亜と愛香のため。仕方ないわ。私も参加する。……平田君のいいようにさせるかどうかはさておき」
そう言い切って、晴美は深く息をついた。
翌日午前。2年F組の面々は、ノーディア王国に来て初めての「ホームルーム」を開いた。
「ノーディアの人たちが、ダンジョンのせいで困っている。俺たちには、召還者としての力があって、それが役に立つ、って期待されてる。この一月養ってもらった恩義だってある。俺たちは、モールソ神官の要請に応じるべきだと思う」
学級委員長の「勇者」平田は、昨日と同様の主張をした。
「成り行きはどうあれ、この神殿が、『39人』を全員動員するつもりなら、『小異を捨てて大同につく』べきだとは思うわ」
晴美は――昨日自らに納得させた論理をもって――そう答える。
「相沢も、納得してくれた。みんな、そういうことでいいか?」
(平田君、国語の成績は悪そうだな)
晴美の台詞を聞いて「相沢も納得してくれた」という言葉が躊躇なく出てくるとは、読解力の類に問題があるのではないか、と由真は内心毒づく。
「それはいいとして、パーティーは、昨日の編成で大丈夫なのか?」
問いかけたのは仙道だった。
「その辺は、俺たちに判断できることじゃないだろう。グリピノ神官が最善だと思って編成したパーティーだ、問題ないはずだ」
(え? 何その危機感のなさ? そこの判断は完全に他人任せ?)
間髪入れずに返ってきた平田の答えに、由真は唖然としてしまう。
「いや、俺たち自身の命に直結する問題だぞ? 言われたとおりに組みましたから大丈夫です、で済ませられるのか?」
対する仙道の指摘は、由真にとっては実にもっともだった。
「しかし仙道、そんな好き嫌いで決められる話でもないだろう。戦えるかどうかは、一番よくわかってるプロの判断を信頼すべきだろう」
「好き嫌いとかの問題は言ってない。B1班・B2班に、C1班・C2班・C3班は、組み方が偏ってるだろう。SとAの班以外を戦闘に立たせるのは、俺は無謀だと思う」
(さすが仙道君、観察眼もしっかりしてる)
由真は声に出さずにそう思う。
Bクラス組によるパーティー、そしてCクラス組によるパーティー。ことに後者は、単独で戦うことなど全く想定できない。
「それは、その分、俺たちが頑張ればいい話だろう」
「そうか。委員長がそういうなら、それに従う」
平田の答えに、仙道は、そういって発言を止めた。
(仙道君も、あきらめちゃったか)
聞く耳などかけらももたない「委員長」を前に、由真もまた、あきらめの境地に入っていた。
ホームルームとかクラス会とかって、きちんと合意形成できる場じゃないですよね(偏見)。
これが「勇者様」の「リーダーシップ」です。
由真ちゃんは心の中で毒を吐きまくってますけど…