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47. ダンジョン攻略入門講座

タイトルどおり、入門編になります。

 モールソ神官は――自らがこの場の混乱を収束できなかったため――ユイナに後事をゆだねて立ち去った。


 午前前半の講義で、ユイナは「ダンジョン」に関する説明を行うことになった。


 地球では――ファンタジーやロールプレイングゲームの影響から――「怪物とボスが待ち構えるお宝つき地下迷宮」という認識が流布している「ダンジョン」。元が「地下牢」という意味の古仏語であることを知らない者も少なくない。


 由真たちの耳目に「ダンジョン」の名で認識されるそれは、「地下に存在すること」が特徴とされる。


 自然の洞窟や人間が鉱物を採掘した跡のような地下空間。時には自らが掘削して形成するその空間を、魔族たちは活動の拠点とする。

 多くは階層化され、地上に近い階層には、ゴブリンやスライムなどが、地上から遠い階層にはオーガなどが生息し、最深部には魔族が居住する。

 そこは、彼らにとっての「居城」と「集落」を兼ねる存在だった。


 ダンジョンは、相応の地下空間に魔族たちが根を据えると「発生」する。

 そこには、彼ら自身が住まい、整えられた環境に魔物たちも生息して数を増やす。

 地下空間のため内部のみでは自給自足できず、近場の集落が略奪の対象になる。


 力のない農村は、耕作地を放棄して逃げ出すしかなく、逃げ遅れると皆殺しの憂き目に遭う。

 ある程度の都市であれば、冒険者たちがこれに対処する。



 そして、名うての冒険者たちは、あえてそのダンジョンの「攻略」を図る。

 ダンジョンの「主」である魔物を倒し、その機能を停止させれば、問題は根本的に解決される。

 もとより、その「主」は当然強い。逆に言えば、その「強い存在」である「主」を倒すということは、それだけその冒険者の名誉にもなる。


「本来であれば、アイザワさんが指摘されたとおり、冒険者が競って攻略するので、それに任せるところです。ただ、最近は、セントラ周辺の冒険者は、そういう活動はしなくなっています。『冒険者ギルド民間化』以降、ギルド間で顧客の奪い合いが多くなって、ダンジョンに手を出すより、確実な護衛任務の類をこなす方が優先されがちで……」

 そう説明しつつ、ユイナは眉をひそめて軽くため息をついた。


「今回話題になっている、ドルカオ方伯領のダンジョンも、ギルドに攻略関係の依頼を出す人はいませんし、冒険者としてもあえて挑む向きはありませんでした。

 ドルカオ方伯は、『民間化』を率先された方ですので、これまでは自領の衛兵に任せていて、このほど、王国軍に要請を行った、という次第でして……

 ちなみに、ダンジョン周辺では、発生直後に農民も牧民も避難し、人的被害はなかったものの、農牧業は当然崩壊しました。方伯は避難した人たちを犯罪奴隷とする処罰を下してはいますが、戻るよりはまし、という認識があるようで……」

 ユイナは、暗い表情のまま説明を続ける。


「税収が減るだけ? 農民に人的被害はないのかしら?」


 晴美の問いかけ。それは、見事に本質を突いていた。

 人的被害は出なかった。しかし、生産力が失われた結果、税収は大幅に落ち込んだ。

 それに対して領主が「処罰」したことが、結果としては「人に対する被害」といえた。


「ちなみに、ドルカオ方伯閣下は、ドルカオ司教猊下の兄君に当たられます。……ですので、くれぐれも、その御意向には十分ご注意ください」

 ――とどめの一撃だった。平田たちはいざ知らず、晴美たちにとって、この件に協力する動機はいよいよ薄まった。



 午後後半の武芸実習。ユイナの指摘が伝わったのか、グリピノ神官は、真っ先にパーティー編成を指示した。


 編成されたのは、Sクラス・Aクラスの合計7人によるパーティー。

 他に、Bクラス12人が6人ずつの2班に、Cクラスの20人が男子7人・男子7人・女子6人の3班に、それぞれ編成された。


「って、あたしらで『パーティー』って、どうすんのよ」

「スライムも倒せる自信ない」

 女子6人で構成されたC3班に入れられた島倉美亜と七戸愛香は、そんな愚痴をこぼし合っている。


 ちなみに由真は、どのパーティーにも入れられていない。

 相変わらず「戦力外」の扱いなのか、いざというときに「置き去りにする生け贄」として使うつもりなのか。突き詰めても意味はない、と由真は悟っていた。


 グリピノ神官を初めとする神殿側の指導は、当然に「Sクラス・Aクラスパーティー」に集中した。


 前衛に仙道、毛利、桂木和葉を立てて、中衛が平田と嵯峨恵令奈、後衛には晴美と聖奈という陣形。

 前衛はこれまで同様の物理攻防、中衛は、嵯峨恵令奈が中距離攻撃、平田が遊撃。後衛のうち聖奈が遠距離攻撃、晴美は治癒担当だった。


(訓練としては、形になってるかな)


 突っ立ったままやることのない由真は、このパーティーの稽古を漫然と眺めていた。

 広く見通しもよい練習場の中で、あらかじめ決められた陣形で立ち、魔物役の人が攻撃する。

 その状況では、このパーティーは意図されたとおりの動きを見せることができている。


(その『訓練としての形』に習熟するのが、一番大事なことだけど)


 いざというときに「適切な行動」を取ることを可能にするのは、結局訓練の積み重ねに尽きる。

 無駄と思える「約束稽古」でも、それを蓄積していなければ、「その程度」の動きすらとれなくなる。


(まあ、仙道君以外は、晴美さんでも理解してるかどうかは厳しいかな)


 文武両道に秀でている晴美。しかし、さすがの彼女でも「実戦」云々にさらされたことはないだろう。

 彼女の磨き上げられた力量を、この「剣と魔法の異世界」の「戦い」で役立てることができるかどうか。


(晴美さんだけは、なんとかカバーできないものかな……)

 由真は、そんなことを思っていた。

基礎知識も教えてなかった。

パーティーを組む準備すらしてなかった。


…これでいきなりダンジョンに行ける訳がありませんよね。

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