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443. アスマの冒険者ギルド その戦力

知事への御説明、午後の部になります。

 初秋の月4日に設定されたヨトヴィラ市出張について、花井香織と沖田聡に連絡し2人とも了解した。

 昼前には、工場2カ所からも2人の同行を了解するという回答があった。


 行程などの詳細は、知事室に隣接する官房秘書課に調整を委ねる。

 由真たちは、午後1時半からアトリア冒険者ギルドに関する説明を受けることになった。

 今回は、ヴィルニオ副知事とカルミスト民政局長が説明者として入る。


「アトリア冒険者ギルドは、『民間化』に伴い、大陸暦117年盛春の月1日に、アトリア市冒険者局とその管轄下の支部が移行して設立されました。

 同日付で、私は民政担当副知事を拝命し、兼任でギルド理事長を務めることとなりました」

 ヴィルニオ副知事がそう切り出した。


「あの、ギルドの最高責任者は、理事長、ということですよね? そうなると、知事は、どう関係するのでしょうか?」

 同じ「副知事兼ギルド理事長」のタツノ副知事には聞いていなかったそのことを、由真は問いかける。


「現行法では、県級市を含みます各県の冒険者ギルドは、知事の監督に服する、という制度とされております。そのため、『民間化』の際には、知事は理事長を兼ねないものと整理いたしました。

 ただ、ベニリア地方とトビリア地方は、公爵殿下が遙任で知事を兼ねられていますので、殿下がギルド理事長を兼ねられる、というのもはばかられたところもございます」


 確かに、エルヴィノ王子が各県のギルド理事長という立場を兼ねるというのは、現実的とも思われない。


「冒険者の典型的な業務である探査や拠点討伐のうち、従来知事の命令で行われておりましたものは、『民間化』以降は知事がギルドに依頼する形となりました。

 保安業務は、各県の警察部と冒険者部本部、それに各市・郡と県庁のギルド支部の間で請負の契約を交わす形となっておりましたので、実質的には変化はございません。

 消防やゴミ処理、上下水道の維持管理などの公共業務は、やはり各市・郡と支部の間の請負で、アトリア市冒険者局では、市本局の下に消防本部、清掃部、上水道部、下水道部を置いて一体運営しておりました。こちらも、従来から変更はございません」

 カルミスト民政局長がそう補う。


「ただ、大規模な魔物事案に関しましては、『民間化』以前は、冒険者局長官が各県知事に出動命令を下し、知事が冒険者部を通じて支部の冒険者を動員する、という体制でしたが、『民間化』以降は、冒険者局は協力の要請を行うことしかできなくなりました。

 北シナニア対魔大戦の折も、本局から要請が出されたものの、当時のエストロ知事がこれを黙殺したため、あのような形になりました」


 カルミスト民政局長も、あのときの事情は承知していた。


「ちなみに、アトリアギルドの体制としては、冒険者は、どの程度いるのでしょうか?」

「閣下がたが加わられましたので、初秋の月1日時点では、S級冒険者2人、A級冒険者18人、B級冒険者が3328人で、C級冒険者は約26万人となっております」


「それは……すごく多いんですよね」

「A級は、閣下がたが来られる前で、アスマ全体で31人でしたから、およそ半数がアトリアに集まっております。B級も、アスマ全体で6137人ですので、やはり半数以上がアトリアにおります」


「その31人は、ナギナ支部の5人も入れて、ですよね」

「はい。北シナニア県は、イドニの砦の脅威があった上に、大陸暦111年初春の月ナギナ魔物大量襲撃事件で危機にさらされましたので、ナギナ出身のフォルド男爵だけでなく、妹弟子のルティアさん、それにオムニコ男爵が所属を移しました。

 大陸暦116年ナギナ対魔戦争があって、フラストさんも所属を移していますが、4人とも、移籍前はジーニア支部の所属でした」


 シナニア魔法学院の学生から直接冒険者になったコスモ以外、4人全員がかつてはアトリアギルドのジーニア支部に所属していた。

 それだけ戦力を集中させていたのだろう。


「ところで、所属する支部を移す、というのは、簡単にできるものなのでしょうか」

「所属支部は、本人の希望で決まります。成績に問題がない……地道に活動している冒険者であれば、およそ希望は通ります」

 ヴィルニオ副知事が答える。


「業務の依頼を受けた支部は、まず所属の冒険者に請負を出します。ジーニア支部は、本局と市本局の戦力という位置づけもございますので、重要な大規模事案を受ける機会も多くなります。

 所属する冒険者から見ますと、案件の絶対数が多い上に、成功すれば高評価が得やすいということになりますので、A級はもとより、B級でも相当数がジーニア支部に所属を希望します。

 現在、A級は18人中12人、B級は3328人中2146人がジーニア支部の所属です」

 カルミスト民政局長がそう補う。「S級2人」については、言わずもがなだった。


「そうすると、A級の残りの人たちは……」

「タミリナ支部が4人、ヨトヴィラ支部が2人となっております。タミリナ支部の4人は、旧サイティオ郡を含む山間部の魔物事案に当たっております。ヨトヴィラ支部の2人は、治安業務が主になります」


「戦力としては、それで大丈夫なんですよね」

「A級は全員が戦士職のため、セレニア神祇官猊下が研修に出られていた間は、魔法火力の面では苦しいところもございました。

 ですが、神祇官猊下が戻られた上に、閣下にアイザワ子爵閣下と、S級冒険者が一度に2人も来られましたので、今の戦力はこの上ない充実を見ていると認識しております」


 由真自身はさておいても、晴美とユイナがいれば、魔法戦力もこの上ない。


「よその県で発生した事案とかは、どのようになっているのでしょう? アクティア湖の事案のときは、僕たちが出る話が、すぐにまとまりましたけど、あれは、関係がよかったから、と……」

「はい。『民間化』以降は、事案の発生した県のギルドから応援要請を受けて、それでこちらから冒険者に出動任務を与えるという形になっております。

 コーシア県とは、元々タミリ山地を介して隣接しており、魔物の往来も頻繁という状況ですので、何かと協力してやっておりました。それに、タツノ長官が長年副知事を兼ねられておりますので、その意味でも、非協力的に振る舞うというのは……」


 冒険者局の「大御所」であるタツノ副知事に協力しないというのは、民政省の関係者としてはあり得ないだろう。


「北シナニア対魔大戦のときは、いろいろ揉めましたけど、アトリアギルドとしては、あれは……」

「あのときは、陛下の勅書と公爵殿下の台命をもって、閣下がたに対処の依頼がなされたものとみなして処理されております。ナギナの最終決戦は、閣下がナギナ支部を通じて5人に指名依頼を行った、という形となっております」


 由真たちが活動していた裏方で、そのような処理が行われていたらしい。

 最終決戦の方は、「ナギナ支部の5人に依頼する」と提案したのは他ならぬ由真自身だった。


「ところで、先週、あのような騒ぎになりましたけど、もし仮に、アスマ軍が、軽挙妄動に及んだときは……」


 アスマ軍が武力をもってエルヴィノ王子を倒そうとしたら。

 その可能性と、対応策の必要性は、一連の騒ぎで痛感させられた。


「アトリア宮殿で殿下をお守りする、ということに関しましては、ジーニア支部にもB級の魔法戦力はございますので、アスマ軍がアトリア3個師団を動員したとしても、A級の10人を総動員すれば、持ちこたえられる、と考えております」

 ヴィルニオ副知事がそう答える。


「なるほど。ナギナ支部の5人に頼らないといけないか、とも思ってましたけど、それなら安心ですね」


 自分の不在中に8個師団を総動員された場合は、対処するのは難しいかもしれない。

 そうは思ったものの、それは口に出さなかった。


「それと、アトリア以外の地域に増援を出すような事態というのは、どうなのでしょうか」

「コーシア川水系からイドニの砦までは、北シナニア対魔大戦によって、危機はしのぐことができた、と思われます」


 確かに、魔族たちの拠点となっていたイドニの砦を奪還し、コーシア川水系の河竜と水鬼も討伐した。

 この方面は、当面危機はしのいだといえるだろう。


「ナミティア川には、例の河竜ナミトがいるんですよね」

「はい。ナミティア地方は、現在A級が4人、1人がコスキア、残り3人はシアギアにおります。この戦力で、河竜ナミトに対抗するのは、正直厳しいとは思われます。ただ、現地は、少なくとも、積極的に討伐を仕掛ける考えはないようで……」


「それは、やはり、それだけ強い、という……」

「それも、あります。ただ……『人身御供』を出せばよい、という考えが、未だ根強くあるおそれもございます」


 ヴィルニオ副知事が口にしたその言葉に、由真の背筋が冷える。

 翻訳スキルが「人身御供」という言葉で通すそれは、文字通りの「生け贄」を差し出すという意味だった。


「それは、確か、禁止されている、という話では……」

「第二次ノーディア王朝では厳禁されておりますし、万一禁制を破ったときは、連座で集落代表者も絞首刑とする旨が刑法で規定されております。それでも、『人身御供』を出した事件は、直近でも、7年前に発生しておりまして……」


 直近の事件は「7年前」。

 それでは、現地の意識が変わったとは到底考えられない。


「ナミトの起こす水害の影響を最小限に抑え、かつ現地の経済力を強化するため、現在に至るまで、ナミティア川流域整備事業を継続しております。治水はもとより、交通網の整備、農地の拡充、工業地帯の整備などの成果も上がってはおるのですが……」


 いずれは「元を絶つ」――すなわち「河竜ナミトを討伐する」必要も出てくるのだろうか。

 ユイナによれば、「齢3000歳を超える個体」であるというが――


「なるほど。ちなみに、他の地方には、そういう問題はあるのでしょうか」

 由真は、そう言って話題を変えることにした。


「コグニア地方も、コグニア川水系には河竜が出現した例があり、水鬼の被害はしばしば起きております。それに、ホノリアとも境を接しておりますので、その対策も懸案となっております」


「そちらの対策は、どうなっているのでしょう」

「コグニティアには、A級冒険者が魔法職3人に戦士職4人の計7人おり、ホノリアに対する警戒に当たるとともに、コグニア川水系の大規模事案にも対処しております」


 コグニアも、最大都市のコグニティアに戦力を集中させている。


「そちらは、ナギナのような問題は、なかったのでしょうか」

「流域各県の関係は、円滑であると聞いております。ホノリア紛争以降、ホノリアに面するコグニティアに戦力を集中させるべき、という考えが、地域全体に広く定着しているものと思われます」


 ホノリア紛争に直面した地方には、危機意識が強く根付いているのだろう。


「アトリアにつきましては、イドニの砦が再び魔王側に奪われる、あるいは、ヨトヴィラからホノリアが大規模に侵攻してくる、といった事態にでもならない限りは、冒険者ギルドが憂慮すべきことはない、と考えておりますが……」

 ヴィルニオ副知事は、そう口にする。


 しかし――アスマ軍の存在を考えると、それ自体が「憂慮すべきこと」と思われてしまう。


 イドニの砦を彼らに委ねると、再び魔族に奪い取られるおそれは十分ある。

 それに、内向きの政治闘争にばかり明け暮れている彼らは、ホノリアが攻勢をかけてきたとき、適切に対処できるとも思われない。


「そう……ですね。アスマ軍がしっかりしてくれれば、大丈夫でしょうね」

 そう応えると、ヴィルニオ副知事とカルミスト民政局長は苦笑を返した。

これが、人口3億人のアスマにおける冒険者の戦力です。

戦士職は州都アトリア、魔法職はイドニの砦のあったナギナに集中配置されています。

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[一言] アスマにおける王国軍が 日常生活ではそこまででもないけれど、いざ大きな仕事起こそうとしたり、高名な相手との立ち合いなどになると、途端に気を配らなければならない持病 みたいなイメージになって来…
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