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442. ヨトヴィラ視察を巡る通信連絡

2日後に控えたこの件について、あちこちに連絡が必要になります。

 鉄道に関する説明は、11時過ぎに終わった。

 カプリノ陸運総監以下の面々が知事室を後にすると、女性職員が封筒を手に入室してきた。


「メリキナ秘書官、ジーニア支部より雷信がありました」

 彼女はそう言ってメリキナ女史に封筒を手渡す。


「ありがとうございます」

 メリキナ女史は、そう応えて封筒を受け取り、中の紙を取り出して由真の机の上に載せる。



初秋の月2日10:16受信


アトリア市知事秘書官 ラミナ・メリキナ殿


 貴信の工場視察の件について、当支部図書室来訪中のハナイ生産管理官にお伝えし、了解との返答をいただきましたので、お知らせいたします。


大陸暦120年初秋の月2日

ジーニア支部図書室司書 インテラ・ビリア



 香織は、ジーニア支部の図書室に行っていたらしい。

 ビリア司書が差出人になっているということは、彼女が伝言してくれたのだろう。


「これ、直接話すのは、通信を使うとなると、あの通信室に呼ばないといけないんですよね」


 ジーニア支部の通信室には、由真も入ったことがあるが、いずれも、こちらからタツノ副知事に連絡を取ろうとしたものだった。


「はい。支部長室、各課執務室、南別館の執務室には内線装置がありますが、図書室にはありませんので」

「ビリアさんの前任者は、内線の呼び出し音を嫌っていました。ビリアさんが一昨年来られた際に、装置をつけるか打診したのですが、彼女も特に必要ないとのことでした」

 メリキナ女史の答えをクロド支部長が補う。


 確かに、「マナーモード」がある訳でもない内線装置は、図書室には似つかわしくない――と司書としては思うのかもしれない。


「オキタ技師の方は、北コーシニア支部に雷信してあります。支部長に報告し、神祇官猊下とも御相談する、との返信はありましたが……」

 メリキナ女史がそう言ったちょうどそのとき、内線の呼び出し音が鳴る。


「アトリア市知事室でございます。……はい。お待ちください」

 ヘッドホンをとったメリキナ女史が、そこで由真に顔を向ける。


「神祇官猊下から通信が入っているそうです」


 話に上った本人からの通信だった。


「わかりました」

 そう答えて、由真は席に着く。


「おつなぎしてください。……お疲れ様でございます。閣下に代わります」

 メリキナ女史がそう応えている間で、由真はヘッドホンを装着する。


『ユマさん、お疲れ様です』

 ユイナの声が聞こえてきた。


『4日のヨトヴィラの工場視察の件ですけど、オキタさんの出張は、本決まりになったら決裁が回ることになりました。それで、さすがにオキタさんお一人でアトリアに、という訳にもいきませんし、私とセンドウさんはジーニア支部を引き払わないといけないので、私たち3人で、明日の『コーシア32号』でアトリアに入ることにしました』


 確かに、ユイナと衛は、まだジーニア支部に宿泊しているという扱いだった。

 アスマに来たばかりの沖田を2人が連れてきてくれるというのは心強い。


『それで、4日の行程は、どうなりますか?』


 そう問われて、由真はメリキナ女史に目を向ける。

 メリキナ女史は、頷いてマイクに向かう。


「メリキナでございます。詳細は調整中ですが、閣下とハナイ管理官は、知事公邸から西駅に入られて、コノギナ線からベニリア線で現地に向かわれることになると考えております」

 メリキナ女史は蕩々と話す。


『そうですか。あの、センドウさんも、知事公邸の管理官住宅に入るという話ですよね? それで、お部屋に余裕があるようなら、オキタさんを泊めてもいい、という話をしているんですけど……』


「晴美さんも管理官住宅の理事官用の部屋に入って、僕も中を見たんですけど、ベルシア神殿のときより部屋は多かったですよ」


 ――「4LDK」が翻訳スキルを通るとは思われなかったため、由真は曖昧な言葉で答える。


「あ、でも、布団とかはどうかわからないですね。あと、食事とかも、ちょっと確認して折り返し連絡します」


『わかりました。それで、オキタさんもここにいますので、今代わります』

 そんな言葉に、一瞬の沈黙が続く。


『あ、沖田です。早速で、いろいろ面倒もかけちゃって申し訳ないです』

 昨日も話した沖田の声が聞こえてきた。


「いや、こっちこそ、明後日なんて話を急に決めちゃったけど……」

『こっちは大丈夫。せっかくの機会だから、しっかり勉強させてもらうつもりだから』

 由真の言葉に、沖田はそう応えてくれた。


「詳しい話は、今日中に決まったら、改めて連絡する、っていうことで……」

『わかりました。よろしくお願いします』

 今度はユイナが応えて、それで通信は終わった。


 話に上った衛の入居、それに沖田の宿泊の可否については、知事公邸の方に確認しなければならない。


「ネストロ用務主任に内線で連絡したいんですけど、これ、どうやって使うんでしょう」

 由真は通信装置を指さして尋ねる。


「連絡なら、私の方でいたしますが……」

 メリキナ女史はそう答える。


「いえ、あの、一応、使い方を聞いておきたい、と思いまして……」

 実際使い方に興味もあったため、由真はそんな言葉を返す。


 メリキナ女史は、「かしこまりました」と応えると、由真の傍らに寄る。


「こちらのボタンで開始と終了を行います。1回押しますと交換手につながります。呼び出し音が鳴りましたときも、こちらを押せば応答できます。通信を終えるときも、このボタンを押します」


 ――「(こう)」のたぐいではなく「ボタン」で翻訳スキルを通るらしい。


「なるほど、これですね」

 そう言いつつ、由真はそのボタンを押す。ヘッドホンから「プー」という音が聞こえて――


『通信室でございます』

 ――程なく男性が出てきた。


「あの、知事です。知事公邸のネストロ用務主任に通信をつないでいただけますか?」

『かしこまりました。少々お待ちいただけますか』

 その答えから、しばらく沈黙が走る。


『お待たせいたしました。おつなぎいたします』

 そんな言葉から――


『ネストロでございます』

 ――ネストロ用務主任の声が聞こえる。


「あ、お疲れ様です。今、よろしいですか?」

 そう問いかけると、相手は「はい」と答える。


「セレニア神祇官とセンドウ男爵が、明日こちらに来るそうなんですけど、入居の方は、どうなりますか?」

『神祇官猊下の入居の手配は、神殿の方で行われます。センドウ男爵様は、昨日御覧いただきました管理官用集合住宅の1階にお部屋を用意してあります。ジーニア支部の担当の方が同行されるのであれば、昨日と同じ手続で入居いただけます』


 そんな言葉が返ってきた。

 昨日の晴美たちの入居の際には、ジーニア支部からも担当者が同行したらしい。


「センドウ男爵の部屋の間取りは、どんな感じでしょうか」

『間取りは、アイザワ子爵様のお部屋とは左右が逆になります』


 同じ4LDKらしい。部屋数で言えば、沖田が泊まっても問題はない。


「ちなみに、布団のたぐいは、用意があるんでしょうか」

『寝具は、入居される御本人のもののほか、予備のものを、理事官のお部屋には2組、管理官のお部屋には1組用意してございます』


 来客を泊める備えもあるらしい。


「あと、食事とかは、みんなどうしているんでしょう」

 昨日は気づかなかったそのことを、今更ながら尋ねる。


『朝食は、皆様賄い料理の配膳を取られています。夕食も、午前中にお申し付けいただければ賄い料理を配膳いたします。今夜は、出張されるシチノヘ理事官以外は、皆様御希望でした』


 食事も提供される。管理官住宅も、十分至れり尽くせりのサービスだった。


「センドウ男爵が、明日の午後、1人……例の14人の1人ですけど、その人を連れて、こちらに入る予定です。それで、部屋に泊めて、あと、食事も出せるなら、と……」

 そこで、ようやく本題に話を移すことができた。


『かしこまりました。お部屋の方は準備させます。明日の夕食は、明日の朝にお知らせいただければ用意いたします。それと、お連れの方もギルド身分証をお持ちいただけると、入構の際に手続が円滑に済みます』

「わかりました。その辺は、伝えておきます」

 そう応えて、由真はネストロ用務主任との通信を終えた。


 今聞いた話を伝えるために通信をすると、呼び出す手間がかかる。

 それに、口頭での連絡では正確に伝わらないかもしれない。


 そう思って、由真は雷信を出すことにした。

 机に置かれた紙をとって、こんな文章を記す。



マモル・フィン・センドウ殿


 お疲れ様です。

 入居先は、知事公邸内にある管理官用集合住宅の理事官用の部屋で、台所兼居室の他に4室と浴室・便所が備わっています。寝具は、入居者用に加えて予備が2組あるとのことです。

 入居の際にジーニア支部の担当者が同行していれば、アイザワ子爵たちのときと同様に手続が行われます。

 食事については、事前に申し込めば賄い料理の配膳を受けることができます。オキタ技師が宿泊するのであれば、彼の分も用意できます。

 なお、オキタ技師のギルド身分証が発行されたら、持参してもらえると、入構手続が円滑に進むとのことです。


大陸暦120年初秋の月2日

ユマ・フィン・コーシア



「そうしたら、これを……」

「雷信するように伝えておきます」

 由真の言葉にそう応えて、メリキナ女史はその紙を手に取り、知事室の外に出た。


 ちょうどそこに、内線の呼び出し音が鳴る。

 由真は、ヘッドホンを装着してボタンを押す。


『通信室です。ジーニア支部のハナイ管理官からメリキナ秘書官に通信が来ております』

 先ほどの男性の声だった。

 指名されたメリキナ女史は、ちょうど席を外しているが――


「つないでください」

 ――香織からの通信であれば、自分が直接受ければいい、と思い、由真はそう応える。


『あ、花井です。メリキナさんですか?』

 程なく、香織の声が聞こえてきた。


「……由真ですけど……」

『え? 由真ちゃん?』

 香織の声のトーンが上がる。由真が出るとは思っていなかったらしい。


「メリキナさんは、……今戻ってきたけど……」


 香織が指名したメリキナ女史が、ちょうど扉を開けて入室してきた。


『ああ、えっと、例の雷信を受け取りました、って連絡するついでに、この電話みたいなの? これを試しに使ってみよう、って思っただけで……』

「ああ、そうなんだ。僕も、ちょっと試しに使ってて、自分で取ったんだけど」

 香織の言葉に、由真もそう応える。


『そうなの。これ、呼び出してもらうから、結構面倒よね』

「まあ、そうだね。って、今、通信室?」

『別館に用意してもらった職場。愛香ちゃんは出張に出てて、恵ちゃんと明美ちゃんは図書室で調べ物、美亜ちゃんと瑞希ちゃんは出かけてるわ』


 香織たち5人に執務室が与えられる。そのことは、以前クロド支部長から聞かされていた。

 その執務室は、この日は全員が出払っているらしい。


「そうなんだ。それで、メリキナさんの雷信は、読んでもらえたんだよね?」

『あ、そうそう。明後日って、急に話がまとまったのね』

「昨日の昼前に話したら、今朝言われたんだ。僕は、ヨトヴィラの市長に会う予定も入ったから、顔合わせを急いだとか、そういうのもあるんじゃないかな」

『そういうのもあるのね。『アトリア市知事』も大変よね』

「まあ、そういう仕事だからね」

 そう応えつつ、由真は思わず苦笑してしまう。


『それで、沖田君も一緒になるのね?』

 香織はそのことを問いかけてきた。


「ああ、そうなんだ。昨日、ユイナさんがステータス判定をしたら、樹脂とかの素材鑑定のギフトとスキルが出て、クラスも素材の技師に変えたんだ。それで、BTXの関係なんかは、彼も見てもらった方がいいかな、って思って……」

 昨日から今朝にかけて話す機会のなかった経緯も説明する。


『そう。剣術の方はもったいない気もするけど、樹脂のスキルがあるのは、正直ありがたいわね。私だけだと、プラスチックの方には手が回らないから……』

「まあ、素材関係は彼だけで、他のみんなは、機械とか電気とか、そういう系統だけどね」

『化学系の人がいるだけでもありがたいわ。島津君とか津田君とか、ああいう人だと、ちょっと迷惑だけど、沖田君なら頼れそうだから』


 島津や津田に関しては、カンシアにいた頃の印象が残っているらしい。

 そして、「沖田君なら頼れそう」というのは、やはりありがたいことだった。


「それで、日程とかは調整してるとこで、決まったらまた伝えるから」

『わかったわ。メリキナさんにもよろしく伝えておいてね』

 そんな言葉を交わして、それで香織との通信を終えた。


 程なく、女性職員が封筒を持って入室してきた。

 メリキナ女史が受け取ったその封筒に入っていたのは、ユイナからの雷信だった。



初秋の月2日11:41受信


コーシア方伯ユマ閣下


 お疲れ様です。

 センドウ男爵とオキタ技師は、私とともに、明日11時2分コーシニア中央駅発の「コーシア32号」でアトリアに入ります。

 いったんジーニア支部に立ち寄り宿舎引き払いの手続を済ませてから、知事公邸に向かいます。

 オキタ技師は、センドウ男爵の部屋に1泊し、当日は皆さんと行動をともにする予定です。なお、ギルド身分証は、本日午後に官記とともに交付されます。


大陸暦120年初秋の月2日

セレニア神祇官ユイナ



 先ほどの通信で知らされた件を含めて、文章で改めて伝えられた。


「ハナイ管理官とオキタ技師が、知事公邸から閣下と同行されるという前提で、日程は調整いたします」

 メリキナ女史のその言葉に、由真は、「わかりました」と応えた。

香織さんと沖田君が一緒に行くという方向はまとまりました。

ユイナさんと衛くんも、知事公邸の近くに入居します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初秋4日の準備も順調な様でなにより 沖田君を連れてユイナさんと衛君も移動してしまいますが、入れ替わる様に愛香さんがコーシニア入りするので、男女の距離感はあるでしょうが顔見知りが居るのは多少…
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