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441. アスマの鉄道 その現状

今回は、鉄分まみれになります。

 陸運総監府と鉄道3社社長が集まっての説明で、王国経済省の「アスマ鉄道解体」の鉄道法改正案を絶対容認しないという方針を確認した。

 その上で、せっかくの機会ということで、鉄道事情全般についてもも説明がなされることになった。


「シンカニオも、今はナロペアでも運行されておりますが、元々は、アスマにおける長距離移動の円滑化に向けて開発されたものです。

 専用高速鉄道線のシンカニアは、全区間で当初よりノーディア王国標準の軌間1435ミリで建設いたしました。ダスティア軌間のナミティア方面については、モディコ100系のタルゴ型台車仕様『170形タルギコ』により対応しております」

 カプリノ総監が言う。「170形タルギコ」については、ナスティア車両基地でも話を聞いていた。


「アトリアとシアギア近郊のポンシアを結びますシンカニア・ナミティア線は、新型のモディコ500系への置き換えが完了し、最速達の『鳳凰(ほうおう)』号毎時6本、準速達でシアギア北駅行の『白亀(はっき)』号毎時1本、各駅停車の『ベニリア』号毎時2本を営業最高速度320キロで運行しております」

 TA旅客のリフティオ社長が言う。


 全て合わせると毎時9本もの列車が、営業最高速度320キロで運行されている。

 セントラとオスキアの間ですら毎時2本、ドルカナに向かう北線に至っては2時間空くこともあるカンシアとは、同じ国とは思われない頻度だった。


「それは、特等が埋まっているとか、そういうのとは、関係なしに、ですか?」

「はい。カンシアのような基準で速度を変化させるような余裕は、ナミティア線にはございませんので」

 リフティオ社長は苦笑交じりで答える。


「ポンシアとコグニティアを結びますシンカニア・コグニア線につきましても、モディコ500系への置き換えを進めておりますが、こちらは、各駅停車型の『コグニア』号を中心にモディコ200系も運用されております。

 今後、まずはコーシア線をモディコ500系に置き換え、次にトビリア線も置き換えに入る方向で考えております」


 コーシニアとの間を結ぶコーシア線も、遠からず320キロ運転になるらしい。


「他方で、ナミティア川線は、両端がダスティア軌間のため、170形タルギコの置き換えが難しく、現在でも、営業最高速度は240キロとなっております」

 そう口にしたリフティオ社長の表情が曇る。


「改軌は、今でも難しい、と……」

「はい。シアギアもコスキアも、未だに改軌の機運はなく、標準軌間のシンカニアを都心へ延伸するのも反対運動がある状態です」


 それは――「魔族と魔物の動き」というナギナ線とは異なり――地球と同様のNIMBYの問題らしい。


「ところで、例の経済省の資料だと、『ベニリア線』というのがあって、『トビリア線』と『ナミティア川線』というのは出てきませんけど、あれは……」

「あれは誤りです。アスマのシンカニアは、アトリアから延びますナミティア線、コーシア線、トビリア線に、ポンシアから延びますコグニア線とナミティア川線の5線が完成し、ナギナ線とメカニア連絡線が建設中です」

 答えたのは、パスフレト副総監だった。


「え、あ、そう……なんですか……」

「何をどう勘違いしたのかはわかりかねますし、こちらから、あえて訂正を申し立てる筋合いのことでもありませんので、放置しておりますが」


 路線名すら誤りがあり、現地の当事者からすると意図もつかみかねる。

 そんな代物を「方針」として平然と提示する。

 恥ずかしげもなくそんなことができるのは――「植民地などいかようにもできる」という超大国のおごりだろう。


「モディコ500系は、モディコ200系に次ぐ第2世代車両として開発されました。営業最高速度は、ベストナのベストネオS3000系、カンシアのガリコ400形牽引列車と同等ですが、起動加速度は2.1キロメートル毎時毎秒、常用制動距離4000メートルの基準を満たし、騒音もモディコ200系並に抑えております」

 TA旅客のリフティオ社長が言う。


 モディコ500系は、高密度運転のための高い起動加速度に、日本並の制動距離4000メートルという要求も満たしている。


「制動距離、というと、シンカニオを止める技術は、どうなっているのでしょう」

「シンカニア実験線の段階から、速度抑制機構というものを装備しております。これは、速度を0キロ、30キロ、70キロ、110キロ、160キロ、210キロ、240キロ、270キロ、300キロ、320キロの10段階で軌道側から指示して、それにより列車側の速度を制限するものです。アスマのシンカニアは、全線でこの機構を導入しております」

 今度はベニリア鉄道のヤマナ社長が答える。


 新線のシンカニアについては、日本の新幹線のアナログATCと同様のものが採用されている。


「シンカニア以外の路線に入る方は……」

 この世界のシンカニオは在来線に直通する。その直通先の保安装置は――


「在来線につきましては、信号警報装置は大陸暦60年代に装備されました。これは、非常制動距離を600メートルとし、停止信号の600メートル外方(がいほう)に達すると警報を鳴らすものです。

 加えて、停止信号と連動する列車強制停止装置も、90年代にはノーディア王国全土で導入されております。アスマでは、更に速度制限のあります分岐器と曲線には速度照査の機能を持つものを設置しております。

 また、アトリア・メトロは、見通しの悪い地下鉄区間では、閉塞信号の黄信号と連動して速度を落とす初期型の速度抑制機構を当初より備えておりました。コーシニア・メトロでは、シンカニアと同様の速度抑制機構が導入されております」


 いわゆる「600メートル条項」に対応した列車強制停止装置(ATS)に地下鉄用速度抑制機構(ATC)と、日本並の体制がとられている。


「その仕組みは、貨物列車も同じなんですか」

「貨物列車につきましても、非常制動距離は600メートルとなります。一般の貨車は最高速度75キロ程度ですが、制動性能を強化したものであれば、最高速度100キロまで対応可能でして、こちらを特急貨物列車に運用しております」

 TA貨物のモナリオ社長が答える。


「シンカニオ特急の、160キロで走るものも、それで対応しているのでしょうか」

「はい。シンカニオ特急については、常用制動距離を1200メートルとし、その範囲で160キロ走行を許容する場合、閉塞信号を緑2灯点灯させます。

 停止信号の外方(がいほう)1200メートル以下まで接近した場合には、通常の緑1灯とし、その場合は、速度上限は110キロとされます。そこからの停止については、一般の列車と同様です」

「シンカニオ特急が運行される区間では、当社の普通貨物列車との干渉が生じますので、車扱(しゃあつかい)貨物の荷役は、シンカニオ特急が通る時間帯を考慮して行っております」

 ヤマナ社長の答えに、モナリオ社長が「貨物列車の事情」を補う。


「シンカニオ特急は、シンカニアが開通した区間ではそちらに移行しておりますので、ベニリア本線、トビリア本線などは、貨物列車が中心になっております」

「当社でも、幹線では特急貨物列車を中心として、輸送高速化を進めております。それと、都市部の小口荷物は、荷物列車で対応しております」

 ヤマナ社長とモナリオ社長が、そう言葉を続ける。


「荷物列車は、TA貨物さんの担当なんですか?」

「はい。114年の旅客・貨物分離の際に、荷物車は貨物の事業とされました。手荷物託送も、旅客から貨物に委託する形態と整理しております」

 今度はパスフレト副総監が答える。


「荷物車は、旅客列車と連結されますので、基本仕様は同じです。そのため、アスマでは早い時期から雷車(らいしゃ)が使われておりました。

 旅客列車と走行性能は同等ですから、長距離は旅客特急列車並の速度が出せますし、メトロの地下鉄線に入ることもできます。コーシニア・メトロでは、北駅の商業拠点への輸送のため、当社の荷物列車も乗り入れております」

 モナリオ社長がコーシニアの例を挙げる。


 イデリアとロンディアの大規模店が立地するコーシニア北駅には、専用の荷物列車まで乗り入れている。


「そういえば、アトリア・メトロとか、王都の地下鉄とかは、鉄道と列車の分離、というのは、しているのでしょうか」

「地方機関や民間団体が特定の地方のために敷設するものである地方鉄道につきましては、別に地方鉄道法というものがありまして、117年鉄道法は適用されません。

 アトリアやコーシニアのメトロ、それに王都の両地下鉄は、これに該当するという扱いとなっております。

 ただ、117年鉄道法の施行と併せて、地方鉄道法においても、鉄道事業者とは異なる者が列車を運行することができるようにする改正がなされております」

 パスフレト副総監が、そう言ってハフリオ交通局長に目を向ける。


「アトリア・メトロは、これに基づき、TA旅客、ベニリア鉄道と協定を締結しまして、119年盛春の月1日をもって列車運行事業をTA旅客に譲渡し、117年鉄道法で言う鉄道事業のみを持つこととなりました。

 これにより、全路線がTA旅客の運行となり、乗換しても運賃は通しで計算されるようになっております。

 なお、ヨトヴィラ・メトロも全線鉄道ですので、アトリア市内には、単軌列車や新列車の路線はございません」


 アトリアを巡る現状について、ハフリオ交通局長が説明する。


「その、『単軌列車』とか、『新列車』、というのは……」

「単軌列車は、1本の軌道の上を走行するもので、『ニホン』ではモノレールと呼ばれております。新列車は、正式には『案内軌条列車』と申しまして、路面に垂直な板を立てて、これに水平方向の車輪をあてがうことで進路をとる車両です。『ニホン』では『新交通システム』と呼ばれております」

 答えたのはヤマナ社長だった。


「そういうのも、あるんですか」

「はい。それぞれ、単軌列車法、案内軌条列車法というものもありまして、シアギアには、いずれも路線があります」

 パスフレト副総監が答える。


 モノレールや新交通システムが鉄道とは別扱いというのは、日本とは異なる。

 そして、中南部のシアギアには、実際に路線もあるらしい。


「アトリアには、そういうものは、ないんですね」

「いずれの方式も、輸送力には限りがありますので、人口増が続くアトリアで建設しますと、長期的に需要に対応できなくなるおそれもあり、採用が見送られておりました。

 ヨトヴィラ・メトロの南北線は、50パーミルを超える急勾配が想定されたため、案内軌条列車の方向も検討されておりましたが、平行雷動機の実用化が間に合いましたので、そちらによる鉄道として開業しております」

 今度はヤマナ社長が答える。


「旧サイティオ郡の新路線を新列車に、という構想もありましたが、将来の需要増への対応を可能とするため、鉄道路線を整備するという方向で一致を見ております」

 そしてハフリオ交通局長が言う。


「旧サイティオ郡に、新路線……ですか?」


 軟弱地盤の上で、治水の問題もある地域だが――


「開発構想の一環として、調査を進めておる段階でございます。地盤対策など、相当巨額の事業になる、と見込んでおりますが……」

 ハフリオ交通局長が渋面で答える。


「それは、慎重に進めたいところ、でしょうね」


 他ならぬ「アトリア市知事」――すなわち自分が決定権を有しているそのこと。

 自分自身としては進めたくない計画。

 それを巡る考えは、安易に示すべきではない。


 そう考えて、由真は慎重な言葉で応えた。

実は320キロ運転も実現されていて、それなりの保安装置も導入されているという次第です。


なお、「369. 「鉄道制度改正の方針」」に載せたモノには、王国政府のずさんさを描写するため、わざと「誤り」を入れてあります。

一つがこの「シンカニアの路線」、もう一つは「既に廃止されている州と辺境州」です。

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