43. 自主練組のステータス
ステータスに少し解説がつきます。
縦に長いのはご容赦ください。
クラス「守護騎士」にとって「一人限り」とされる「第一守護対象」。仙道衛は、その「第一守護対象」に由真を指名した。「守護騎士」の「ただ一人」の「守護対象」。それは「姫君と騎士」の関係だった。
晴美たちも見ているところで行われたその宣言。それは、仙道が由真に「告白」したも同然だった。
(いや、違うから。そういうんじゃないから。ほら……僕は、今こんなだから……)
仙道は、初日から晴美とともに由真に与した。自主練を一緒に続けるうちに連帯感も深まってきた。この日の試合では――島倉美亜に「ヒロインムーブ」とからかわれてしまったが――魔法による「支援」もした。
仙道は、「異世界召喚」で「女体化」した由真に最大限配慮している。だから、最高位の「守護対象」に由真を指名した。ただそれだけのことだった。
――そう言い聞かせていないと、由真の心は桜色に染まって機能停止しそうだった。
さらに、島倉美亜もステータス判定を受ける。
NAME : ミア・シマクラ
AGE : 16 (11 AA / 103 UG)
SEX : 女
LV : 7
STR : 25
DEX : 25
AGI : 25
VIT : 25
INT : 180
MND : 140
CLASS : 輜重兵 LV 1
GIFT : 家守り人 (C)
SKILL
標準ノーディア語翻訳認識・表現総合 LV 5
家政経営術 LV 7
衣服製作術 LV 6
計数管理術 LV 5
空間管理術 LV 4
水系統魔法 LV 2
光系統魔法 LV 1
生物学 LV 2
地理学 LV 1
「む……美亜はレベルアップしてたか」
「物理系が上がったね」
「太極拳の効果ですよ」
七戸愛香やユイナがそんなことを言う。その七戸愛香もステータス判定を受けた。
NAME : アイカ・シチノヘ
AGE : 16 (6 MP / 104 UG)
SEX : 女
LV : 7
STR : 25
DEX : 25
AGI : 25
VIT : 25
INT : 200
MND : 120
CLASS : 経理兵 LV 1
GIFT : 商い人 (C)
SKILL
標準ノーディア語翻訳認識・表現総合 LV 6
計数管理術 LV 8
空間管理術 LV 7
都市地理学 LV 6
食材加工術 LV 5
調理術 LV 4
火系統魔法 LV 1
水系統魔法 LV 1
地系統魔法 LV 1
総合地理学 LV 3
歴史学 LV 2
生物学 LV 1
「愛香もレベル上がったじゃん。ってか、並ばれてるし、INTが200って」
「シチノヘさんは、元々魔法の系統も多いので、INTは本来高いんです」
島倉美亜の言葉に、ユイナが応える。
「ちなみに、総合レベル1につき、この6要素の値は合計60が与えられるんです。それがどう割り振られるかは、その人のギフト、クラス、それに努力によりけりですね」
――初耳の解説だった。試しに七戸愛香の数値を足してみると、合計420で、確かに7×60になっている。
「できれば、INTだけ上がっていくより、MNDもついてくる方がいいんです。INTだけ上がると、単純に魔法の能力でも持久力が強くなりませんし、行動のバランスも悪くなります。ハルミさんもセンドウさんも、MNDが高いので実力が安定しているんですよ」
ユイナが補足する。「MND」は「精神力」の指標ということで、バランスのよい成長が望ましいということだろう。
「あとは、ユマさんですけど……」
そういって、ユイナは周りを見渡す。
由真のステータスには「閲覧権限」の設定がある。「担当神官」のユイナと「主」の晴美のみが与えられているそれ。
今現在――仙道衛は、由真を「第一守護対象」に指定した。彼は「由真の守護騎士」と言ってよい。島倉美亜と七戸愛香にしても、すでに由真の「友人」の地位にある。
「女神様、神官ユイナ・セレニアがお尋ねいたします。無系統魔法導師ユマさんのステータス閲覧権限についてです。ユマさんの守護騎士マモル・センドウさん、友人のミア・シマクラさん、アイカ・シチノヘさんに相応の閲覧権限をお与えいただきたく存じます」
ユイナは、女神像に尋ねることにした。
「神官ユイナ・セレニアを認証しました。守護騎士マモル・センドウ、輜重兵ミア・シマクラ、経理兵アイカ・シチノヘを認証しました。3人に無系統魔法導師ユマのステータス閲覧権限を付与します」
その答えに、ユイナも、そして由真もほっと息をつく。この状況で、一人・二人の「仲間はずれ」が出ては、ひどく気まずいことになる。
由真は、ユイナの水晶玉に手をかざした。
NAME : ユマ
AGE : 16 (29 UP / 104 UG)
SEX : 女
LV : 0
STR : 0
DEX : 0
AGI : 0
VIT : 0
INT : 60000
MND : 60000
CLASS : 雑兵 LV 0 / 魔法導師(無系統魔法) LV 0 遊撃戦士 LV 0 民政顧問官 LV 0 都市管理官 LV 0 都市技監 LV 0 農村管理官 LV 0 魔道具製作師 LV 0 医薬師 LV 0
GIFT : ゼロ (X)
SKILL
標準ノーディア語翻訳認識・表現総合 LV 10
無系統魔法 LV 0
無相武術 LV 0
民政学 LV 0
都市経営学 LV 0
都市工学 LV 0
公衆衛生学 LV 0
農業経営学 LV 0
魔法解析術 LV 0
魔道具工作技術 LV 0
医術 LV 0
薬学 LV 0
歴史学 LV 0
地理学 LV 0
生物学 LV 0
「ほら、やっぱりチートだった」
しばしの無言の後、そう口にしたのは七戸愛香だった。
「なに、このずらずらずらずら並んでるの、これ全部……クラス? 一人一つ選ぶんじゃなかったの?」
島倉美亜が呆然とした様子で言う。
「INTとMNDが60000……桁が違いすぎる」
仙道も、やはり呆然とした様子だった。
「けど、あれだけ上達してても、レベルはやっぱり『0』なのね。ってことは、これ……」
「はい。紛れもなく、ユマさん固有の、ギフト『ゼロ』によるものでしょうね」
晴美とユイナが言い合う。
「INTとMNDは、初日は10000だったんだけど、こっちで魔法を研究してたら、いつの間にか伸びてたんだ」
由真は、仙道に向けてそう告げる。
「そういえばそうだったわね。6倍、って、ほんとすごいわね」
「まあ、ステータスは僕自身が何かしてる訳じゃないけどね」
晴美の言葉に由真は応える。魔法の知識と技術を身につけたのは確かだが、ステータスの数値を伸ばそうとした覚えは一切ない。
「あの、私たちは、この世界の人間は、ある程度は、方向性を持って、自己鍛錬します。ステータスの数値は、それ次第で変わることもあります。あの、もちろん、伸び方は、人それぞれですし、伸び悩む場合も、多々ありますけど……」
ユイナが――この場で唯一の「現地人」として――そう言った。
「まあ、それはそうでしょうね。って、私たちは、この世界の人のステータスは、よく知らないけど……」
「あの、私のでよろしければ、ここでお見せしましょうか?」
晴美の言葉に、ユイナがそう応じた。
「え?」
「セレニア先生のステータス?! 見せてもらえるんですか?!」
「うそ、マジで?」
晴美も、島倉美亜と七戸愛香も、驚きの声を上げる。
「皆さんとは、ずいぶん縁も深まりましたし……特にユマさんには、太極拳を教えていただきましたから、そのお礼ということで」
ユイナの口調は穏やかで、その表情は軽い苦笑を帯びていた。
「あの、正直、自慢になりますけど……」
そういって、ユイナは水晶玉に手をかざした。
NAME : ユイナ・セレニア
AGE : 17 (26 UP / 103 UG)
SEX : 女
LV : 48
STR : 120
DEX : 150
AGI : 130
VIT : 120
INT : 1220
MND : 1140
CLASS : 神官 LV 45
GIFT : 光の巫女 (A) / 風の申し子 (A) / 家の管理人 (A) - 光の巫女 (A) / 風の申し子 (A)はdual (S)
SKILL
祈祷法 LV 10
預言法 LV 10
宗学 LV 10
光系統魔法 LV 8
風系統魔法 LV 8
闇系統魔法 LV 7
地系統魔法 LV 7
水系統魔法 LV 4
魔法解析術 LV 6
経営学 LV 8
歴史学 LV 7
地理学 LV 7
生物学 LV 6
医薬学 LV 5
「せ、先生、まだ17歳だったんですか?!」
島倉美亜の素っ頓狂な声。驚くべきはそこじゃない、という台詞を由真は飲み込む。
「美亜、セレニアさんじゅうななさい、とか失礼なこと考えてないよね?」
「いや、だって、ほら、先生、授業とかしっかりしてるし……いや、見た目は、確かにあたしらと変わらないけど……」
七戸愛香と島倉美亜のやりとり。これでは話が進まない。
「レベル48、って、ユイナさんと同じ……だったんですね」
平田正志の「レベル48」。その結果を巡って、ユイナが微妙な態度を示したのを、由真は思い出していた。
「ええ、まあ。……私も、人の子ですから、同じ水準に並ばれて、心穏やかではいられませんでした」
そういってため息をつくと、ユイナは穏やかな表情を取り戻した。
「この、『祈祷法』と『預言法』と『宗学』のレベル10、って、他に誰かいるの?」
「いいえ。ナイルノ神祇長官が、三つ全てレベル9、それが最高です」
晴美の問いに、ユイナは淡々と答えた。
「この『祈祷法』と『預言法』のレベルが十分高ければ、こういう場所で、この簡易型女神像とか、携帯型水晶玉とかで、いろいろな儀式ができる……という訳です。ドルカオ司教はもとより、モールソ神官でも、同じことはできません」
このノーディア王国でも最高の能力。由真たちは、その能力の「御利益」に預かっている。
「それにしても、ここの幹部って、つくづくバカよね。ユイナさんを小間使い同然にしてるなんて」
晴美の言葉に、全員の目線が集まる。
「そもそも、美亜と愛香だって、兵団的には評価低いかもしれないけど、商工業的にはいいスキルたくさん持ってるじゃない。それを『Cクラス』って迫害してる訳だし。仙道君だって、余計な小細工なしで、ドーピングした平田君と互角……技術的には彼を凌駕してるでしょ? そんなに『戦力』が欲しいなら、それこそ仙道君を重点的に伸ばせばいいのに」
全くもってそのとおりだった。神殿側のやり方は、「教育」としては失敗の見本だろう。
「でも、なんでここの連中、ユイナさんにあんなぞんざいな態度がとれるのかしら?」
「あの、私は、元々『住人』なので、ここの人たちからすると、『臣民』以下、という、そういう認識があるみたいで……」
晴美の言葉に、ユイナは目線を伏せて答える。
「神官レベル45……なのに?」
「だから、かもしれませんね。『住人』の分際で、レベルが高い、と……」
「腐りきった選民思想ね。ノーディア王国って、先が見えてるんじゃない?」
晴美は、ばっさりと切り捨てる。
「あの、みんながみんな、という訳ではありませんので。あの、エルヴィノ殿下は、私のことも気にかけられて、定期的に報告するように、と仰せつけられてますし、あのときのように、時折お越しも賜っています。この『初期教育』が終わる今月後半には、私の研修期間も終わるので、あの、殿下は、またこちらに来られます」
アスマ出身というユイナにとっては、アスマ公爵であるエルヴィノ王子は、敬愛の対象たる「主君」なのだろう。もとより、召還初日の件だけでも、エルヴィノ王子を高く評価するのは十分理解できるが。
「今現在は、神祇長官もナイルノ台下ですし、今は、ノーディア王国にも、将来はあると、私は、そう信じています」
ナイルノ神祇長官。光系統魔法はユイナと並ぶ王国最高のレベル8。神官としての基礎スキルも、ユイナに次ぐレベル9。まさに「最高位の神官」が「神官の頂点」に立っている。少なくとも今は、体制は「まとも」なのだろう。
それが次世代に続くかどうか。アルヴィノ王子・ドルカオ司教派が覇権を握るか、エルヴィノ王子が影響力を保持できるか。
今や、由真たちにとっても「他人事」ではない問題だった。
セレニアさんじゅうななさい、とか失礼なことは考えないでください。
ステータスの数字が、ようやく「裏設定」ではなくなりました。
あと、ユイナさんのステータスとスキルも。
美亜&愛香も含めて、ここに出てくる人たちはとりわけ「縦に長い」(手持ちスキルが多い)という設定です。