433. 旧C2班の新クラス
旧C2班の青木君以外の面々も、ステータス判定とクラス変更登録を受けることになります。
今回のステータス判定は、アルファベタ順ということで、「A」の2人が終わると、次は「C」の河合栄介、近藤優一と続く。
青木が戻ると、他の6人は不安そうな目を向けてきた。
「青木、どうだった?」
近藤が問いかけてきた。
「レベルは、7のまんまだったけど、情報関係……っていうか、IT系のギフトとスキルが出てきて、クラスは『情報仮想機構技監』ってのになって、扱いは、相談するってことになったよ」
青木は、自らのステータス表そのものは見せずにそう答える。
「情報仮想機構?」
その言葉に、近藤も眉をひそめて首をかしげた。
「情報システムのことだと思うよ。まあ、セレニア先生も、聞いてかなり動揺してたみたいだったけどさ」
「情報システム、って、そんなの、この世界にあるのか?」
今度は土井が問いかけてきた。
「わかんないけど、女神様? が推奨してたし、それで登録もしてもらったからね」
それは紛れもない事実だった。
「それに、渡良瀬君が、SEみたいな人間をほしがってるとか、そういう話らしいんだ」
女神も、それにセレニア神祇官もそんなことを言っていた。
「それじゃ、渡良瀬と相談、ってことか」
「そうなるかな」
「コンドウさん、お願いします」
近藤の問いに青木が答えたちょうどそのとき、職員の呼び声がかかった。
「じゃあ、行ってくる」
軽いため息とともにそう言って、近藤は会議室を後にした。
しばらくして戻ってきた彼は、表情は晴れやかだった。
「ドイさん、お願いします」
職員が、入れ替えのように「D」の土井敏也を呼ぶ。
「どうだったの?」
土井が職員とともに礼拝堂に向かったところで、青木は近藤に問いかける。
「俺も、レベルは9で変わってなかったけど、クラスは『輸送車両製造技師』っていうのに変えてもらった」
「輸送車両? それって、車のこと?」
「ああ。こっちにあるのは、バソっていうバスと、トラカドっていうトラックだけみたいだけどな」
更なる問いに、近藤はそう答える。
「でも、そんなクラスもあるんだね」
「ああ。『輸送機器』ってのだと鉄道の列車にも通用して、『機械』だともっといろいろ使えるけど、その分レベルが下がって成長も低くなる、って言われてな」
「セレニア先生に?」
「いや、あの、女神様が、な」
あの女神は、クラス選定を巡るアドバイスもしてくれたらしい。
「うちは、親父が車好きで、俺も、興味あったんだ」
この3ヶ月近い付き合いで初めて知らされた「車趣味」だった。
「そうなんだ。でも、こっちにあるの、って、バスとトラックだけ、って話じゃ」
「まあそうだけどな。バス工場の見学も、小学校の頃行ったことがあって、『手作業』って感じで感動したんだよな」
バス工場を見学して、それに「感動した」という人物が、召喚された40人の中にいた。
バスとトラックしかないこの世界にとって、それはかなりの幸運だろう。
「エノモトさん、お願いします」
そんな呼び声がして、職員とともに土井が戻ってきた。
入れ替わりで、「E」の榎本昇がステータス判定に向かう。
「俺も、クラスは『原動機技師』ってのにしてもらった」
会議室に入ってきた土井は、そう言って笑って見せる。
「原動機? エンジン?」
「ああ。あの車に使ってるやつ、ディゼロって言ったっけか、それの関係、って、女神様から推奨されたから、それにした」
青木が問いかけると、土井はそう答える。
「でも、エンジンって、なんかすごいね。僕なんて、見たこともないよ」
青木は思わず嘆息してしまう。彼は、実家の車がハイブリッド車だという以上の知識はなかった。
「まあ、俺も直接いじったことはねえけどさ、祖父さんが漁師やってっから、船についてるディーゼルエンジンは見たことはある。
それに、『機関製作基礎』と『機関整備基礎』ってスキルがあって、ディゼロ関係のスキルだ、って女神様から言われたから、それにするか、ってな。
おかげで、クラスのレベルも27になったぜ」
それは確かに高水準だった。
「それじゃ、車工場とかに行くの?」
「いや。セレニア先生が言ってたのは、『基礎』ってスキルだと、素養があるって段階だから、講習とか工場の実習とか、そういうのが必要らしいんだ。それで実物になれたら、『基礎』ってのが取れるらしい」
「ああ、それは、俺も言われた。スキルは、全部『基礎』がつくから、実習がいるって」
青木の問いに土井が答えると、近藤も自らを指さして言う。
「って、近藤は?」
「『輸送車両製造技師』って奴になった。バソとトラカドが相手だから、同じ工場になるかもな」
土井に問われて、近藤は自らのクラスを答える。
榎本昇が戻ってきた。
アルファベタ順では、この後はC1班の南田利明と水野精二郎が続くため、C2班には動きがない。
「榎本は、どうだったの?」
「僕も、レベルは変わってなかった。それで、クラスは『通信・雷信装置技師』っていうのに変えてもらった」
青木が問いかけると、榎本はそう答えた。
「らいしん?」
「通信、ってのは水晶を使うやつで、雷系統の力で文字だけ送るのが雷信、って、先生は言ってた」
土井が声を上げると、榎本はそう説明する。
「通信って、それ、軍神にロックかけられてなかった?」
自分が聞かされた話を思い出して、青木は榎本に尋ねる。
「かけられてた。青木もそうだったんだよね?」
榎本は、そんな言葉を返してきた。
「ロック? どういうことだ?」
近藤が怪訝そうな面持ちで問いかける。
「なんか、あっちで、陸軍が海軍を乗っ取って、海軍の通信士官を検閲に回したせいで、海軍の方がぐちゃぐちゃになったらしいんだ。それで、情報関係と通信関係のギフトとスキルは、セレニア先生でも閲覧禁止にした、って、軍神の話があったんだ」
青木は自らが聞いた話を答える。
「海軍の通信士官を……検閲に?」
沖田が眉をひそめる。
「連中、そんなことしてたのか」
「セレニア先生でも閲覧禁止、って、マジか」
近藤と土井もそんな言葉を漏らす。
「セレニア先生も言ってたよ。最初のステータス判定のときに通信のスキルが出てたら、『勇者の団』からは引き抜かれて、王国軍の検閲部隊に回されてた、って」
そして、榎本本人も眉をひそめて言う。
「そうすると、通信と雷信の、装置の技師、だったっけ?」
榎本が言っていたクラスの名前を思い出しつつ、青木は問いかける。
「うん。『通信・雷信技師』だとB級だけど、『装置』まで絞ればA級、って言われたから、そっちにしたんだ」
ここでも、範囲を限定するとレベルが高くなる、と示唆されたらしい。
「装置、って言うと……」
「こっちだと、通信は『通信水晶』っていうのを使うらしくて、雷信は雷動波っていうのを出す、って話だった。その辺の送受信機関係だと思う」
「送受信機? 電話とか、そういうの? それとも、アンテナとか……」
「無線だと、トランシーバーとアンテナと両方だと思う。水晶の方は、イメージがつかないけど、そっちは、『通信水晶制御術基礎』っていうのと『通信装置製作術』っていうのがあったから、基本は変わらないんじゃないかな」
青木は、OSI参照モデルやネットワーク構成については知っていても、送受信機そのもののことはわからない。
「オキタさん、お願いします」
職員の呼び声がして、「O」の沖田聡が呼ばれた。
沖田は、淡々とした表情で職員について行った。
しばらくして、職員が沖田とともに戸口に顔を出した。
「オグリさん、お願いします」
立て続けで小栗忠彦が呼ばれる。
「沖田は、どうだった?」
問いかけたのは、近藤だった。
「僕は……クラスは『素材鑑定技師』に変えてもらったよ」
沖田はあっさりと答える。それに、青木の背筋が冷え、他の面々の表情も固まった。
「剣術の方向じゃないのか?」
近藤が眉をひそめて問いかける。
実際、剣道部に所属していた沖田は――交通事故に遭う前は、柔道部の毛利剛などよりも「強い」という印象があった。
毛利剛が「Aクラス」に位置し、今日付で「将軍」になった。
それなら、本来の沖田は、やはり同様に「将軍」の地位を得ていてもおかしくない。それほどの器量の主と思われた。
「まあ、剣術も、一応レベル7だけど……ほら、こっちの剣って、平べったくて重いからさ、剣道とは勝手が違うしね」
この世界の剣は、確かに剣道で使う竹刀とは形状が違った。
青木たちにとっては、「重たくて扱いにくい」という程度のものでしかなかったそれは、剣道に取り組んでいた沖田にとっては違和感の強いものだったのだろう。
「けど、それは、日本刀みたいなのもあるんじゃ……」
「日本刀は、日本人が扱うから、細くてよく斬れるように、かなり工夫が凝らされた特殊な代物だからね。僕らの世界を『異世界ニホン』とか言ってる割に、あのたぐいを見ない、ってことは、あの技術は取り入れられてないんだと思うよ」
なおも問いかけた近藤に、沖田は苦笑交じりで答える。
「それに、『金属類鑑定術基礎』っていうのと『樹脂類鑑定術基礎』っていうのが、両方ともレベル6だったから、そっちで行った方がいいかな、って思ってね」
――「基礎」の段階でレベル6。沖田は、そのスキルにあえてかけるつもりなのか。
「それって、化学とかの方向?」
「まあ、そうだね。僕は、元々、応用化学とか、そっちの方向に行こうって思ってたんだ」
どうやら、ここでも「本人の志望」と整合するスキルが与えられていたらしい。
そんな話をしているうちに、小栗が戻ってきた。
「僕は、クラスは『鉄道車両技師』に変えてもらった」
他の面々に向かって、小栗はそう口にした。
「『機械製作基礎』、『構造解析基礎』、『雷動機制御基礎』、『情報機構基礎』っていろいろあって、絞り込めなかったんだけどさ、セレニア先生から、『お好きなものが何かあれば、それを選ぶのもいいですよ』って言われて、なら、って思って」
小栗の場合は、セレニア神祇官の示唆があったらしい。
「そういえば、渡良瀬君と鉄道の話してたね」
「まあ、渡良瀬君は、僕なんかよりよっぽど詳しいんだろうけどね。それでも、彼……彼女は、いろいろ忙しいだろうから、まあ、その下請けくらいなら、できるかな、って思ってさ」
青木の言葉に応える小栗の表情に、屈託の色は見えない。
そこから、C1班の酒井篤久と多田幸広が呼ばれた後、最後の1人、山上敬二が呼ばれた。
「俺は、クラスを『機械制御装置技師』にしてもらった」
戻ってきた山上は、他の面々にそう告げた。
「『機械制御基礎』と『計測装置製作基礎』ってスキルがあったから、女神様の推奨で、それにしてもらった」
山上は、そう言葉を続ける。
「『制御』と『計測』か。なんか、『工学』って感じのスキルだね」
青木が言うと、山上は、そうか、といってあさっての方を向く。彼は、寡黙な性質だった。
全員のステータス判定が終わったところで、セレニア神祇官がギルド職員とともに会議室に入ってきた。
「皆さん、お疲れ様でした」
そう切り出されて、青木たちはなんとなく会釈などを返す。
「それで、皆さん、技師の系統の生産職のクラスとスキルが確認できましたので、そちらの方向で、ギルドに登録していただきます。
ここのギルドのトップ、理事長は副知事ですけど、最高責任者は知事、つまりユマさんです。皆さんの扱いについては、ユマさんとも相談の上で決めることになります。
任官の方の手続もありますから、詳細は、夕方に改めてお知らせします」
彼ら全員が、無事に「ギルドに登録」される。この先の生活も保証される。
青木は安堵の息をつき、他の6人も表情を緩めて頷いた。
全員生産関係の「技師」にクラスを変更しました。方向性は、人それぞれですが…
彼らはこれから、コーシア冒険者ギルドの「生産者」になります。