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431. 北コーシニア支部へ

今回は、旧C1班・C2班の14人が、コーシニア中央駅に到着したところからです。

 足かけ4日の汽車旅を終えて、青木たち14人は「コーシニア中央」と表示された駅のホームに降り立った。


「皆さん、長旅お疲れ様でした」

 迎えに来たセレニア神官――いや、セレニア神祇官が言う。


「皆さんの宿は、こちらのコーシア冒険者ギルドの北コーシニア支部に用意してあります。これからバソで移動しますので、まず駅から出ましょう」


 そう言葉を続けて、セレニア神祇官は添乗員のごとく先頭に立つ。

 そのすぐ後ろに仙道衛が続き、14人は更に後ろにつく。


 階段を降りると、壁に挟まれたコンコースが広がっている。

 左折すると、やや先に自動改札機があった。

 日本のそれと同じ要領で切符を挿入すると、そのまま回収される。


 駅前には、ボンネットバスが停車していた。


「これ……つながってる?」

 近藤優一が声を上げる。


「ああ、こっちだと、バソもトラカドも、前後はつながってる」

 仙道がそう答えた。


 セントラで乗った車は、「客車を引いたトレーラー」だった。

 しかし、眼前のものは、文字通りの「ボンネットバス」の形状になっている。


「皆さん、こちらに乗ってください」


 セレニア神祇官に促されて、彼らはその車に乗り込む。

 車内は、セントラで送迎に使われた車と同じ程度の大きさに見えた。


 全員が乗り込むと、折り戸が閉ざされて車は走り出す。


「今夜は、北コーシニア支部に入って、宿泊手続をしてから、夕食になります。明日は、皆さんのステータスの再判定をして、その結果も見た上で、ギルドに登録していただきます」

 最前列に座ったセレニア神祇官が、後ろの青木たちに振り向いて言う。


「コーシア冒険者ギルドは、コーシア方伯閣下……つまりユマさんの管理下にありますから、皆さんのスキルや御関心は、最大限尊重されるはずです。

 ユマさんは、生産関係を強化したい、という考えですし、コーシニアは、魔法産業とか機械産業とかの拠点も集中してますから、そういうスキルのある人は、引く手あまたです」


 冒険者ギルドへの登録。


 青木は、戦闘力が最低評価の「Cクラス」だったため、その話を聞かされたときは、率直に不安になった。

 渡良瀬由真本人が列車の中で言っていた「生産」という話を、セレニア神祇官も口にした。


 青木のステータスには、「経営学」と「計数管理術」というスキルがあった。

 今まで顧みられることのなかったそれが、少しは役に立つのだろうか。



 暮れなずむ街中を進み、長い橋を渡った先で、車は停車した。


 そこは車止めで、大きな玄関に面していた。

 セレニア神祇官を先頭に、職員2人、仙道、そして14人は下車する。


 玄関の中は、広々としたロビーになっていた。

 受付窓口には、受付嬢が5人入っている。


「皆さん、カンシア事務局の方で発行された緊急通行手形を用意してください」


 セレニア神祇官に言われて、青木たちは緊急通行手形を取り出す。

 その通行手形がいったん職員に預けられると、窓口で手続が行われて、そして鍵と札とともに返されてきた。


「部屋は5階で若干不便だと思いますけど、一応、初秋の月の月末までは滞在できるように手配してあります。食事は、そちらの札を見せると、宿泊棟の1階にある食堂で3食が出ますし、朝食は、部屋に配膳してもらうこともできます」


 ここに1ヶ月は宿泊できる。食事の不安もない。

 右も左もわからない立場では、これ以上心強いことはなかった。


「今夜の夕食も、宿泊棟の食堂で出ますので、荷物を置いたら、1階に降りてきてください。そちらの札が必要になりますので、忘れずに持ってきてください」


 職員に先導されて、青木たちは2階に上り、渡り廊下を通って別棟に入る。

 そちらにエレベーターというものはなく、階段を上らなければならなかった。

 5階まで行くのは、体力的な負担はある。


 たどり着いた部屋は、やはりビジネスホテル並の設備が整っていた。

 この部屋が、1人1部屋与えられる。その環境は、つい先日までは夢のまた夢だった。


 机の上には、「朝食配膳希望」と記された札と「清掃してください」と記された札が載せられている。

 この「朝食配膳希望」の札を掲げておけば、「部屋に配膳してもらう」ことができるのだろう。


 それを確認して、荷物を置いて部屋を出ると、他の面々も、やはり荷物を置いて廊下に出て来ていた。

 1階まで降りると、小さいロビーを挟んで食堂があった。


 中に入って従業員に札を見せると、彼らは一続きになった席に案内された。

 全員がそろったところで配膳されたのは、豚肉の生姜焼き。

 主食は――これまで供されてきたパンではなく、炊かれた白米だった。


「これ、米……」

「ここ、こんなのも、あるのか……」

「ああ、こっちは、南の方で米が穫れて、鉄道で回ってくるらしい。俺たちは、大体米の飯を食べてる」

 土井と近藤が上げた声に仙道が応える。


 召喚されてから約3ヶ月ぶりに口にする米飯。

 豚肉の生姜焼きとともに食べるそれは、極上の甘露だった。



「それでは、明日は、皆さんのステータス判定を行いますので、先ほど手続をした玄関に、朝9時に集合してください」


 食事を終えて、セレニア神祇官からそんな指示を受けて、14人は5階の部屋に戻った。


 青木は、「朝食配膳希望」の札を扉に差し込んで、シャワーを浴びると、午後10時には床についた。



 ――汽車旅で疲労が蓄積していたのか、気がついたら6時半になっていた。


 身繕いを済ませて扉を開けると、蓋の載せられた台車が据えられてあった。

 中に入っていたのは、固めに焼かれたパンに豚肉とネギ、それに野菜スープと茶葉だった。


 スープは、蓋のついた容器に入っていて、十分に温かい。

 あの日――襲撃の直前に「夕食」として出された、冷め切って味気もないスープ。

 それとは比べるのもおこがましいほどだった。


 昨夜通った道筋を逆に進んでロビーに入ると、他の面々はまだ姿を見せていなかった。


 小さな棚に「コーシア冒険者ギルド日報(朝刊)」と題された2つ折り4ページの紙が10枚ほど並んでいるのが見えて、そのうち1枚を手に取る。


 新聞のようなそれの「1面トップ」には、「アスマ軍新総司令官就任へ」という大見出しに「ユマ様 上奏に粛軍徹底の勅書」という小見出しがあった。

 その隣には、「『勇者の団』階級昇進」という大見出しと「小隊長・班長巡り ユマ様上奏」という小見出しがある。


「勇者の団」という文字が見えて、青木はそちらの記事に目を向ける。


 青木たちが抜けた後の「勇者の団」で、平田正志が大将軍、毛利剛が将軍になり、「軍曹12人」、すなわちB1班・B2班の12人は「士官」に昇進する。

 その一方で、女子2人は「士官」のまま、B1班・B2班と同じ階級とされる。

 それに対して、「ユマ様」こと「コーシア方伯ユマ閣下」が国王に上奏を行った。

 結果、女子2人はB1班・B2班より優遇させることになった。


 その記事には、そんなことが書かれていた。


 1年A組の女子たちの中心にいた嵯峨恵令奈。

 あの渡良瀬由真を付き従え、平田正志と毛利剛も「侍らせる」雰囲気だった度会聖奈。

 相沢晴美を初めとする女子8人が一斉にアスマに去って、「勇者の団」に残された女子は、その2人きりとなった。


 B1班・B2班のあの12人は、「軍曹」の階級を与えられて、「兵卒」の青木たちを奴隷同然に扱い、満足な食事もとれない環境に追い込んだ。


 それに対して、「士官」となった女子2人は――むしろ青木たちに気さくな態度で接した。

 食事なども「Bと同じでいいから」と気を遣ってくれた。


 B1班・B2班の12人は、今度はその女子2人の上に立とうとしていた。

 しかし、それは止められた。「ユマ様」――「コーシア方伯ユマ閣下」の上奏によって。


 何より。

 ここに至るまでの一連の騒動を巡って国王が発した詔書は、青木もどうにか読み通した。


 この王国の最高権力者たちが、「勇者の団」の「分裂」を嫌い、様々な圧力を加えてきた。

 しかし()()は、一歩たりとて退くことなく、一貫して青木たちを救うという態度を貫いてくれた。


 そのおかげで、彼らはこうしてこのアスマの地に入ることができた。

 今回昇進したB1班・B2班の12人のことも、もはや「過去の話」になった。


 これから受けるステータス判定。

 その結果に基づき、冒険者ギルドに登録される。

 ()()が作ったその道で、最大限の努力をする。

 それが、自分にできる何よりの恩返しだろう。


 青木は、そんなことを思っていた。

「勇者の団」を巡る記事を見て、青木君は、救ってくれた恩義を強く意識しています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 青木君は毎朝新聞に目を通す習慣があるのかな そして早速「勇者の団」特に嵯峨さんと度会さんのことに考えを向ける 君はもう少し自分のことに思考を割いても良いと思う そんな青木君無意識下では既…
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