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421. ナギナからコーシニアへ

列車はアスマに入ります。

 停車時間20分の間で簡単な意見交換をして、トルフィア幹事長は列車から降りた。


 列車は、午後5時ちょうどに発車した。

 直後、特等室の扉がノックされる。

 メリキナ女史が扉を開けると、車掌が立っていた。


「閣下、オルヴィニア駅で、こちらの雷信をお預かりしました」

 そう言って、車掌は封筒を差し出した。


 メリキナ女史がその封筒を受け取り、光系統魔法で上辺を切って中の紙を机の上に載せる。



コーシア方伯ユマ閣下


 お疲れ様でございます。

 明日「ミノーディア11号」のナギナ中央駅御到着の際に、当地出張中の内務省治安局総務課長とともに、御挨拶及び現状の簡単な御報告に伺いたく存じます。

 お疲れのところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします。


大陸暦120年晩夏の月30日

 北シナニア県副知事 モスコ・リデロ・フィン・ロキモルト



 今度は、ナギナ中央駅でロキモルト副知事が挨拶に来る。

 到着するのは明日の10時40分。

 この列車は――運転停車はするにしても――途中で客扱いはない。



 3日目の夕食は、ミノーディアの習わしに沿った骨付きの羊肉が供された。


 夜は、前回と同様に「蒸かし酒」と呼ばれる蒸留酒の小瓶が渡される。

 それに頼って、由真は朝までぐっすり眠ることができた。


 大草原を走り続けた列車が、やや長いトンネルを抜けると、遠くの山々には木々が見え出した。

 そして家並みも増えてくる。


「あと10分ほどでナギナ中央に到着いたします。ナギナ中央駅は、4番線に到着いたします。お出口は右側です。

 乗換のご案内をいたします。シナニア西線、マティア北行、特急『シナニア24号』は、2番線から、11時10分に発車します。

 シナニア東線、オプシア、コモディア、カリシニア、コーシニア中央経由アトリア西行、特急『白馬8号』は、同じホーム、4番線から、11時30分に発車します。

 この列車は、ナギナ中央の次はコーシニア中央まで停車いたしません。オプシア、コモディア、カリシニアへお越しのお客様は、次の『白馬8号』へお乗り換えください」


 その放送は、10時半に流れた。今回も、丸2日かけての大草原の旅は、定刻通りに終わったらしい。


 10時40分に、列車はナギナ中央駅に到着した。

 直後、特等室の扉がノックされる。


 メリキナ女史が扉を開けると、ロキモルト副知事が立っていた。

 その隣には、マリナビア内政部長と同年代とおぼしき女性が、凜然とした姿勢で直立している。


「お疲れ様でございました、閣下。お疲れのところ申し訳ございませんが、御挨拶と御報告まで、お伺いいたしました」

 そう言って、ロキモルト副知事は一礼する。


「それは、ご多忙のところ恐縮です」

 そう言って、由真は礼を返し、メリキナ女史たちも頭を下げる。


「当県におきましても、ロンディアから恫喝めいたものはございましたが、『生活支援駅前市』の成功により、あちらは勢いを失いました。それと、こちらは……」

 ロキモルト副知事は、隣の女性に向けて手をかざす。


「私、内務省治安局総務課長のサイファ・ミルシアと申します。北シナニア県警察部の体制再建のため、こちらにたびたび出張しておりました」

 彼女――サイファ・ミルシア総務課長は、そう言うと、背筋を伸ばしたまま腰から頭を下げた。


「実は、当県の警察部長については、体制再建のため相応の人材を充てる必要があるということで、内務省でも人選に苦慮していたようでして、私が警察部の方も事務取扱をしておりました。

 とはいえ、私は元は民政省の人間で、警察のことには詳しくもありませんので、専任の警察部長を補職するため、ミルシア総務課長を地方理事官に抜擢して起用する、という方向で、閣下の御了解を賜り次第発令する、ということとなりました」


 由真が夏休みを終えてカンシア出張に出ている間、ロキモルト副知事は、内政・警察・民政の3つの部長職を兼務していたらしい。

 県政再建が急務の状況で、それでは回らないということで、専門外の警察部長は後任者を補充することになった。


「北シナニア県警察部は、ウルテクノ前課長からも最大の懸案として引き継ぎを受けておりました」

 ミルシア総務課長は、そう口を切る。


 その言葉で、コーシア県のウルテクノ警察部長が今春まで内務省治安局総務課長だったことを思い出した。


「千載一遇の機会ですので、私としては、警察部総務課長としてでも、直接乗り込み陣頭指揮に当たりたい、と省に願い出ておりました。閣下の御了解をいただけましたら、体制再建に向け微力を尽くす所存でございます」


 その凜とした言葉と、直立した姿勢から、彼女の「体制再建」に向けた志は十二分に伝わってくる。


「わかりました。よろしくお願いします」

 由真は、そう応えて頭を下げる。


「それと、この半月ほどの取組についてですが……」

 ロキモルト副知事が口を切り、由真はそちらに顔を向ける。


「まず、通信・雷信の傍受、検閲、遮断を主任務としておりましたギルド通信課につきましては、全員を更迭し、117年まで冒険者部通信課におった職員を呼び戻しました」


『ナギナ支部の場合、魔物速報以外の雷信は、すべて本部で止められて、いったん検閲されます。特に問題がないと判断されたものだけが、本部から改めて送信されますし、逆もしかりです。クシルノ支部長が裏ルートで入手したもの以外は、基本的に流れてきませんので……』


 アスニア川で魔族・魔物の大軍を討伐した直後、魔物速報の送信を巡ってラルドが口にした言葉が、由真の脳裏によみがえる。

 任務の妨げにしかならなかった「ギルド通信課」に、ロキモルト副知事は早速メスを入れたということだろう。


「その上で、私の方で全支部長と通信し、ギルド再建という方向を確認しております、幸い、ナギナのクシルノ支部長を初め、私も見知っている人物ばかりですので、協力は得られると思っています」


 現地の事情を知り、ギルドとも気心が通じている。

 エルヴィノ王子は、そう期待して、彼を北シナニア県副知事に起用した。

 その期待に、彼はしっかり応えてくれている。


「警察につきましては、シナニア師団憲兵隊に対する保安業務委託は、全面的に解除いたしました。警察部内には、憲兵に同情的だった者もおりますので、個別に調査の上、順次更迭して参ります」

 続いてミルシア総務課長が言う。


 北シナニア県警察部も、内部の粛正のためには、多少の粛清もやむを得ないところだろう。


「市・郡の保安業務は、ナギナ市以外では、これまでもギルドの保安隊が実施しておりましたので、そちらに混乱はないものと考えておりますが、当面は慎重に状況を見て参ります。

 ナギナ市につきましては、憲兵隊が反動に走る恐れもありますので、A級冒険者5人とも密に連携すべきと考えております」


 確かに、憲兵の反動には十分な警戒が必要だろう。

 そして、シナニア師団の軍事力に対抗するには、ナギナの5人との連携は不可欠になる。

 いずれにせよ、彼女が警察部長に着任すれば、具体的な措置にも着手できる。


「わかりました。エストロ前知事時代の弊害を正すのは、公爵殿下の御意でもありますので、ギルドの皆さんとも引き続き連携の上、よろしくお願いします」

 由真は2人にそう応える。


「ちなみに、11日に、御就任のパレードを予定しておりますが……」

 ロキモルト副知事は、「その件」に話題を移した。


「北シナニア対魔大戦の祝勝も兼ねてのものとなりますので、センドウ男爵も、アイザワ子爵とカツラギ男爵も、それとナギナ支部のA級5人も参列する予定としております」


 ナギナに関しては、そういう意味合いもあったらしい。

 16年間に及んできた魔族・魔物の圧力からの解放をナギナ市がこぞって祝福する。

 その戦いを主導した立場として、その思いには応えるべきだろう。


「わかりました。ナギナ支部の5人とも相談の上で、よろしくお願いします」

 趣旨は同じその言葉で、由真はそう応えた。



 報告を終えたロキモルト副知事とミルシア総務課長は、15分ほどで特等室を後にした。


 特急「ミノーディア11号」は、定刻通りの11時ちょうどにナギナ中央駅から発車した。

 シナニア本線に入った列車は、時速160キロに加速して走り続ける。


 次の停車するコーシニア中央駅で、元C1班・C2班の14人は下車する。

 これまでの「20分停車」からは一転して、コーシニア中央駅の停車時間はわずか「2分」。

 14人を円滑に下車させるのは、それだけでも簡単ではない。


 列車は、急勾配区間のユリヴィア回廊を通るため、カリシニアとユリヴィアで運転停車する。

 午後5時20分にユリヴィアから発車すると、衛はいったん一等室に戻り、荷造りを済ませた。


 午後6時15分になったところで、衛とともに由真も4号車に向かう。

 14人も、既に荷造りを終えて、到着の時刻を待っていた。


「あと10分ほどでコーシニア中央に到着いたします。コーシニア中央駅は、5番線に到着いたします。お出口は左側です。

 乗換のご案内をいたします。快速オトキア行は、お隣の6番線から、18時40分の発車です。その後、普通列車オトキア行が、同じく6番線から、19時ちょうどに発車します。ファニア線、普通列車ファニア行は、3番線から18時50分の発車です。

 ファニア線各駅停車サイトピア方面は1番線、トマスリナ方面は2番線、メトロ南北線は8番線、トラモ南北線は7番線から発車します」


 その案内は、午後6時20分に流れた。


 列車は徐々に減速していく。

 左側からコーシニア・メトロの線路が合流してきたところで、一同は席を立つ。


 衛が先頭に立って、デッキに向かって全員が並ぶ。

 由真も、一同の動線を妨げない位置を選んでデッキに立った。


 列車が停車して、引き戸が開く。

 ホームには、黒い神官服を着たユイナのほか、ギルド職員らしき男性が2人立っていた。


「ユマさん、お疲れ様です」

 そのユイナが、車内の由真に声をかけてきた。


「ユイナさん、お疲れ様です。わざわざ済みません」

「いえいえ。皆さんのステータスは、明日判定します。ギルドの登録手続も、こちらでしておきますので」

「済みません、よろしくお願いします」

 由真とユイナがそんな言葉を交わしている間で、衛を先頭に14人は無事下車した。


 ここからこの大陸横断特急に乗車する客はなく、そのまま引き戸が閉ざされて、列車は駅を発った。

北シナニア県庁の方は、副知事が動き始め、新たな人材も派遣されます。

そして、14人はコーシニア中央駅で無事下車しました。

主人公の旅も、もうすぐ終わります。

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― 新着の感想 ―
[一言] もうすぐ一時毎日更新停止か・・・・・・・ お体に気をつけつつ、毎日更新を頑張って下さい。
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