419. コーシニアからの便りを受けて
雷信は、不愉快な方も読み終えましたので…
アフタマ駅で受け取った2通の雷信には目を通し、元老院決議の方は封筒に戻してメリキナ女史の鞄の中に収められた。
もう一方のタツノ副知事からの雷信によれば、C1班・C2班の14人はコーシニア中央駅で下車することになる。
その件を彼らに伝えるため、昼食が片付けられたところで、由真は衛とともに4号車に向かった。
途中の2号車と3号車は一等寝台で、昼間のこの時間帯は幅の広いボックス席を1人掛けで使っている。
アスマを巡って混乱があったためか、席は半分程度しか埋まっていないように見えた。
その先の4号車に乗る14人は、食後ののどやかな時間を過ごしている様子だった。
「みんな、ちょっといいかな?」
3・4番のボックスに座っていた4人――青木、沖田、小栗に土井に声をかける。
すると、他の10人も席を立ってこちらにやってきた。
「ああ、みんな、どんな感じ?」
全員が集まったため、由真はそう問いかける。
「すごくいいね、これ。昼はこんな広い席が4人だけで占領できるし、夜は横になって毛布もかぶれるし」
最初に答えたのは青木だった。
「王都に来たときなんて、この半分くらいの幅で6人座ったからな」
「食事も、今朝の焼きそば? すげえうまかった」
「さっきの、ドーナツみたいなのも、味が濃厚でよかったよね」
他の3人もそんな言葉を返し、他の面々も頷いている様子だった。
「それならよかった。あ、それでさ、この列車、アスマには明後日に入るんだけど、終点のアトリアじゃなくて、2つ手前のコーシニア中央ってとこに宿が取れたから、そこで降りてもらうことになったんだ」
「駅には、セレニア神祇官が迎えに来てくれるそうだ。それで、俺も、みんなと一緒にコーシニア中央で降りて、そのまま宿にも行く」
由真の後ろから、衛がそう補う。
「セレニア先生が、来てくれるんだ」
「ああ。着いた次の日には、ステータスの再判定もして、冒険者ギルドに登録することになると思う」
青木の言葉に衛がそう応えると――
「冒険者ギルドに登録、か……」
「けど、大丈夫か?」
――集まった面々は不安の色を見せた。カンシアで「兵卒」として受けた待遇からすれば、それも無理からぬことだろう。
「こっちの冒険者ギルドは、生産者も所属してて、C3班にいた女子たちも、そっちでみんな入ってるよ。カンシアみたいに変な待遇はしないから、そこは心配しなくても大丈夫だよ」
「セレニア神祇官も、みんなのことは心配してた。俺も、できるだけ手助けする」
やはり由真の言葉を衛が補うと、彼らの不安も和らいだように見えた。
(この辺は、やっぱり『同性』ってこと……なのかな……)
ついらちもないことを考えてしまう。
「えっと、その、コーシニア? それって、どの辺になるのかな?」
「由真の、コーシア県の県庁所在地だ。アトリアから1時間40分のところになる。着くのは明後日の夕方6時半だ」
青木の問いに衛が答える。
「ほんとは、僕も一緒に降りた方がいいんだけど、僕は、着いた次の日の朝一番から、アトリアで用事があって、コーシニアには寄れない感じなんだ」
「それは、渡良瀬君、すごく忙しいみたいだし、僕らも、この列車に乗せてもらって、アスマに連れてってもらって、それだけでも、すごくありがたい、って思ってるから」
由真の言い訳に、青木がそんな言葉を返す。
「とにかく、しばらくは、俺もフォローする」
衛がそう言うと、14人は頷いた。
14人に明後日の予定を伝え終えて、由真たちは4号車から1号車に戻る。
「彼らには、31日は衛くんと一緒にコーシニア中央で降りて、ユイナさんが迎えに来る件と、ステータス判定からギルド登録の流れになる件を話しておきました。
みんなのんびり過ごしているみたいで、心身の不調を訴える人もいませんでした」
特等室に入って、由真はメリキナ女史とウィンタにそう告げる。
「それは何よりね。顔色も、だいぶよくなってきたんじゃない?」
「そんな感じですね」
ウィンタに言われて、由真もそう答える。
「コーシニアへの返信ですが、ヴィグラシアは実質軍用駅ですので、雷信を取り次ぐのは、その次のオルヴィニアになります」
メリキナ女史がそう切り出した。
確かに、あの王国軍の城塞に面した駅で、雷信の送信など頼むことはできないだろう。
「閣下の御予定については大筋了解、それと、14人についても予定は了解、その際センドウ男爵も同行される、といったところでよろしいでしょうか」
メリキナ女史に問いかけられて、由真はソファに腰掛けつつ考えを整理する。
「とりあえず、今回の出張で、冒険者ギルドの制度の話、それと鉄道の話を聞いたので、その辺については、アスマの関係者の話も聞いておきたいところですね。
それと、生産関係は、あっちの6人にも考えがあるでしょうし、14人も、ステータス次第では何か頼める仕事もあるかもしれないので、その辺を見ながら、話を進めることになる感じですかね」
由真がそう答えると、メリキナ女史は例の水晶板にさらさらとペンを走らせる。
「そうしますと、こんなところでしょうか」
そう言って、メリキナ女史はその水晶板を見せる。
コーシア県副知事 タツノ男爵ヨシト殿
アフタマ駅にて取り次がれた雷信は拝見しました。
初秋の月1日の予定とそれ以降の予定については了解しました。
元「勇者の団」兵卒14人の予定についても、彼らには伝えています。センドウ男爵が彼らとともにコーシニア中央駅にて下車し、北コーシニア支部へ同行する予定です。
なお、今回の出張において117年冒険者法及び117年鉄道法について説明を聴取しましたので、これらにつきアスマの関係者からも説明を聞きたいと考えています。
また、生産関係については、ジーニア支部所属の生産者連とも相談し、また今回割愛を受けた14人のステータスも見た上で、今後の方針を判断しようと思っています。
大陸暦120年晩夏の月30日
コーシア方伯ユマ
メリキナ女史は、タツノ副知事への返信の文案を既に作っていた。
「明日の昼食後にも印刷して、専務車掌を通じて雷信を依頼しようかと思います。それまでに、何か御指示があれば、こちらは修正いたします」
修正の必要も全く感じられず、段取りも考えてある。
「よろしくお願いします」
それ以外の言葉は、由真には思いつかなかった。
青木君のコミュニケーション能力と、メリキナ女史の事務処理能力に、大いに助けられている主人公です。