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417. 初秋の月の主な予定

列車は、カンシアを離れて大草原に入ります。

 ナスティアを出た「ミノーディア11号」は、先月のときと同じように、速度を落として走行する。


 ラミリオ副市長は「線路の条件」と言っていた。

 シンカニオ特急の時速160キロ運行は、日本の場合に照らすと、踏切がなく線形も良好であることが条件となる。

 ナスティアから先は、ことに線形がよくはないのだろう。


 午後6時半に夕食が提供されて、定刻通りの午後7時20分に列車はイトゥニア駅に到着した。

 ホームに降りてみると、白地に青帯のシンカニオ用機関車が最後尾で切り離されていた。



 午後10時に床に就いた由真は、翌朝は午前6時過ぎに起床した。

 草原を走り続ける列車の中では、太極拳すらできない。


 身繕いを済ませると、窓辺に寄せた椅子に腰掛けて、早朝の車窓を眺める。

 単調な草原も、朝日の中では明るく爽やかに感じられる。


「おはようございます。特急『ミノーディア11号』は、現在定刻通りに運行しております。お席の時計はカザリア時間に合わせてございますのでお気をつけください。次の停車駅、アフタマには、カザリア時間の13時ちょうどに到着いたします」


 その放送が流れたのが7時50分。


 そのタイミングで、由真は居室に入る。

 向かい合わせのソファは既に整えられていて、メリキナ女史は例の水晶板を見下ろしていた。


「おはようございます、閣下」

「おはようございます、メリキナさん」


 往路でも毎朝繰り返された挨拶を交わして、由真は上座のソファに座る。


 衛とウィンタも入室してきて、8時過ぎには朝食が配膳された。

 この日は、地元料理の太麺焼きそば「カザロヴラニ」が供される。

 飲み物は――アスマ定番の茶ではなく――羊の乳を発酵させた飲料「アウナラ」だった。


「これ、やっぱりおいしいわね」

 ウィンタが喜色満面で言う。


「ほんとですよね。これ、アトリア辺りだと……」

「ジーニア支部でも、宿泊棟1階にはカザリア料理の店もありますので、そちらに食べに行く人も少なくありません」

 メリキナ女史に話を振ると、そんな答えが返ってきた。


「ただ、このアウナラは、1杯5デニ程度ですので、このように気楽には飲めませんが」

 メリキナ女史は、そう言葉を続ける。


 コーシニアでも1杯4デニのこの乳酸菌飲料は、アスマではどうしても高級品の扱いになってしまうのだろう。



 朝食を終えると、ゆったり流れる車窓を眺めるしかなくなる。


 その流れは、昨日のナスティアからイトゥニアまでよりも更に遅い。


(非電化区間じゃ、仕方ないよな)


 ディゼロで動く機関車を重連にしても、速度には限界がある。


(電化するには、距離が長すぎるし、それに、ダナディア辺境州に隣接してるとなると……)


 魔族と魔物の本拠地。

 そんなところに隣接して、大規模な発電所・変電所と送電網を建設しようものなら、格好の攻撃の的にされてしまう。



 午後1時、昼食が出る前に、列車はアフタマに到着した。

 程なく、特等室の扉がノックされる。


「失礼いたします。コーシア方伯閣下に、雷信をお渡しするよう仰せつかりました」

 駅員らしき男性が、そう言って封書を2つ差し出した。


「「お疲れ様です」」


 メリキナ女史と由真の声が重なる。封書はメリキナ女史が受け取り、駅員は一礼して立ち去った。


 メリキナ女史は、受け取った2つの封筒の表を見ると、1つは裏返して机に載せ、もう1つを手に取って、上辺を指でなぞる。

 すると、あたかもペーパーナイフを使ったかのように、封筒の上辺がまっすぐに切れる。


(メリキナさんも、これ、できるんだ)


 光系統魔法レベル6ともなると、この程度のことは造作もないのだろう。


 そのメリキナ女史は、中に入っていた紙を机の上に載せる。



コーシア方伯ユマ閣下


 御出張大変お疲れ様でございました。

 王国軍及び王国政府の反応は、当方がかねてより想定していた対アスマ圧力の段階が進んだ程度のことであり、当方としても想定どおりに対応したところです。

 大陸暦120年宮内省布告第8号詔書が渙発されたこともあり、アスマ州内に動揺の気配は特段見られておりません。


1 初秋の月1日の予定

 アトリア市知事任官に関連する予定は以下のとおり決定されました。

 なお、午後は知事公邸入居のため休暇の扱いとしております。

(予定)

 9時 知事任官式 於 アトリア宮殿

 9時半 初登庁、副知事・局長対面 於 アトリア市庁

 引き続き 副知事4人より事務概要説明(タツノ同席) 於 アトリア市庁知事室


2 初秋の月の予定

 現時点で確定しております予定は、以下のとおりとなっております。

 特に御関心の事項や御視察先などありましたら、1日の概要説明の折に御指示いただければ対応いたします。

(予定)

 6日 イムリ一家(いわゆる「鬼ごろし」一家)慰霊祭 於 タミリナ中央神殿(祭主 神祇理事セレニア神祇官ユイナ猊下)

 8日 祝賀パレード 於 コーシニア市内

 11日 祝賀パレード 於 ナギナ市内

 25日より 王都御出張


3 元「勇者の団」兵卒14人の予定

 14人については、コーシア冒険者ギルド・北コーシニア支部において仮登録することといたしました。

 セレニア神祇官猊下のほか、支部職員が出迎えに入ります。

 当日以降初秋の月30日までは、同支部の宿泊区画の利用を可能としております。

 到着翌日となる初秋の月1日には、セレニア神祇官猊下が14人全員のステータス再判定を行われるとのことです。


大陸暦120年晩夏の月29日

 コーシア県副知事 タツノ男爵ヨシト



 差出人は――エルヴィノ王子ではなく――タツノ副知事だった。

 常に検閲を受けるカンシアから脱出して、王子の名を使う必要もなくなったらしい。


 由真に関しては、到着の翌日から早速儀式がある。

 ただ、ジーニア支部の宿舎を引き払って知事公邸に入るため、午後は時間が設けられている。


 その後、初秋の月6日に「慰霊祭」がある。


 大陸暦103年初秋の月6日にユグロ・イムリオとユミナ・イムリアが殺害されてホノリア紛争が始まり、大陸暦104年初秋の月6日にリグロ・イムリオが殺害されて、ホノリア2個師団殲滅に至った。


 その「初秋の月6日」に行われる慰霊祭。


 場所は「タミリナ中央神殿」、祭主は「神祇理事セレニア神祇官ユイナ猊下」とされている。

 ユイナは――アスマ最高位の「S1級神祇理事」として、その務めを果たすのだろう。


 その慰霊祭に、由真も出席することとされていた。

 あえて「確定しております予定」の中に含まれているということは、尚書府副長官なりアトリア市知事なりという公的な立場での参加ということだろう。


 慰霊祭が終わると、初秋の月8日にはコーシニアで、11日にはナギナで、「祝賀パレード」が行われる。


 タツノ副知事と初めて対面したときに、由真は「パレードはいりません」と明言していた。

 それでもこの予定が組まれているということは――由真自身が望むと望まざるとにかかわらず、両方とも開催が望まれているのだろう。


「みんなは、コーシニアで降りるのか」

 衛に言われて、由真も「3 元『勇者の団』兵卒14人の予定」に意識を移す。


 由真たちが到着したときには、ジーニア支部の宿舎に直行し、翌日にはユイナがステータス再判定を行った。

 今回は、北コーシニア支部が受け入れ先になって、同じ手順がとられるらしい。


「みたいだね。まあ、僕のとこで面倒を見る、って殿下にも上申したから、そういうことになったんだと思うよ」

「しかし、コーシニアで放り出すような格好になると、みんなも不安にならないか?」

 由真の言葉に、衛はそう問いかけてきた。


 確かにそのとおりではある。しかし――


「けど、僕は、次の日は、朝一からこれだし……」

 由真は、「1 初秋の月1日の予定」を指さしてそう答える。


 ことに午前中は、任官式、市庁幹部との顔合わせ、業務説明と予定が続く。

 しかも相手は、州都アトリア市の副知事4人で、更にタツノ副知事も同席する。


「俺が、みんなと一緒に降りて、北コーシニアに入る。みんなも、多分、今は『女子』の由真がわざわざついて行くより、男子の俺がいた方が、気が楽だろう」


 衛にしては饒舌なその言葉を、由真は否定することができなかった。

 そもそも、今回衛に同行してもらった最大の理由も、「男子同士の方がコミュニケーションしやすい」というものだった。


「それじゃ、申し訳ないけど、衛くん、みんなのこと、お願いできるかな」

 由真がそう言うと、衛は、「ああ」と短く答えた。

帰り着いた次の日には知事に任官されて、早速仕事が入ってきます。

14人のフォローは、衛くんが買ってくれることになりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう一枚は明日か・・・・・・・・・ 章分けはしないのですか? 毎日更新を頑張って下さい。
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