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415. 晩夏の月の旅立ち

いろいろあったカンシア出張を終えて、主人公たちは列車に乗ります。

 帰りの特急「ミノーディア11号」。


 由真たちは、往きの「ミノーディア12号」と同じく、1号車の特等個室に由真とメリキナ女史が入り、衛とウィンタは同じ1号車の一等寝台に乗る。


 C1班とC2班の14人に用意されたのは、4号車の3番・4番・5番・6番・7番・8番・9番の各寝台の上下段。

 一等寝台の2・3号車を除けば1号車に最も近い4号車を、ほぼ貸切で使う形になった。


 由真が特等車を利用する「政府首脳」ということで、14人も含めて特別待合室を利用することができた。


 前回は、由真以外の全員が、ここでウィンタが預かっていた通行手形をユイナから手渡された。

 今回は、14人の分の緊急通行手形と緊急出境証は、アスマ公爵王都邸宅滞在中に既に発給されている。

 由真たちは、出発前に発給された国務通行手形を――


「ところで、ウィンタさんは、通行手形のたぐいは……」

「失礼いたします、ボレリア博士」

 由真が問いかけたタイミングで、係員とおぼしき女性がウィンタに声をかけてきた。


「博士の通行手形、こちらのとおり再発行されました」

 そう言って、その女性はウィンタに通行手形を手渡した。


「わざわざ済みません」

 ウィンタは、そう言ってその通行手形を受け取る。


「ちなみに、これまでの通行手形は……」

「えっと……これですね」

 係員の女性に言われて、ウィンタは、手提げ鞄から通行手形を取り出した。


「それでは、そちらの方は、こちらで処分させていただきます」

 そう言って、係員の女性はウィンタから「これまでの通行手形」を受け取ると、一礼して立ち去った。


「ウィンタさん、通行手形再発行ですか」


 昨日付で騎士爵を授与されたウィンタは、氏名すらも「ウィンタ・リデラ・フィン・ボレリア」に変わっている。


 前回、神祇官に任ぜられたユイナは、当日付の身分変更を反映して、「ユイナ・アギナ・フィン・セレニア」名義の通行手形の再発行を受けていた。


 ユイナのときと全く同じ措置が、今回はウィンタに執られた。届けられた場所も、同じ特別待合室だった。


「王都庁だと、この手のは1ヶ月くらい平気でかかるんだけどね。首席国務大臣コーシア方伯ユマ閣下の御利益、ってとこ?」

 ウィンタは、そう言ってにやりと笑う。


「ちなみに、国務通行手形の方は、今回1回限りとして発行されておりますので、昨日付の身分変更を反映する修正は特に行いません。ジーニア支部に戻り次第、研修中の仮身分証は再発行となります」

 メリキナ女史がそう補う。


「ま、どのみち、ユマ様と一緒なら、こないだみたいなことはないでしょ」

 ウィンタはそんなことを言う。


 24日にナスティア駅から入境したときは、メリキナ女史が水晶板を見せただけで、手荷物の検査すらなかった。

 出境にしても、おそらく同様だろう。



 時計が11時半を回ったところで、由真たちは特別待合室を後にする。

 見送りに来たルクスト事務局長たちとは、ここで別れることになる。


「それでは、今回はお疲れ様でございました」

 ルクスト事務局長はそう言って、そして2人の職員とともに頭を下げた。


「いえ、事務局長こそ、大変お疲れ様でした。来月、またお手間をおかけすると思いますけど、よろしくお願いします」

 由真はそう応えて、メリキナ女史、衛、ウィンタとともに礼を返した。



 ホームに出ると、両端がシンカニオの白地に青、その間に藍色の客車が並ぶ列車が、既に停車していた。


「これ、連節なんだ」

 小栗忠彦が、そんな声を上げる。


「ああ、そうだね。こっちのシンカニオは、全部このタイプなんだ。フランスのTGVのまねだろうけどね」

 自分以外の人の口から「連節」という言葉が出てきて、由真はそんな言葉を返した。


「シンカニオ?」

 小栗は首をかしげる。


「シンカニオは、こっちの、新幹線もどきだね。カンシアでも、特等の客がいるときは、乗り心地とかは無視して320キロ出してるらしいよ」

「って、これ、シンカニオなの?」

 小栗は、大仰に目を見開いた――ように見えた。


「まあ、そうだね。在来線は160キロ、高速新線のシンカニアだと……」

「それ……僕ら兵卒には、一生縁がない、って言われた奴だよ」

 由真の言葉の途中で、小栗はそう言ってため息をついた。


 北部列車の由真たちに対する態度から見れば、住人にとってシンカニオは「一生縁がない」のは確かだろう。

 その住人と同様に扱われている「兵卒」全般にとっても同様のはずだ。


 しかし、由真たちがこれから向かう先、アスマでは――


「アスマだと、基本三等車のシンカニオが270キロで走ってて、身分とか関係なしに使われてるよ。あっちのは、普通のボギーで動力分散方式だから、日本の新幹線に近いね」

「へえ、そうなんだ」

 由真の言葉に、小栗の顔は明るくなったように見えた。


(小栗君、鉄道ファンなのかな? なら、もしかして……)


 アスマの鉄道の更なる高度化に向けて、有益なスキルが期待できるかもしれない――などと思ってしまう。



 14人は4号車に乗り込んだ。

 寝台には番号も表示されていて、特に混乱なく席に着いた様子だった。


 それを確認して、由真たちは1号車に入る。

 これで3度目になる車内で、由真は一番奥の寝室に背嚢を置き、メリキナ女史はその手前の居室に鞄を置く。

 ウィンタと衛は、大きなボックスシートとなっている一等寝台に荷物を置いて、特等室の居室に入ってきた。


 一行を乗せた「ミノーディア11号」は、定刻通りの12時ちょうどに、セントラ北駅から発車した。

1ヶ月前と同じ列車で、14人とともに、王都セントラから出発しました。

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