414. 邂逅 (3) しばしの別れ
彼女たちは、それぞれが今行く道に歩き始めました。
今回も、主人公視点・三人称の「Side 由真」と幼馴染み視点・一人称の「Side 聖奈」が同じ話数に並んでいます。
【Side 由真】
「あれが、例の、女の子2人?」
ウィンタの言葉で、由真の心はようやく「現実」に戻った。
「普通の女の子……それも、いい子みたいね」
ウィンタは、そんな言葉を続ける。
「一緒にいた男どもは……上から下まで、王国軍に染まってるみたいだけど」
一瞬出くわしただけのウィンタは、「一緒にいた男ども」――平田正志や毛利剛、それにB1班・B2班の12人に対して、彼女の毛嫌いしている「王国軍」になぞらえた形容を示した。
前方を見ると、嵯峨恵令奈に肩を支えられた聖奈が、その「男ども」の乗るバソに向かっている。
「まあ、確かにそうですね」
そう応えつつ、由真は掌をかざす。
「『彼らの女性への行動を暫し止めん』」
2台のバソに分乗した「男ども」合計14人の、女子2人に対する余計な行動を止める。
精神に働きかける術式なので、効果のほどは自信が持てない。
それでも、あの2人がプライベート空間に落ち着くまで、しばしの間の静謐を、せめて確保できれば。
そんな思いと込めて、由真は呪文を詠唱した。
「とりあえず、僕らも、行きましょう」
「そうね。あの子たちはともかく、あの男どもは、正気になったら何をするかわかんないものね」
由真の言葉にウィンタもそう応えて、そして歩き出すと――
「由真、話は、もう済んだのか?」
――正面に立っていた衛が、由真にそう問いかけてきた。
「うん。……まあ、とっさだったから」
由真はそう答える。
「みんなは……」
「メリキナさんたちが、待合室の方に連れて行った」
14人のことは、メリキナ女史とルクスト事務局長たちに任せて、衛は――万一の場合に備えて――ここで由真たちを待っていたのだろう。
ふと目を向けると、度会聖奈と嵯峨恵令奈は、「軍用」と言われた黒いバソに向かって歩いていた。
「まあ、来月、また来る、って話はしてあるから、そのとき、ゆっくり話すよ」
「……そうだな」
衛はそれだけを答える。それが――どんな巧言令色よりも、由真の心には温かく感じられた。
【Side 聖奈】
ヨシたちは左の方に歩き出して、そしてあたしは――嵯峨さんに肩を支えてもらいながら、右の方のボンネットバスに向かう。
「度会さん、よかったね、渡良瀬君と会えて」
嵯峨さんのその言葉。
あれは――姿形は、あたしと同じくらいの背格好の女の子「由真ちゃん」になってたけど――中身は、確かにヨシだった。
会えないと思ってた。
会うとしたら、「勇者の団」との戦争で、あたしはまとめて倒される方――そんな風に思ってた。
そのヨシと、会うことができて。
話すこともできて。
来月また会うって約束までして。
また、嗚咽が上がってきそうになる。
「度会さん、来月も、また、会えるから、だから、大丈夫だよ」
確かに、ヨシは、そう言い切ってくれた。
何回か、深呼吸して。
どうにか、嗚咽は止まってくれた。
「そう……だね。来月、また会えるよね」
今までは、嵯峨さんに気を遣ってただけの言葉が、今は、ほんとの本心から出てきた。
もう1回深呼吸したら、心の奥に、さあっ、とそよ風みたいなのが吹いて。
そして、胸元の何か――それまであたしに重くのしかかってたそれが、ふっと軽くなった。
セーラー服の襟元に手を伸ばしたら、石でできたペンダントがあった。
『賢者様、こちらは『アマリト』と申しまして、こちらの世界の護符です。上の指示で、勇者様と、サガさん、モウリさんのために作成いたしました』
先月、ダンジョンに入る直前に、セレニア神官がそう言って渡してくれたものだった。
『一つだけ、御注意をいただきたいのですが、こちらの『A級アマリト』は、効果は絶大なのですが、MNDが300を超えていないと、精神面への負荷が大きくなり、情緒不安定、あるいは、特定の偏った方向に思想が硬直する、そういった現象に見舞われます。
賢者様のMNDは、現在230です。こちらをお持ちになる際には、精神修養に努めていただき、こちらに振り回されることのないよう、そして、MNDが早く300を超えていただけるよう、鍛錬に励んでいただければ幸いです』
セレニア神官が付け加えたその言葉を――あたしは、今の今まですっかり忘れてた。
もしかしたら、今までのいろいろは、このお守りに「振り回されてた」からなんだろうか。
ヨシに、もう2度と会えない、っていう思い込みが、そのせいで強くなったんだろうか。
嵯峨さんは、いつも落ち着いてた。彼女は、MNDが300以上なんだろう。
でもって、あの勇者様と毛利は――
いや。
そんなのは、もうどうでもいい。
この「A級アマリト」。
系統魔法が上達したのは、多分これのおかげ。
でも、こんなに振り回されたのも、多分これのせい。
どっちにしても。
ヨシとは、今日はもう離ればなれになってしまう。
けど。
ちょうど1ヶ月後に、また会える。
そのときまでに。
この「A級アマリト」にこれ以上振り回されないようにして、これをもっと使いこなす。
王都には魔法の本があるなら、それも読んで研究して、系統魔法も、もっと力をつける。
せっかく「魔物対策小隊長」になったんだから、魔物討伐も、できるだけきちんとこなす。
あと、嵯峨さんをアスマに亡命させる方も、ちゃんとフォローする。
そして。
ヨシの隣に立っても、足を引っ張ったりしない。
せめて、「パーティーの仲間」くらいは勤められる。
そんな「魔法導師」になってみせる。
「嵯峨さん。あたしも、もう大丈夫だから」
「度会さん、よかった」
そんな言葉を交わして、嵯峨さんとあたしは頷きあって。
そして、前に向かって歩き出した。
――由真と聖奈の邂逅、3回に分けてお届けしました。
今回のカンシア出張編、目的は、「カンシア勢」のC1班・C2班の救済、因縁の相手である両元帥との対決、そして、この邂逅シーンの3つでした。
ここからは、キャラ語りを兼ねて。
このお話の連載を開始したのは2020年の12月。
その頃のなろう界隈では、「幼馴染み絶縁」が一つのムーブメントだった――と、書き始めた頃はそんな印象でした。
この度会聖奈は、「絶縁される幼馴染み」というテンプレの役回りを負ったキャラクターでした。
当初は、主人公・由真が「ざまぁはしません」という程度で、聖奈はテンプレのキャラだったのですが…
掘り下げていくうちに、彼女が奈落の底に一直線――という展開にはできない、という思いが強くなってきました。
(いただいた貴重な感想の中でも、聖奈には救済や和解が望まれている、という印象もありました)
「149. 度会聖奈の溜息」から「379. 度会聖奈の変容 (1) 孤独と不信」まで、話数としては230話、作中時間は1ヶ月近くを経て、(感情のブレ幅は激しいものの)自助努力するようになり、同性の嵯峨さんには気遣いもできるようになって、そして「413. 邂逅 (2) 対話」での再会と和解という流れとしました。
彼女とともにカンシアに残っている嵯峨恵令奈さんは、「4. ステータス」の時点で「陽キャ」と言及しておきながら、その後「孤高の人」状態になってしまっていたので、今回の一連で「本来の性格」を描写してみたつもりです。
「陽キャ」というよりは、気遣いができて同性の輪を作ることができる人物ですね。
仕掛けのうち「翻訳スキル」は、感想で見抜かれてしまいましたが、意図としては、前回のとおりです。
もう一つの仕掛けが、今回出てきた「A級アマリト」です。
「72. アマリト」で設定に言及してあったのですが、MNDが320ある嵯峨さん以外は、230の聖奈にすら荷が重い代物でした。
アスマ勢冒険者組も同じものを持たされていますが、衛くんはMND630、和葉さんも450なので、2人ともノープロです。
(ユイナさん自身(1500)と晴美さん(1580)は更に上位の「S級アマリト」を持っています)
ともあれ、1ヶ月後の再会を約束して、由真と聖奈はそれぞれの道に進みます。