412. 邂逅 (1) 遭遇
時刻は11時。
セントラ北駅12時発の特急に乗る主人公たち。
セントラ北駅11時着予定の特急に乗った「勇者の団」。
その両者が――
今回は、主人公視点・三人称の「Side 由真」と幼馴染み視点・一人称の「Side 聖奈」が同じ話数に並んでいます。
【Side 由真】
駅前のロータリーは、正面には客車2台が連なったバソ――一昨日乗った北西回廊に向かう乗合バソが停車していた。
その後ろ――向かって左側にも黒いバソが2台停車している。
「あれは軍用ですので、回廊バソの前の方に止めてもらいましょう」
事務局職員がそう言って、マイクのようなもので前方のトラカドに指示を出す。
由真たちの乗ったバソは、連結の乗合バソの更に前方に停車した。
一番後ろに座っていた由真が先頭に出て、次に衛が下車し、C1班・C2班の14人が続く。
ウィンタにメリキナ女史、ルクスト事務局長と事務局職員たちもバソから降りて、そして向かって右側の「王都列車 セントラ北駅」の方に歩き出す。
(って、これは……)
無意識で展開していた索敵魔法に、「何か」が引っかかる。
違和感、あるいは予感というべきそれ。
改めて周りを確認する。
ここは、公衆が往来する空間で、紅虎の神使の守護もない。
この場でなら、衛兵隊が襲撃してくる可能性もある。
由真は、他の面々には悟られないようにしつつ、精度を高めた索敵魔法と魔法解析を展開する。
北部列車の改札から近づいてくる人々が、合計20人。
そのうち1人は、膂力だけは衛をもしのぐ。
他に1人、やはりこの世界の人間の規格から外れた膂力の主がいる。
更に2人ほど、気力と魔法能力の高い――素地だけならウィンタにも匹敵しそうな者もいた。
前方の4人、後方の2人は、戦闘能力も並程度だった。
それ以外の12人は、少なくとも、後ろにいるC1班・C2班の面々よりは「強い」。
それほどの者たちが、これほど多人数で列をなしている、ということは――
そちらに目線を向けてみる。
最初に目についたのは、他ならぬあの男――「勇者」平田正志子爵だった。
その横を歩いていたのは、「拳帝」毛利剛男爵。
その少し後ろには、セーラー服――由真たちの高校の冬服に身を包んだ少女2人が続く。
折悪しく、彼らの目線もまた、由真たちに向けられていた。
とっさに指をスナップして、ユイナからまねた「注意をそらす術」を発動する。
それで――魔法耐性のない14人の視線と関心は、こちらから外れた。
しかし、魔法耐性のある2人には、その術は効かなかった。
「衛くん、みんなを連れて、待合室に入ってくれるかな」
由真は、傍らの衛に切り出す。
「……由真?」
「まずい。奴らと、鉢合わせしたみたい」
その言葉で、衛も駅舎に目を向けて、そしてそのことに気づいたようだった。
「……わかった。みんな、こっちに来てくれ」
そう言って、衛は14人を連れて、右側にある王都列車の方の区画へと歩き出す。
メリキナ女史も、ルクスト事務局長と職員たちも、衛たちとともに道を急ぐ。
「ユマちゃん、もしかして、あれは……」
ただ1人立ち止まったウィンタが、由真に問いかけてきた。
「はい。『勇者の団』です」
その「勇者の団」は、平田正志、毛利剛を初めとする合計14人が――由真たちのことを忘れたかのように――向かって左の方向に歩き出す。
残ったのは、由真たちの高校の冬服を着た女子2人だった。
【Side 聖奈】
あたしたちが乗った列車は、11時5分に終着駅に着いた。
降りたら、軍曹っぽい人が6人迎えに来てた。
ここでも「入境審査」っていう看板があって、あたしたちはやっぱり軍のなんとかだからスルー。
ついでに改札も抜けて、駅の前に止めてある車に乗る。
お迎えの人たちに案内されるままに、歩いていたその先に。
目についた、白いセーラー服。
あたしたちの高校の夏服。
それを着てる女子。そんなの、この王都には、1人しかいない。
その後ろに、ワイシャツを着た男子、そして学生服の男子の団体が続いてた。
「あ……あれは?」
そして、あたしも気づいたその姿に、平田君もやっぱり気づいた。
「あれは、まさか……あいつ? それに、一緒にいるのは……」
その目が険しくなる。
それはそう。
だって、あたしたちの正面を歩いてた「男子の団体」は、C1班・C2班の14人だったから。
一緒にいる夏服っぽいワイシャツを着た男子は、仙道君だった。
その先頭に立ってる、あたしたちの高校の夏服を着た女子は――
「あいつらが……」
平田君が声を上げかけた、その瞬間。
あたしたちの精神を、冷たい風みたいなのが通り抜けていく。
あたしはとっさに身構えた。
けど、平田君とか毛利とか、島津君とか浅野君とかは、無防備にそれを浴びて。
そして、何事もなかったように、そのまま右に歩き出した。
叫びかけた平田君なんて、その原因――前を歩いてるあの子たちのことを、きれいさっぱり忘れたように見えた。
「度会さん、あれ……」
あたしの横で、嵯峨さんが耳打ちしてきた。
嵯峨さんも、やっぱりさっきの「術」はやり過ごせたみたい。
前を見ると、あっちも、仙道君が引っ張って、14人が急ぎ足で左の方に向かう。
そして、あたしの前には、うちの高校の夏服を着た女子と、ワンピースを着て杖を持った女の人が残った。