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40. 仙道衛のモノローグ (4) 渡良瀬由真の戦い

仙道くんの視点から見た由真ちゃんのバトルです。

 次の週になって、手に持つ武器が木剣から刃引きされた銅剣になった。

 それは、相沢が予想したとおり、刀身が広く重い西洋剣だった。その重さでは、確かに木剣のような手先を使った技は難しいと思われた。力尽くでやっていては、手首を痛めてしまう。

 幸い、実物を渡されたため、この週の自主練は、この銅剣を使って取り組むことができた。


 そして金曜日、再び「実戦試合」が行われることになった。

 今度は、桂木、毛利、俺、平田の上位陣4人の勝ち抜き戦と称して、そこになぜか渡良瀬が加えられた。



 まずは、桂木と渡良瀬の対戦。剣を持つ桂木の動きは速い。さすがはバドミントンの全国レベルだった。


 しかし渡良瀬は、巧みな体さばきで桂木の斬撃を紙一重でかわす。しかも決して後ろには退かず、桂木の脇から背後、隙の在る空間へと回り込む。

 桂木は、すぐに身を翻して反応はしているものの、大きく激しい動きを強いられている。


(これだ……これだ。これが、俺が見たかった『渡良瀬由真』だ!)


 相対した者の動きを完全に読み切り、その動きを完封する。しかも自らは、決して隙を見せることなく。これこそが、俺を1年間虜にしてきた「渡良瀬由真」だった。


 モールソ神官が、杖をふるって何か仕掛け始める。すると、渡良瀬はセーラー服の胸ポケットからボールペンを取り出す。


 そして。


 桂木が剣を鋭く振り下ろす。その腕を押さえて、渡良瀬の手が桂木の首に寄せられた。

(あれは、確か炮拳(パオチュアン)だったか)

 渡良瀬の形意拳の一つで、踏み込みながら順手を跳ね上げ逆手で突きを入れる動作。その要領で、桂木の攻撃は止められた。



 続けて、渡良瀬は毛利剛との対戦に臨む。


 先々週は、毛利が渡良瀬を大外刈で倒し、縦四方固で押さえ込み、最後は絞め技で失神させたという。その経緯を見ていたはずのグリピノ神官は、止めるどころかむしろけしかける始末だった。


 試合開始が宣告され、毛利は無遠慮に渡良瀬に近づく。

(どうするんだ渡良瀬)

 毛利が渡良瀬をとらえて大外刈の動きに入った、その瞬間。


 紺色のハイソックスに覆われたみずみずしい両脚が華麗に踊る。回転する身体を軸に、制服のスカートが優雅に舞い上がる。


 上半身は背負投げの形で、毛利の巨躯が宙に浮き床に叩きつけられた。現役の柔道部員に受身を取ることすら許さない投技が完璧に決まった。


 その腰から下の華麗な動きが示した事実。

 渡良瀬は、足も腰も触れることなく、毛利を投げ飛ばした。

 いわゆる「空気投げ」。この技は「浮落」。大外刈をすかして放たれたその決まり手は、教則通りの理想的な「大外透」だった。


(柔道すら……これかよ……)


 興奮と感動のあまり、俺は思わず立ち上がり、そして相沢の「判定」を訂正した。


「そのとおり、さすが仙道君だね。……素手の上に防具もない僕じゃ、とても勝ち目なんかないよ」

 渡良瀬は、ふう、と息をついてそう言って、こちらにほほえんで見せた。その笑顔に、胸がきつく締め付けられる。


 ともかく、剣を持っていない上に鎧もない渡良瀬と試合をするつもりはなかった俺は、渡良瀬を「棄権」扱いとして最終戦に進めるよう提案し、セレニア神官がそれを受け入れた。


 試合を終えて引き下がる渡良瀬に、俺は

「渡良瀬、お疲れ」

と声をかけていた。当たり前の挨拶。そう、これはあくまで当たり前の挨拶だ。


「仙道君、糸くず、ついてるよ」

 すると渡良瀬は、そういって俺の肩口に手を伸ばして、糸くず(があったことに俺は気づいていなかったが)をつまみ取った。


「ん、これで大丈夫。……頑張ってね、仙道君」

 渡良瀬は、そういって俺の肩を叩くと、再び微笑を向けて、そして相沢たちのところに向かう。その後ろ姿を見ていると、顔が甘くしびれ、頬がなぜか緩んでしまう。


(って、いかん。しっかりしないと)

 ――部活漬けで女っ気のなかった中高4年間のせいか。今の「美少女」な渡良瀬の態度に面して、思わず思春期男子の本能が反応してしまったらしい。


(そうだ、しっかりしないと、またやられる……)

 試合の舞台に上がってきた相手――平田正志に目を向ける。


(この2週間で、こいつは、だいぶ強くなった)


 騎士や兵士を相手に剣の練習を重ねたためか、その動きは「剣技」の領域に達していた。

 あの「力」と「速度」に「技」が加わった今、この男はきわめて危険だった。

彼は、「由真くん」に焦がれていたのです。

ちなみに、柔道技に関する脳内の解像度も、彼は柔道部員と同等以上になります。


そして次回、彼にとっての因縁の再戦です。

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