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401. 御前対決 両元帥vs由真 (2) 「勇者の団」

先代「賢者様」の攻撃ならぬ口撃です。

「小賢しいな、小娘」


 対面に座る「賢者」ボルディア元帥が、そう言いつつ眼鏡越しに由真をにらんでいた。


「それは、アスマが王国に反旗を翻し、主要物資の供給を止める、すなわち、アスマはノーディア王国と『経済戦争』を始める、と、そういうつもりか」


 レゴラ経済大臣の「恐喝」に「恐喝」を返したら、その揚げ足をとるような指摘が来た。


「『主要物資の供給を止める』、と言い出したのは、そちらのレゴラ経済大臣の方でしょう。僕は、レゴラ大臣の言うような禁輸措置が仮に実行されたなら、反作用が起きて、それがあなたがたにどう影響するか、と……そういう仮定の話をしただけです」


 そもそも、禁輸云々と先に言い出したのは、由真たちアスマではなく、彼らノーディア王国の方だった。


「なるほど、実に(さか)しらな……」

 すると、相手はそんな言葉を返してきた。


(賢しら、ねえ……)


 辞書に載る字義としてはともかく、実際のところは「賢い相手」を罵る際に使われるその言葉。

 まして、この相手は「召喚者」である以上、その言葉は日本語のそれのはずだ。

 それが向けられた、ということは、この「賢者」は、由真を「賢い相手」とは認めざるを得ないということだろう。


 そう思うと、由真の心にはゆとりすら生じた。


「だが……貴様の企みそのものは、『勇者の団』を引き裂こうとするもくろみは、世界に敵対するものに他ならない」


 その「賢者」は、そんな言葉を続けた。


「貴様ごときには、関係のないことだが……我々も、かつて『日本』からこの世界に召喚された。そして、我らは『勇者の団』を組み、与えられた『ギフト』を活かして、魔王を倒し、さらにはアスマからメカニアを獲得して、ノーディア王国の繁栄を築き上げた」


 その事情は、既にタツノ副知事から聞かされている。


「タツノ副知事を、すぐに『追放』した『勇者の団』ですか」

 由真の口から、そんな言葉が出てきた。


「『タツノごときは役に立たない』……などと言わせるつもりはありません。タツノ副知事は、エンジニアとして、民政家として、そして、アスマの摂政・関白として、アスマの揺るぎない繁栄を築き上げた方です」


 その歴然たる事実は、誰にも否定できない。いや、否定させない。


「ノーディア王国の、『力』だとか『繁栄』だとか、その礎を作ったのは、あなたがたではなく、タツノ副知事です」


 堅実な力量をもって、アスマの内政に貢献した人物。

 系統魔法が全種類使えるだけが条件の「賢者」より、タツノ副知事の方がよほど「賢人」の名に値する。


「まあ、それは、お話のとおり、今の僕には関係のないことですけど」

 軽いため息とともに、由真はそう言ってタツノ副知事の話題を終わらせる。


「皆さんは、確か7人が召喚されて、S級の元帥大将軍が2人、A級が2人にB級が3人と、ずいぶん選りすぐりだったみたいですね。それが、いったんは全員そろって『勇者の団』の仲間になられたのなら、なるほど強い戦力でしょう。

 けど、今の『勇者の団』は、39人が召喚されたのに、結成前に9人を追い出して、今の顔ぶれは、S級1人、A級3人にB級が12人。B級の頭数は多いとしても、皆さんとは、とても比べものになりませんね」


 単純に数字を並べただけでも歴然としている「そのこと」。

 今の「勇者の団」は、「戦力」としては「烏合の衆」といってもよい。


「そもそも、最初の段階で9人追い出したなら……C級の14人を外して、何が悪いんでしょう?」

「ほざくな小娘! 追放した9人は、使い物にならない不良召喚者だ!」

 ボルディア元帥の斜め後ろに座った軍人が金切り声を上げる。


「軍務大臣、下問なき発言は、控えられよ」

 そこへ、ワスガルト宮内大臣の「注意」が下る。


「何の価値もない不良召喚者どもを、選抜された『勇者の団』を同列に語るな!」

 しかし、その軍人――アルキア軍務大臣は、叫びを止めない。


(不良召喚者、ねえ……)


 当然のように繰り返されるその言葉が、由真の心に火をつける。


「すると軍務大臣、追放された9人は、実力もない、何の価値もない、役立たずの『不良召喚者』だ、と?」

「そう言っているだろう!」

 由真の問いかけに、アルキア軍務大臣は間髪入れずに叫ぶ。


「アイザワ子爵、カツラギ男爵、それにこちらのセンドウ男爵。あなたがたが追い出したこの3人は、冒険者となり、そして、先ほど陛下が仰せになった戦いで、竜を倒し、魔王四天王をも下しています」

 まず事実を指摘して――


「この3人を、あなたがた()()()が『役立たず』と呼ぶ訳ですか?」

 挑発を込めて多少言葉を選んでやると――


「何だとぉっ?!」

 ――軍務大臣は、国王の面前という場も忘れたのか、叫び声とともに立ち上がった。


「独力では、ダンジョン1つろくに陥とせなかった。アスマの要害を16年間も奪われたままだった。そんなあなたがたが、いったい何の役に立つのでしょうね?」

 由真は更に挑発を重ねる。


「お、おのれ村娘! それ以上口をひら……」

「軍務大臣。陛下の御前である。口を慎まれよ」

 アルキア軍務大臣が叫びかけたところに、ワスガルト宮内大臣が氷水のような「注意」を下した。


「う、ぐ……」

 声を詰まらせて、軍務大臣は不承不承に席に座り直す。


「何をどれだけ譲ったとしても……今の『勇者の団』のB級12人、全員が束になったところで、このセンドウ男爵1人にも勝てないでしょう。まして、アイザワ子爵と正面から戦ったら……軍隊の3個師団程度は、簡単に氷漬けにされますよ?」


 王国軍が「不良召喚者」と呼んだ衛と晴美の「力量」を、由真は強調する。

「賢者」の揚げ足取りを避けるため、「王国軍と戦えば」――と直接には言わずに。


 実際、晴美がその力量を「弱小な烏合の衆向け」に調整すれば、アスマ軍の数個師団程度はたやすく撃退できるだろう。

 由真は、そのことには確信を持つことができた。


 軍務大臣は、歯がみとともに由真をにらむばかりで、何も言い返さなかった。

 それを見て、由真は「賢者」ボルディア元帥に目を向ける。


「召喚された39人は、S級が2人にA級が5人。ここまでなら、先代もしのぐ戦力でしたね」


 今度は「召喚された39人」の数字を並べる。

 S級は同じ「2人」でも、A級は「5人」。先代の「2人」の倍を超えている。


「けど……そのうち、S級1人にA級2人、それも、これほどの実力者たちを、あなたがたは『役立たず』呼ばわりして追放した。おかげさまで、アスマの冒険者ギルドは、戦力が一層充実した訳ですけど……残った彼らだけで、魔王だとか魔将だとかと、まともに戦える、と?」

「単純な、力量の問題ではない。『勇者の団』には、清廉な精神、そして王国に対する揺るぎなき忠誠心も求められる。それを欠く者は、たとえS級であろうと、追放するのは是非もない」

 ボルディア元帥の口から、今度はそんな言葉が返ってきた。


「なるほど? それなら、C1班・C2班の14人の中で、『王国に対する揺るぎなき忠誠心』のない人は、こちらで引き取っても何の問題もありませんね?」


 まともな食事を与えられて、全員が即座に「亡命」を希望した彼ら。

「元の環境に戻される」と言われて、「忠誠心」とやらを示す者など、間違いなく皆無だろう。


 ボルディア元帥は――「兵卒」とされた彼らの「忠誠心」の程度はさすがにわかるのか――言葉を返さず、ただ由真をにらむばかりだった。


(なんだ、この『賢者様』も、結局語るに落ちたか)


 この「舌戦」の勝利が見えた、と由真が思ったそのとき。


「ええい、黙れ小娘!」


 ――そんな叫びとともに、激しい足音と金属音が鳴り響いた。

追放されたアスマ勢には、既にれっきとした実績があります。その事実までは覆すことができない以上、「賢者様」も論破ルートです。

タツノ副知事の因縁も軽く意趣返し。

何しろ、ダンジョンを陥として砦を奪還した本人が、副知事本人からも詳しい話を聞いていますので。


そして――次回に続きます。

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[一言] 敵と相対して、順番に論破?
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