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39. 仙道衛のモノローグ (3) 戦いのあと

1回目の試合が終わって、妙な術がかけられて(それを由真ちゃんが即座に解呪して)、太極拳講座が始まって―という時期、バトルを終えた彼は…

 その週末、身体は妙に重く、精神も気怠かった。

 常の自主練場所に行こうという気力もわかず、部屋に配給される食事を漫然と取り、後はベッドに寝転がっていた。


 週明けの授業。午前の座学は生物学が加わった。

 ――理科は必修化学に選択物理の俺は、生物には苦手意識があった。そのせいか、精神的には余計陰鬱になってしまう。


 午前後半と午後にわたって続く武芸。俺は、平田と対戦させられるのを恐れつつ、素振りなどをして過ごした。


 それが終わって。

 自主練に向かう気力など当然ない――と思っていたものの、相沢や島倉美亜・七戸愛香とともにそちらに向かう渡良瀬の姿を見た瞬間、心身を覆う黒いものが晴れて、そのまま後を追ってしまった。


 島倉と七戸は、今回から自主練に参加することになったらしい。

 1年時から相沢と同じクラスで親しい2人は、基礎体力の強化を図るのだろう。


「そういえばユイナさん。あのこと、仙道君にも、言っておいた方がいいですよね?」

 渡良瀬がセレニア神官に言う。

「あ、そうですね。センドウさん、実はですね……」

 そういってセレニア神官が切り出したのは――



 一昨日のステータス判定の直後、神殿幹部の意向で、俺たちに「術」が仕掛けられた。

 俺たちの力を吸い取って、平田・度会・毛利の3人に重点的に振り分けるのだという。


「このお三方は、ここの幹部の皆さんから重要な戦力と見られてまして……逆にアイザワさんは、『まつろわぬ者』として寧ろ疎まれていて、それなのにレベルが8も上がってますから、力を絞るだけ絞ってもいいだろう、ということで……」

 確かに、渡良瀬の待遇を巡って神殿側と対立している相沢は、「レベル64」から「レベル72」に上昇していた。「伸びしろ」が小さいはずの上位レベルでこの成長。相沢を敵視する側からみれば、それは脅威以外の何物でもない。


「それと、センドウさんも……『守護対象』に勇者様を指定されていませんよね? 最初のときも、アイザワさんに賛同されてましたし……ここの幹部の皆さんは、そこを警戒してまして、『守護対象』を指定するまでは、押さえつけておいた方がいい、と……」

 相沢を「敵視」する側にとって、俺は「敵」か「味方」か。わかりきったことだ。


「『ラ』を搾り取る術式は、センドウさんには特に強めに施されてまして、……この週末、心身に倦怠感とか不調とか、ありませんでしたか?」


 ――そういうことだったのか。

 この週末の心身の変調は、その「術式」のせいだった。


「はい。外に出る気がおきないくらい、体力的にも精神的にも参ってました」

 俺は、セレニア神官に率直に答えた。


「仙道君、それでね……」

 そこで、渡良瀬が口を切った。


「実は、この術式、仙道君だけじゃなくて、うちのクラス全員にかけられてるんだ。BクラスとかCクラスのみんなも、『ラ』が搾り取られて、それを『勇者様』たちに振り分ける。そういう風になっててね」

 Cクラスに至るまで「搾取」の対象として平田たちのレベルを上げようとする。その精神性は、俺の理解力を完全に超えていた。


「島倉さんと七戸さんは、今でも伸び悩んでるとこでそんなことされたらたまらないから、術は解呪した。あと、僕は『従者』だから、晴美さんのも解呪してある」

 渡良瀬はあっさりと続けた。


「『解呪』? できる……のか?」

「まあ、モールソ神官が仕掛ける程度の術なら、簡単だから」

 渡良瀬の答えは、やはりあっさりしていた。

 渡良瀬は、相沢とともに午後は魔法の授業を受けている。その魔法においても――渡良瀬は「天才」だということだろう。


「それで、よければ、仙道君のも、解呪しようかと思って……」

 渡良瀬は、俺を見上げてそう切り出してきた。

「あ、ああ、……できるなら、是非やってほしい。体も気分も、重くて仕方ない」

「わかった。それじゃ……」


 俺が答えると、渡良瀬は頷く。

 そして俺の目の前に手をかざして、パン、と1回拍手した。


 次の瞬間、俺の心身を覆っていた倦怠感も何もかもが、すっかり消え失せる。むしろ、体が軽くなり、気力もみなぎったように感じられた。

「うん、これでもう大丈夫。あっちが術をやり直しても、パッシブでキャンセルできるから」

 そういって、渡良瀬は俺に微笑を向ける。俺は、返す言葉もなく、ただ首を縦に振った。



 気力も充実したところで、俺は剣術の稽古を本格化させることにした。

 長刀の心得があり槍術に長けている相沢晴美に教えを請う。

 再び平田と対戦させられては、命に関わる危険すらある。もはや手段を選ぶ余裕などなかった。


「平田君、技は単純でも速くて重いのよね。それに、この世界の剣が西洋のロングソード寄りだとすると、重くて扱いが大変だと思うわ」

 相沢は、まずそう指摘した。


 俺は日本刀を持ったことなど当然ない。とはいえ、「剣術」の感覚は、日本刀を前提とした殺陣や、日本刀を基礎として構成された剣術・剣道にある。その前提に誤りがあれば、それこそ命に関わる。


「とりあえず、剣は中段じゃなくて八相に構えるようにして。西洋の『屋根の構え』と同じ発想でね」

 相沢は、手にしていた槍を垂直に立てた。俺もそれに倣い、木剣を正面で直立させる。

「それで、剣が重たいと、剣道みたいにスナップをきかせた面とかはできないから、八相からの振り下ろしで仕掛けるようにして」

 そう言われて、俺は、正面で立てた木剣を何度か振り下ろしてみる。


「あと、平田君対策だけど、木刀とか竹刀だったら、『胴返し面』でも『胴打ち落とし面』でも簡単に料理できるし、『面すりあげ面』でもできそうだけど、剣が重たいって考えると……」

 相沢は、左手をあごに当てて一瞬考え込む。

「基本は『抜き胴』、場合によっては『返し胴』ね。横なぎに来るのは、出だしなら『胴打ち落とし面』の要領で右腕を狙う、それか伸びきったところで『突き打ち落とし』。そんなとこかしら?」

 剣道の心得はない俺は、そうか、と頷くしかなかった。


 まずは、「抜き胴」こと「面抜き胴」。正面からの切り下ろしに対して、右斜め前に進み出て攻撃線を回避しながら胴を切る。要領そのものは理解できた。

 次に「返し胴」こと「面返し胴」。正面からの切り下ろしに対して、やはり右斜め前に進み出ながら相手の剣に打ち込み、一瞬止まった隙で手首をきかせて胴を打つ。

 俺はまず、その二つをやりこむことにした。



 渡良瀬は、島倉美亜と七戸愛香に太極拳を教えてその練習につきあっている。それにセレニア神官が食いついて、1週間は太極拳づけ状態だった。

 セレニア神官に教えて実践してみせるその動作は、伸びやかで、安定している。セーラー服姿の少女の動きは、俺の目と心をとらえて離さなかった。

今回のお話、前半が魔法、後半が剣で、「剣と魔法」になりました。

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