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38. 仙道衛のモノローグ (2) 異世界での暮らし

彼からみた異世界ライフです。

 ――結局俺は、渡良瀬とともに体育の授業を受ける機会を失った。


 唐突に見舞われた「異世界召喚」。流されるままに行われた「ギフト・スキル判定」。俺自身は「Aクラス」の判定。「Bクラス」以下との待遇格差に居心地の悪さを感じつつ、俺は、出席番号40番の渡良瀬由真の判定を待った。


 俺が「Aクラス」なら、渡良瀬は、相沢晴美と並ぶ「Sクラス」に違いない。そう信じ切っていた俺の前に示された結果は――


「レベル0・ギフトゼロ」


 その結果が示されたとたん、この「神殿」の連中は、渡良瀬を「邪魔者」と断じ追い出そうとした。


 俺が反応できないでいるうちに、相沢がいち早くそれを止めた。その相沢に毛利が突っかかったところで、俺もようやく動くことができた。

 近所の道場で柔道をかじっていた俺は、腕力と体格に頼り切りの毛利をいなす程度は造作もなかった。


 曲折を経て、俺たちは神殿で「初期教育」を受けることになった。渡良瀬は、相沢の「従者」という扱いで、ここにとどまることになった。

 初日、渡良瀬は古風なメイド服に身を包んで、相沢とともに俺たちの前に現れた。長身の相沢と並び立ったその姿は、完全に「華奢な女子」だった。

 あの「渡良瀬由真」は――顔立ちや雰囲気こそそのままながら――「女」になってしまった。


 初日、午前後半と午後の「武芸」。それを受けた俺は――すっかり厭気がさした。

 俺が片手間でかじっていた程度の柔道にも遠く及ばない。剣の扱い方にしてもろくな教えが受けられない。そもそも、教官として割り当てられた連中には、「まともな」武芸の基礎すらない。あるのは膂力だけだった。


 俺たちの担当教官役になったセレニア神官に頼んで、俺は自主練の場所を確保した。そこには――相沢晴美と渡良瀬由真の「主従」もいた。


 渡良瀬は、準備運動としてラジオ体操をしてから、俺が見たことのない中国拳法の構えと歩法をひたすら練習していた。身体の筋肉がすっかりそげ落ちたらしく、歩法のたびによろめく。


「渡良瀬由真」を作り上げてきた鍛錬の成果。それがこの「異世界召喚」で奪われたという残酷な事実。

 よろめきながらひたすら練習を続ける渡良瀬の痛々しい姿に、俺はその現実を思い知らされるばかりだった。



 2年F組の面々で二人きりの「Sクラス」。

 一人が相沢晴美。それは、俺にも納得できた。相沢は、学年5位以内を保持する秀才であり、スポーツも万能だった。


 もう一人、渡良瀬由真の席と思われたそれを占めたのは――B組出身の学級委員長、平田正志だった。

 平田は、学業も「優秀な方」に属し、スポーツもそつなくこなす。体育の授業では、団体競技で他のクラスメイトを仕切っているのが印象に残る人物だった。

 俺が「Aクラス」なら、平田も「Aクラス」になっていても不思議ではない。そうは思っていた。しかし、平田が「Sクラス」というのは、俺には納得ができなかった。



 このノーディア王国に引き込まれてから2週間が経った金曜日。

 実戦形式の試合が行われるということで、俺は平田と対戦することになった。


 平田の剣技は、ただ正面から振り下ろすか、胴を横なぎにするか、という単純なものだった。

 しかし、その一撃は、俺より遙かに速く重かった。最初受け止めたときは、衝撃が膝から足首までおそってきたほどだった。

 どうやら、「Sクラス」としての基礎ステータスの高さが戦闘力に直結しているらしい。あるいは「勇者」のクラスの力か。


 いずれにしても油断できない。そう思って、俺は、攻撃を慎重に回避しつつ、相手の動きの隙を突いて革鎧に打ち込みを入れた。

 これが剣道であれば、何度か「一本」が出ていてもおかしくない。

 そんな状態が続いても、平田が降参しないうちは、試合を続けざるを得ない。


 らちがあかない――と思ったそのとき、不意に身体が重くなった。

 振り下ろされた剣を横なぎに振り上げるまでの隙。そこにつけ込んでもう一撃を与える。それまではできていた流れに、身体がついてこない。


 直後、俺の革鎧を平田の剣が痛打した。体験したことのない衝撃。胸部から全身に走る激痛。石造りの床に転ばされた俺は、うめくことしかできなかった。


「勝者、勇者様!」

 その宣言が意識の片隅に聞こえる。勝敗が決した。しかし、今は、全身が激痛に支配されていて、それどころではなかった。

「大丈夫ですか?!」

 そんな声とともに、セレニア神官が駆け寄って、そして俺に治癒の魔法を施した。

 しばらくして、胸からわき上がる痛みも、全身の打撲痛も、すっと引けていった。


 肋骨にひびが入っていた。治癒を受けたときにセレニア神官から言われて、たまらない怖気が立った。


 俺も本気で剣を振るってはいた。しかし、さすがに革鎧越しにけがをさせるほどに力を入れたつもりはなかった。

 しかし、「勇者」平田は、その斬撃で俺の肋骨に容赦なくひびを入れた。

 ここが剣と魔法の世界で、セレニア神官が優秀な治癒術者だったからよかったものの、これが俺たちの世界だったら、俺はしばらく入院させられていた。


 剣技で劣っているなら、まだ許せる。

 しかし相手は、単に力と速度に恵まれているだけだ。剣技では何度も有効打を入れたのに勝敗は判定されず、疲労が蓄積したところで食らった一撃でTKO。納得などできる訳もない。


 翌日改めてステータス判定が行われた。俺のステータスはこうだった。


NAME : マモル・センドウ

AGE : 16 (14 UN / 103 UG)

SEX : 男

LV : 35


STR : 310

DEX : 430

AGI : 350

VIT : 440

INT : 270

MND : 300


CLASS : 守護騎士 LV 27 - 守護対象は未定

GIFT : 栄光の守護者 (A)

SKILL

標準ノーディア語翻訳認識・表現総合 LV 6

無手武術 LV 7

剣術 LV 6

地理学 LV 3

歴史学 LV 2


 度会聖奈までの39人のステータスが判定されて――渡良瀬は当然のように無視されて――その日は解散になった。


 直後、俺はモールソ神官に呼び止められた。

「センドウ殿、守護対象は未定というのはどういうことかね? 早く勇者殿を守護対象に指定したまえ。そうすれば、君は格段に強くなれる」

 ――俺は、その台詞が理解できなかった。


(俺の肋骨をへし折った奴を……『守護対象』だと?)


 他の奴なら――「聖女騎士」の相沢を含めて――まだ「守護」できる。しかし、あの平田と、そして渡良瀬を「締め落とした」という毛利剛、その二人だけは、「守護」するなどあり得なかった。


「時間はあるだろう。今から、守護対象奉告の儀を行おうではないか」

「申し訳ありませんが、疲れていますので」

 相手にはそう答えて、俺は自室に帰った。

彼のステータスは、晴美さん、平田君に次ぐ第3位です。

スキルの種類が少ないようですが―これに関しては、むしろ生産職系の女子2人の方が特殊だったりします。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  コロナ時代の高校生異世界召喚なんてこの作品が初めてだったのですが、どの部活動も練習場所や交流機会を失われて、皆鬱憤も溜まっていたでしょうね。  ふと海外の高校生だったらどう反応しただろう…
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