34. この異世界の魔物と冒険者
異世界ものといえば、欠かせないのがこれですよね。
ユイナに対する太極拳講座は、休日のうちに後半の12式全てを通した。
島倉美亜と七戸愛香も、全体を通して見たことでイメージとやる気が強化されたのか、休日のうちにだいぶ様になった。由真が大恥をかいてしまったけがの功名は、一応あったのだろう――ということにしないと、由真は羞恥に耐えられなかった。
週が明けて、火曜日が「初夏の月30日」、水曜日から「盛夏の月」が始まる。由真たちがノーディア王国に召喚されて、はや一月が経とうとしていた。
この頃になると、生物学の授業――「魔物生態学講座」が本格化する。
この世界の「魔物」とは、「『ダ』を働かせる動物」と定義される。「マ」と「ダ」の二律背反性から、「マ」を働かせる「人」を初めとする「通常の動物たち」にとって、この意味の「魔物」は本質的に相容れない存在となる。
その「通常の動物たち」が変質した存在としては、ウサギが転じた角ウサギ、イノシシが転じた角イノシシ、牛が転じた暗黒牛などが代表的とされる。これらは「意思の力」が異なるのみで「肉体」は同種であるため、肉は普通に食用に使うことができ、毛皮なども素材として活用される。
他方で、「『ダ』を働かせる動物」として独自の進化を遂げた種もある。その筆頭が「古竜」から派生した各種の「ドラゴン」である。
人間社会に関わりが深い「有害種」としては、大柄・強力にして魔法を使うこともある「オーガ」、そして小柄で知性はないものの凶暴で狡猾な「ゴブリン」がいる。
なお、「魔族」と呼ばれるのは、「ホモ・サピエンス」に相当するこの世界の生物が転じた「魔物」である。「ダ」の力により強力な魔法を使う者が多く、知性も十分高いため、人類にとってまさに不倶戴天の敵だった。
こういった「人類の敵」に対抗するすべ。そちらは「一般常識」の内容に含まれていた。
由真たちの耳目には「冒険者」という語で認識される存在が、この世界には伝統的に存在する。依頼を受けて、時として危険を伴う任務――「冒険」に挑み、成功すれば富と栄誉を得る。もちろん、その「冒険」に失敗して人生を棒に振る者も多数いる。
その「冒険者」は、ノーディア王国では国が設置する「冒険者ギルド」に登録を受ける。
依頼者は冒険者ギルドに発注し、ギルドはその内容に応じて登録された冒険者たちに任務を斡旋する。その任務に関する契約の成立と履行についてはギルドが保障する。
冒険者たちは、その実力と実績に応じて、S級・A級・B級・C級・D級・E級・F級と等級化される。
F級は魔法適性のない者の初期登録時等級で、E級は魔法適性のある者の初期登録時等級となる。これらは、任務達成の実績によって短期間でD級に昇格できる。
D級は「見習い」の立場で、特に優れた実績を上げない限り、最低1年はここにとどまる。
C級が「標準的な」冒険者、B級は「優れた」冒険者、A級は「公的に嘱望される」冒険者で、S級は基本空位の「伝説的英雄」であるという。
この等級の仕組みは、魔族に対抗するためにナロペア地方の諸国が合意して策定した統一基準であり、各国はこの基準に沿うようにそれぞれの冒険者たちを組織する。
ノーディア王国は国土が広大であるため、国が積極的に関与して組織を構築し統一基準を運用してきた。南西の隣国ベストナも仕組みは同様、北の隣国ダスティアは地球の中世ヨーロッパで見られた「ギルド」のごとき同業者組合の性格が強い。
ノーディア王国においても同業者組合の性格を持つ「民間団体」へ移行すべきという主張があり、大陸暦113年にアルヴィノ王子が「冒険者ギルド民間化を奨励する令旨」を発出した。
これを受けて、114年に王都セントラ及びその周辺地域の冒険者ギルドが「民間化」され、117年にはミノーディア総州を除く全国において冒険者ギルドが「民間化」された。
現在のノーディア王国においては、「冒険者ギルド」は「冒険者たちの組合」として市・郡の登録を受けた存在となり、その「冒険者」としての資格は、ギルドが自ら判断することとされている。
ただし、S級冒険者は国王が自ら認定し、A級冒険者は勅命を受けて認定され、B級冒険者も勅許を得て認定されるという制度が導入されて、上位の者の力量については公的な保障が保たれているという。
アルヴィノ王子の主導による制度改正――と聞いただけで「百害あって一利なし」の類ではないかと由真は邪推してしまう。
もっとも、現在の冒険者の制度について説明するユイナも、ことさら事実しか説明しないような趣があった。
――そのことが、自らに深く関わることになるとは、由真はこのとき全く予想できていなかったが。
この世界でも、ドラゴンをスレイする冒険者やゴブリンをスレイする冒険者がいるという次第です。
ギルドの制度改正の件、伏線が回収できるよう努力します…