表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/451

29. 第2回レベル判定

中間報告になります。

 その日の午後は、魔法組も武芸組も「自習」とされた。毎日の練習で疲労が蓄積しているクラスメイトたちは、ほとんどが居住区画に戻った。由真は、晴美と仙道の二人とともに、いつも通りの「自主練」に取り組む。


 翌日、召喚されてから2週間ぶりのステータス判定が始められた。前回と同じ判定器具で、立ち会うのもユイナだった。

「ハルミ・リデラ・フィン・アイザワ殿、お願いします」

 その呼びかけの丁重さが、前回との決定的な違いだった。


「ハルミ・リデラ・フィン・アイザワ殿、レベル72、クラス『聖女騎士』レベル26です」

 今回は、すでに判明しているギフトではなく、クラスのレベルが読み上げられた。当初「レベル64・『聖女騎士』レベル21」だった晴美は、基礎レベルで8、クラスレベルでも5上昇させたことになる。


「シュウスケ・アオキさん、どうぞ」

 ――前回Cクラスだった青木修介の順になるや、ユイナの呼び声もとたんにぞんざいになる。ふと見ると、その背後にはモールソ神官とグリピノ神官もいる。昨日の応接はさておき、今日は彼らに対して下手に出ているということだろう。

 その青木修介は、「レベル7・クラス『衛兵』レベル2」という結果だった。以後、出席番号順に判定が続く。


 上位陣は、桂木和葉が「レベル34・クラス『遊撃戦士』レベル27」、嵯峨恵令奈が「レベル31・クラス『魔法導師』レベル25」、仙道衛が「レベル35・クラス『守護騎士』レベル27、ただし守護対象未定」だった。


「マサシ・リデロ・フィン・ヒラタ殿、レベル48、クラス『勇者』レベル17です」

 ――ユイナの声は、淡々としていた。背後のモールソ神官とグリピノ神官は、由真の目にもわかるほどに失望の色をあらわにしている。


「あら、『勇者様』、レベル6しか上がってないのね」

 晴美は、傍らの由真に言う。その美貌には冷笑が浮かんでいた。「ラ」をかき集める術式が施されていたにしては、その成長は緩いと言わざるを得ない。由真もさすがにそう思う。


「ツヨシ・モウリ殿、レベル25、クラス『拳帝』レベル17です」

 昨日由真を「落とした」毛利は、レベルが「3」しか上昇していなかった。

「あれは『手加減を強いられていた』のかもね。本人の実力が及んでいなかったせいで」

 晴美の態度は、平田に対するそれよりさらに冷淡だった。


「セイナ・ワタライ殿、レベル26、クラス『賢者』レベル13です」

 ――クラスメイトたちの多くは、それに目立つ反応を示さなかった。他方、モールソ神官とグリピノ神官の顔に浮かぶ当惑の色は、遠目にもわかる。


(レベルが「1」しか上がってない)

 Cクラスの一部を除けば他にない水準の「停滞」。由真はさすがにそのことに気づいた。とはいえ、今の由真は、「聖奈の幼馴染み」としてではなく、「晴美の従者」として生存を得ている以上、表だって深く追求するつもりにはなれなかった。


「以上、召還者39人のステータス判定、これで終了しました」

 ユイナの声が響く。見ると、彼女ははっきりと由真に目を向け、眉をひそめて軽く頭を下げていた。


「ユイナさん、今日はあっちに譲ってるのね」

「たぶん、昨日の午後に幹部会の類があったんだと思う」

 晴美のつぶやきに、由真はそっと答える。「自習」とされた時間。今後の「初期教育」のあり方について「議論」と「意思決定」がなされ、アルヴィノ王子とドルカオ司教の意を受けたモールソ神官が主導権を保つ方向が決まったのだろう。

 彼らの言う「召還者39人」の枠から外されている由真のステータス判定は行われることなく、この場は解散となった。



 常より早く自室に戻って、晴美と由真は手持ちぶさたになる――かと思ったそのとき。居室の椅子に晴美が腰掛けた瞬間、由真は、自らと晴美に向かう「ラ」と「マ」の流れをはっきり感じた。


「あれ? なにこれ?」

 晴美も気づいた様子を見せる。今週に入って魔導書に手を出した晴美は、魔法解析も身につけていた。


「なんだこれ……『ア』の線の上に、『マ』を流す線と『ラ』を流す線? 基本線は……これはユイナさん? けど、それに乗ってるのは……これはモールソ神官か。……あえて術者を分けて、効果を強めたつもりか。けど、これはこれで好都合だ。……モールソ神官の奴だけを……」

 由真は、その「術式」をさらに詳しく解析し、「対抗策」を考えてすぐに実行した。


 今回は、術式の「線」が二段階になっていた。基本となる「線」は「ラ」と「マ」を安定して流すためのもの、その「上」のレイヤーに、以前のような「洗脳」と「『ラ』の収奪と再分配」を可能とする「別の線」が張られている。


 前者はユイナが、後者はモールソ神官がそれぞれ展開したもの――ということも、線をたどればすぐにわかった。


 由真は、自らと晴美に向けられたこの「線」のうち、ユイナによる「下位レイヤー」のものは残して、モールソ神官の「悪意」に満ちた「上位レイヤー」の方にだけ対処した。

 ただし、単純に無効化すると相手に感づかれる恐れがあるため、「順調に機能している」という認識が「マ」として伝わるように偽装する術を追加している。


 由真は、そのことを晴美に説明する。

「なりふり構わず、ってとこね」

 心底あきれ果てた、という表情で晴美がため息をついたちょうどそのとき、来訪者の到来を告げるベルが鳴る。その相手は、他ならぬユイナだった。


「ユマさん、相変わらず対応が速いですね。それに、やり方も巧妙になって……」

 入室してきたユイナは、由真に向かって苦笑しつつ言う。

「ユイナさん、由真ちゃんからだいたいは聞いたんだけど……」


 晴美に問われて、ユイナは、由真が推測したとおりの術が先ほど施されたこと、由真が即座に対抗策を打ったことに自らは気づいているものの、モールソ神官は気づいていないと予想されることを説明した。


「昨日の午後の幹部会では、勇者様が伸び悩んでいること、それにハルミさんが力をつけすぎていることが、『問題』になったんです」

 神殿全体(ユイナを含むかどうかはさておき)の意向に反して、「勇者」平田はレベルが「6」しか上昇しなかったのに対して、「まつろわぬ者」である「聖女騎士」晴美は「レベル64」という水準からさらに「8」もレベルを上げている。

 それは、神殿幹部連にとっては「問題」であろう。


「ハルミさんの『レベル72』は、大陸全体で見ても、ここ百年で、ハルミさんで4人目の水準なんです」

「ちなみに、普通の最大値はどのくらい?」

「今現在の王国最高は、ナイルノ神祇長官台下で、レベル51です」

「それなら、『勇者様』の『レベル48』って、かなりの水準ですよね?」

 由真が口を挟むと、ユイナは一瞬目を背けた。


「まあ、ハルミさんの『レベル72』の前には、全部かすみますから。……あと、ワタライさんとモウリさん、特にワタライさんの停滞も、かなりの問題になってまして……」

「そういえば、彼女、レベル『1』しか上がってなかったわね。待遇は、悪くないんでしょう?」

「それはもちろん。お二人とも、Aクラスとして、専用個室に従者がついて、毎日お肉が食べられる生活です。ただ、センドウさんとカツラギさんが『8』、サガさんも『7』上がっていますから……」

 他の「同格の者」が順調に成長しているが故に、「停滞」云々が問題になるのだろう。レベルが「0」のままのはずの由真には無縁の「贅沢な悩み」だった。


「今日のステータス判定でその辺りが明らかになったので、あの、センドウさん、カツラギさん、サガさんの『ラ』をワタライさんとモウリさんに集中的に振り直して、他の皆さんの『ラ』も、勇者様とこのお二人に集中させるということで、あの、そういう術式を展開したんです」

「ひどいえこひいきね。こっちは、こんなものまではめさせられてるのに」

 そういって、晴美は左腕の腕輪を示す。「氷系統魔法を封じる腕輪」。晴美の能力は、このような道具まで使って抑圧されている。その傍らで、「できの悪い子たち」には強力なてこ入れがなされる、というのでは――


「あ、それ、もう無難に解呪できるけど?」

 その腕輪を見て、由真は晴美に進言する。

 これを「単純に」解呪するだけであれば、先週の段階ですでに対応できた。

 しかし、それでは神殿側もすぐに気づいてしまう。それに対応するには、「術は未だに効いている」と「誤認させ続ける」術式を併用する必要がある。そのために、由真は「持続的な認識操作」の術式を研究していた。

 その一つの成果が、つい先ほど施した「モールソ神官の術式に対する『対抗策』」だった。


 由真は、そのことを説明した上で、「持続的な認識操作」付きの解呪を行った。

「ユマさん、もう何でもありですね」

 そういって苦笑するユイナに、晴美も由真も苦笑を返すしかなかった。

ユマさん、もう何でもありですね。

――少なくとも魔法に関しては。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ