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293. 迎撃戦

今回は、現地代表でラルドさんの視点です。

「……【プリフィカーティオーネース・テレストレース!】」


 澄み切ったその声とともに、対岸に布陣していた魔物どもが、一瞬にして塵になった。


(今の術は……)


 アスニア橋入り口で、ラルドは呆然として我を失っていた。

 見せつけられたその意思の力は、人間の使う「マ」ではなく、魔族の使う「ダ」でもなく、ユマ・フィン・コーシアただ一人が持つ無系統の力「ヴァ」だった。

 その「ヴァ」によって引き出された「ラ」は、ラルドたち5人が束になっても到底及ばぬ強さ。

 そしてその結果――


「速報、計算出ました!」

 セレニア神祇官ユイナが、手元の水晶板を見て言う。

 そちらに身を乗り出したラルドの前に数字が示されていた。



・西町

 魔族 発見数46 討伐済25 交戦中21 逃走0

 タイタン 発見数452 討伐済248 交戦中204 逃走0

 オーガ 発見数4253 討伐済2541 交戦中1712 逃走0

 ゴブリン 発見数44058 討伐済24935 交戦中19123 逃走0

 その他 発見数1 討伐済0 交戦中1 逃走0



 今の呪文だけで、敵はすでに半数以上が「討伐済」になっていた。


「次は、シクラ川とクルティア川の後方ですね」

 他ならぬユマのその声で、ラルドはようやく我に返った。

 見ると、ユマは棍棒を右手から左手に持ち替えて、両腕を大きく開いていた。


「『スピーリトゥース・ディアボリコース・カピアム!』」

 先ほどと同じ文言が、再び詠唱された。ユマが詠唱に使うその言葉は、ラルドには意味がわからない。


「……【プリフィカーティオーネース・テレストレース!】」

 ――途中の詠唱を省略したことだけは、ラルドもわかった。


「シクラとクルティア、結果出ました!」

 ユイナが叫ぶ。水晶板に示されたのは――



・シクラ川

 魔族 発見数21 討伐済17 交戦中4 逃走0

 タイタン 発見数215 討伐済187 交戦中28 逃走0

 オーガ 発見数2208 討伐済2076 交戦中132 逃走0

 ゴブリン 発見数21073 討伐済20219 交戦中854 逃走0


・クルティア川

 魔族 発見数11 討伐済9 交戦中2 逃走0

 タイタン 発見数106 討伐済95 交戦中11 逃走0

 オーガ 発見数1067 討伐済931 交戦中136 逃走0

 ゴブリン 発見数11038 討伐済10318 交戦中720 逃走0



 ――グニコとリスタの火攻めと相まって、すでに壊滅に近い損害が与えられていた。


「それから、西町の残党ですね……ぅっ」

 棍棒を構え直したユマは、かすかにうめいて、膝をわずかによろめかせた。


(いかん!)

「ユマ様! ここは自分に任せてください!」

 ラルドはすかさず叫び、そして杖を前方に構えた。

 敵の生き残りのうち、特に数が残っている正面奥に向けて、ラルドは「マ」を集中させる。


「お! リスタ! コスモ! よく見とけ! ラルドさんが久々に本気出すぞ!」

 グニコのそんな声をよそに、ラルドは自らの「マ」をさらに高めていく。


「……『駆ける風、雄々しき水をまとい吹き、(いかずち)放ち地をなぎ払え』……」

 その呪文が対岸の空間の「ラ」を動かしていく。


「【破邪の嵐】!」

 その宣言と同時に、対岸に豪雨を伴う暴風が吹きすさび、そして10を超える雷が落下する。


 ラルドの持つ最強の手札。風系統・水系統・雷系統の3系統の合わせ技「破邪の嵐」。

 往年のホノリア紛争で敵2個師団を壊滅させたその技は、ラルドの期待通りの効果を発揮した。


「ラルドさん……さすがですね……」

 横合いからユマの声が聞こえて、それでラルドは我に返った。


 そのユマは、口元に左手をあてがうと、水系統魔法により口内を水で満たし、軽く口をゆすいでから、その水を消した。


「いえ。ユマ様は、さすがにお疲れでしょうから、自分も、この程度は」

 ラルドはユマにそう応える。


 彼女はそもそも長旅の翌日で、しかも昼前に征東騎士団50人が襲撃してきたため、棍棒だけでこれを返り討ちにしている。

 傍目には「武勇伝」の一つでも、当人からすれば、疲労を蓄積する要因になったはずだ。

 その上にあの大魔法を立て続けに使ったら、並のA級魔法導師でも、そのまま倒れ込み数日は寝込んでしまうだろう。


「これで……やっぱり、魔族とタイタンは、残存率が大きいですね」

 ユイナの水晶板に目を向けて、ユマはそう言ってため息をつく。

 ラルドの眼前に示された数値は――



・西町

 魔族 発見数46 討伐済34 交戦中12 逃走0

 タイタン 発見数452 討伐済405 交戦中47 逃走0

 オーガ 発見数4253 討伐済4126 交戦中127 逃走0

 ゴブリン 発見数44058 討伐済43296 交戦中762 逃走0

 その他 発見数1 討伐済0 交戦中1 逃走0



 ――オーガやゴブリンは、もはや壊滅といってよい。しかし、タイタンは未だ1割、魔族は2割以上が生存している。何より、「その他」――紅虎と目されるそれは、未だ「発見数1」に対して「交戦中1」のままだった。


「西町戦線は、左岸に渡った方がいいですかね……」

「あっちまで1キロ近くある訳だから、掃討戦をするなら、渡った方が良さそうだけど……」

 ユマの言葉に応えたのは、ハルミ・フィン・アイザワだった。

「シクラ川戦線とクルティア川戦線にめどが立ったら、コスモさんに消火を兼ねて水攻めをお願いしたいと思うんですけど、いかがでしょうか?」

 ユマは、そう言ってラルドとコスモに目を向ける。


「わかりました」

 コスモはすぐにそう応えた。

「それなら、自分とフルゴも、向こう岸に渡ります」

 ラルドがあえて言い切ると、フルゴも隣で頷いた。


「わかりました。そうすると、川上と川下の橋を突破されるかもしれませんから、グニコさんとリスタさんは、そちらに備えていただけますか?」

 その言葉に、グニコとリスタも頷く。


(さすがだ。やはり、ユマ様は理想のマスタだ)


 戦況の全体を掌握して、手持ち戦力を適切に活用するすべを見定め、的確に指示を下していく彼女。

 その姿を目の当たりにして、ラルドは、改めてそう思わずにいられなかった。

現地勢の視点なので、召喚勢も「ユマ・フィン・コーシア」「ハルミ・フィン・アイザワ」の表記となります。

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