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292. 敵襲を待ち、迎撃へ

敵の大群が迫ってきます。

 午前も使ったバソを借りて、由真たちは県道イドニ線がアスニア川を渡る「アスニア橋」に向かう。

 由真たちがいない隙に憲兵が乗り込んで「人質」を取ることも想定されるため、書記官にして秘書官のメリキナ女史も同行してもらうことにした。


(アスマ軍の襲撃か……)


 昼前の襲撃は、騎士団合計51人が相手だったため、魔法の使用を制限されていても対処できた。

 しかし、「精鋭部隊」を倒された彼らが、前方から迫る魔物の群れと連携して後背から由真たちを攻撃してきた場合、挟撃されて壊滅する危険もある。

 その可能性を排除するためには、自らの持つ手札を選んでいるいとまはない。


 脳裏によみがえる、昼前の襲撃。通りに倒れた44人に、刀傷を負った7人。

 今度は、1個師団1万人に、昨日増強された3個連隊3000人。

 最終手段「即死魔法」を使うとなると――


 そんなことを考えているうちに、バソは県道イドニ線に入り、アスニア川の高水敷手前の天端に到着した。

 流水域と橋が300メートルほど先にある。


「ユマ様!」

 振り向いて声をかけてきたのは、ラルドだった。

 グニコ、フルゴ、リスタ、コスモに加えて、革鎧で武装した冒険者が10人ほど居並んでいる。


「お疲れ様です。今、敵は?」

「正面は3万近くがトンネルを抜けました。旧町、クルティアも進軍中です!」

 冒険者の1人が応える。後方支援もできる戦士職なのだろう。


「これ、雷信装置ですか?」

 ユイナが問いかける。見ると、箱形の装置が3つ置かれていた。

「はい! 物見櫓からの雷信を受信します!」

 その答えに、ユイナは水晶板を取り出す。

「そうしたら……【通信接続】……【演算水晶・記憶水晶連動】……【一括表示・全情報記憶】」

 ユイナのその言葉は、女神官の祈祷というより、通信のオペレーターの作業に聞こえる。


 見ると、ユイナの水晶板に3つの「速報」が同時に並んでいた。


「西町、旧町、北西の3カ所の櫓からの雷信を、ここに一括表示して、記憶水晶に保存するようにしました」

 ――実際に、ITエンジニアのようなことをしたらしい。


 小一時間ほど経過して、敵主力はトンネルを抜けて西町に布陣した。そこから陣形を保って前進する様子だった。

 南西の旧町シクラ川、北西のクルティア川も、敵は前進を続けている。

 午後8時になって、ユイナの水晶板に表示された数字は――


・西町

 魔族 発見数46 討伐済0 交戦中0 逃走0

 タイタン 発見数452 討伐済0 交戦中0 逃走0

 オーガ 発見数4253 討伐済0 交戦中0 逃走0

 ゴブリン 発見数44058 討伐済0 交戦中0 逃走0

 その他 発見数1 討伐済0 交戦中0 逃走0


・シクラ川

 魔族 発見数21 討伐済0 交戦中0 逃走0

 タイタン 発見数215 討伐済0 交戦中0 逃走0

 オーガ 発見数2208 討伐済0 交戦中0 逃走0

 ゴブリン 発見数21073 討伐済0 交戦中0 逃走0


・クルティア川

 魔族 発見数11 討伐済0 交戦中0 逃走0

 タイタン 発見数106 討伐済0 交戦中0 逃走0

 オーガ 発見数1067 討伐済0 交戦中0 逃走0

 ゴブリン 発見数11038 討伐済0 交戦中0 逃走0


 ――そこからは、変化の気配がない。


「一番少ないクルティア川の別働隊でも、『百の巨人族(タイタン)、千の大鬼(オーガ)、万の小鬼(ゴブリン)』って、なんだよこれ、くそったれが……」

 フルゴが歯がみしつつ言う。


「これ……全部足したら……」

「魔族78、タイタン773、オーガ7528、ゴブリン76169、ですね」

 リスタの声に、由真は眼前の数字を足し合わせた結果を応える。


「西町は密集陣形ですけど、シクラ川とクルティア川は縦長の布陣みたいです」

 さらに、索敵魔法を展開して探った結果も伝える。


「西町はさておいて、南北の川の方は、先頭を火攻めすれば、進軍は止められるでしょう。午前の打ち合わせのとおり、グニコさん、リスタさん、よろしくお願いします」

「は、はい!」

「了解です、ユマ様」

 由真の言葉に、リスタとグニコが応える。


「ユマ様、西町の……これは……どうしますか」

 ラルドが、杖を握りしめて問いかけてきた。その「マ」は、由真がこれまで見てきたこの世界の人々の中でも、「最強」の一角にある。


「この数は、並の術では……」

「私も、『フェアニヒテンダー・ブリザート』は使うけど、この規模は……」

「いや、晴美さんのそれは、ここでは温存しておいて」

 ラルドの横から切り出した晴美を、由真はそう言って制する。


「え?」

「敵の『その他 発見数1』、これは……多分、紅虎(こうこ)の本体だよ。つまり敵は、強力な火系統魔法で来る。晴美さんの術とは、相性が悪いと思う。晴美さんの術は、魔族の残党狩りに投入する方がいいかな」

 西町方面だけでも魔族は「46体」。これまでの敵の「オーガの個体数」よりも多い。

 これを相手取るには、晴美の持つ最強の魔法が欠かせない。不利な「紅虎への攻撃」で、晴美を消耗させるのは「愚行」だった。


「けど、主力の方は……」

「そっちは、僕がなんとかするから」

 そう答えて、由真はあえて笑って見せる。

「……わかったわ」

 晴美は、息をついてそう返した。


 21時近くになり、西町の勢力はアスニア川左岸近くに到達した。幅1キロ近い高水敷を挟んだ対岸は、多数のたいまつで赤く照らされている。

 シクラ川とクルティア川の最前線も、アスニア川との合流地点に近づいている。

 市街地を守るにはギリギリの線であり、火力を集中投入するにはちょうどいい頃合いともいえた。


「グニコさん、リスタさん、問題なければ、そろそろ、お願いします」

 由真が言うと、2人はうなずき、グニコは南に、リスタは北に杖をかざす。


「「『灼熱の業火よここに燃えたぎり群れなす敵を焼き尽くせ』」」

 2人の呪文は見事にそろっていた。

「「【殲滅の業火】!」」

 やはりそろっての宣言。直後、シクラ川とクルティア川の最前線に、同時に火がついた。


 由真は、左手を左肩にやり、袋の蓋を外してから、紐を下に引いて棍棒の根元を下げる。

 その棍棒を右手でつかみ、紐を上に引いて袋を戻しつつ、棍棒を取り出して右手で構える。


 深呼吸して、「練神還虚」の境地に入り、そして「ヴァ」を川の向こう側の密集陣形に向ける。


「『魔の(スピーリトゥース)魂を(ディアボリコース)掌握せん(カピアム)!』」

 その呪文により、「ダ」を持つ魔族と魔物の「霊的要素」を把握する。


「……『肉体より(アブ・コルポリブス)石塊を経て(ペル・ラピデース)砂塵となれ(アド・ハレーナース)』……」

 その呪文に「言霊」を乗せて――


「……【地のプリフィカーティオーネース浄化(テレストレース)!】」

 ――そして宣言する。


 次の瞬間、密集陣形の前方から中央にいた魔物どもの身体が一気に固まり、そして塵となって闇夜に散っていった。

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