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287. 招いた客と招かれざる客

挨拶も済んだところで、早速打ち合わせです。

 残された冒険者たちで「打ち合わせ」に入る。

 ナギナ側の5人と由真を筆頭とする7人がテーブルを囲む。全員の前に受付嬢が麦茶を入れてくれた。


 正面の白板に地図が掲げられ、ラルドがその傍らに立つ。

 晴美たちにとっては、先週タツノ副知事から聞かされた内容の復習だった。


 ナギナ市西部は、南からアスニア川、南西からシクラ川、北西からクルティア川が流れ込む。このうちシクラ川は市の南西でアスニア川に合流して市街地の西を北上する。

 他に、北からカロニア川も流れてくるものの、こちらには魔族・魔物の拠点となる場所はないという。


 魔物の拠点であるイドニの砦は、シクラ川を遡った先にある。

 そのシクラ川は、イドニ山地を削って南東に流れていて、イドニの砦そのものは、ナギナ市から見て西北西に位置している。距離は、市の西側を流れるアスニア川から、およそ13キロだった。

 直線経路は、イドニ山地に阻まれるものの、砦を建設する際にトンネルが掘削されていて、アスニア川左岸の西町から県道イドニ線で結ばれている。

 イドニの砦が陥落してからは、その県道が魔族・魔物の主要進撃経路になってしまった。大陸暦116年ナギナ対魔戦争の際にも、このルートで進撃してきた敵を西町で迎え撃った。

 そのため、数え上げの術式の魔法道具「計数器」を備えた無人監視櫓を山頂2カ所に配置し、トンネルから市街地までは有人監視櫓にB級冒険者が交代で張り付いて監視に当たっていて、敵襲の場合はただちに雷信が送られるという。


「今回も、敵は、この経路でナギナを目指す、と思われます。ただ、敵の数は……この支部では、『百の巨人族(タイタン)、千の大鬼(オーガ)、万の小鬼(ゴブリン)』と言われております」

 ラルドは、険しい顔で言う。


 晴美たちが相手にしてきた敵は、河竜1体、サゴデロ兄弟が率いる水鬼61体が最大だった。

 今回の敵は、それと比べても桁が二つ違うことになる。


「そうなると、敵が別働隊を出す可能性も、考えられませんか?」

 そこへ由真が問いかける。


「別働隊……ですか……」

「ええ。敵がとにかくナギナを陥落させようとして、桁の違う数を動員するなら、……主力は西町に向けつつ、シクラ川から旧町、それにクルティア堰堤の方からクルティア川を下る、と、そちらの方にもある程度の数を割いて、主力と戦っている隙を突いて南北から市街地を狙う、と、そういう手も、あるような気がします」

 ラルドの言葉に、由真はそう応える。


 言われてみると、前回の戦いでは総力戦で防衛した戦線にこちらが戦力を集中させている間で、南北の別ルートをついてくる――というのは十分想定される策と思われる。


「西町の攻防の方は、僕たちも、晴美さんは河鬼61体を屠った氷系統魔法が使えますし、僕も、ある程度の雑魚は、即死魔法で対処できます。そういう前提で、南北から挟撃された場合の対応を、考えておく、というのも……」

 由真が言葉を続けると、ラルドはグニコに目を向ける。


「それなら、俺とリスタで対応します。俺が旧町、リスタがクルティアを固める、って方向で」

 グニコは、そう答えて引き締まった笑みを見せる。

「ええ、任せてください」

 リスタも、そう言って胸に手を当てて見せた。


「そうすると、後は水攻めの場所と時機ですね。西町から渡渉してくる敵のためにアスニア川は仕掛けるとして、シクラ川とクルティア川も……」

「それは……僕が、3カ所まとめて対応します」

 今度は、コスモがそう答える。


「それじゃ、俺は、ラルドさんと一緒に、正面からユマ様の先陣を切って雷撃、ってとこですかね」

 フルゴは、そう言ってラルドに目を向ける。


「それでは、我々は、このような布陣で、対処しようと思います」

 ラルドは、由真に向かってそう言う。

「よろしくお願いします。僕たちも、最大限協力します」

 由真がそう応えて、そして晴美たちもそろって頭を下げた。



 ナギナ支部のA級冒険者5人との打ち合わせは順調に終わって、一行は支部を後にする。


 由真は、美亜が作った棍棒入れを、左肩から右腰にかけて背負った。


(抜きにくくないのかしら?)

 晴美は、それがふと気になったものの、由真にあえて問いかけることでもない、と思い直す。


 支部の玄関から外に出ると――革鎧を身につけた男が多数、正面の道に居並んでいた。


「控えよ下衆ども! この旗印が目に入らぬか!」

 奥に立つ男が叫ぶ。その傍らには、鷲を描いた旗が掲げられていた。


「あ、あれは……あの旗は、征東(せいとう)騎士団!」

 その旗を見たユイナが叫ぶ。


「あれが、例の?」

 一昨日の夕食の際に話題になった「アスマ軍の精強部隊」であるという騎士団。


「その程度は心得ているようだな、小娘。いかにも、我らは王国軍征東騎士団! 上意を受け、義によってシナニア師団憲兵隊に加勢する!」

 アスマ軍憲兵司令部の配下にあるという彼らが、シナニア師団の尖兵として晴美たちの前に立ちはだかるというのか。


「今すぐ武器を捨て、おとなしく投降すれば、村娘以外は命だけは助けてやる。潔く観念せよ!」

 その居丈高な物言いに、晴美は槍を構え、和葉と仙道も剣に手をかける。


「なるほど。王国軍に見限られ、村娘に同行する不良召喚者どもは、どうやらよほど無知で愚かなようだな。それとも、魔法でどうとでもなる、とでも思っているのか?

 すでに上意のお示しがあった! もし仮に、王国軍に魔法を使えば、貴様らはすなわち反逆者! 死罪も免れんぞ!」


 相手は、あの「上意通知」の文言を正面から突きつけてきた。

 念のため魔法解析してみると、全員が周囲に弱い魔法障壁をまとっている。おそらくはアマリトによるものだろう。


「よもや、魔法もなしで、王国最強の我ら征東騎士団50人に刃向かうつもりか? ……下衆ども! 直ちに投降せよ!」


 その言葉に対して、先頭に立つ由真は、大きくため息をついた。


「皆さん、お静かに願います」

 由真は、一歩前に進みつつそう口を切り、そして後ろに手をかざす。その掌は――ユイナに向けられていた。


「こちらにおられるお方は、恐れ多くもS1級神祇理事、セレニア神祇官ユイナ猊下にあらせられます」


 いきなりのその台詞に――晴美は一瞬あっけにとられてしまう。


「……は?」

 他ならぬユイナが、そんな声を上げる。


「由真ちゃん、急に何言って……」

「騎士団の皆さん、猊下の御前(ごぜん)です。お控えください」

 由真は、晴美の言葉にはかまわずそう続ける。


「この村娘が、何をほざくか! そやつは、卑しい孤児(みなしご)の住人ではないか! 住人の分際で、我ら征東騎士団の面前で立ったままとは、貴様らこそ()が高いぞ! 控えい! 控えおろう!」

 相手は、あからさまな嘲笑とともにそう切り返してきた。


「って、こっちが『控えおろう』されちゃった?」

 晴美の傍らで、和葉がつぶやく。


 これが時代劇なら、晴美たちは「『葵の紋所』を前に土下座もしない無礼な悪党」という扱いを受けていることになる。


「神祇理事猊下を侮辱するだけでは飽き足らず、住人の身分、孤児(こじ)という身の上を公然と蔑むとは……人倫にもとるその所業、断じて許されません」

 由真は、そう切り返しつつ、左肩の上の袋に左手をあてがう。


「貴様、村娘の分際で、この征東騎士団の面前で、栄えあるノーディア王国の権威を汚さんとするか? その所業こそ、王国は断じて許さん! ……総員、抜け!」


 その言葉に、金属摩擦音が鳴り渡る。

 50人と称する騎士団員が一斉に剣を抜き、そして「八相の構え」――ドイツ剣術で言う「屋根の構え(フォム・タッハ)」を取った。


 同時に、由真の背中の袋が後ろに跳ね上がる。

 由真は左肩に右手を向けて、そこから器用に棍棒を取り出して、そして中段に構えた。


「貴様! その武器を今すぐ捨てよ! さもなくば、縛り首ではなく火あぶりにするぞ!」

 その由真を見て、相手はそんな声を上げる。


「何それ? 結局、由真ちゃんを殺す、ってこと?」

 相手のその言葉が、晴美の心を刺激する。


 一昨日の夕食の際に由真が指摘した「殺し合い」の覚悟。

 切羽詰まった命の危険を前にして迫られる――ということは、晴美も想定していた。

 しかし、相手は「縛り首ではなく火あぶりにする」と叫んだ。

 つまり、この男にとって、「由真を殺す」ことは、「覚悟」云々にも至らない「当然のこと」であるらしい。

 ならば――


「晴美さん、和葉さん、気をつけて。この人たちの剣術……平田君よりは、上手いよ」

 棍棒を構えた由真は、晴美たちに軽く振り向いて言う。


「貴様……貴様! 村娘の分際で、我らノーディア王国救世の英雄たる勇者様に対して、『ヒラタ君』だと?!」

 相手のトーンが跳ね上がる。見ると、その顔は赤く染まり、額には青筋まで浮かいていた。


(って、そこ、怒るところ?)


「その言、無礼千万! 断じて許せん! 王国の栄誉にかけて、この場にて成敗してくれる! 総員、あの村娘を討ち取れ!」

 その叫びとともに、50人と称する騎士団員が、「屋根の構え(フォム・タッハ)」から一斉に駆け寄ってきた。


 対する由真は、右手に持った棍棒の根元付近を左手で握る。


「スキル【板東(ばんどう)神岳流(しんがくりゅう)剣術】、限定解除」

時代劇風マウント合戦は、相手の方が上手でした。

このノーディア王国軍は、人に対して威張り散らすのが最大の得意技なので……


それはさておき、ここから変な寄り道はなく、次回はバトルになります。

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