286. A級冒険者5人との顔合わせ
いよいよ対面です。
朝食を終えて一息ついて、由真たちはナギナ支部へと出発する。
憲兵との衝突の危険もあるため、由真は棍棒を背負い、晴美・衛・和葉も防具を着用してそれぞれの武器を持つ。
上着も、4人とも美亜が作ってくれた夏服を着用した。
往復の足は、TA旅客が観光のための貸切用として保有しているバソを1台貸してもらえることになった。
運転手もTA旅客に雇われているということで、ウィンタがハンドルを握るということもない。
ナギナの市街地を北から南に縦断していく。その町並みは、コーシニアと同じように、空き店舗が目についてしまう。
市街地南部の中心は、ナギナ南駅だった。
この駅は、南シナニア県の県都マティアとを結ぶシナニア西線のターミナルであるという。
駅正面の通りを進むと北シナニア県庁とナギナ市役所があり、向かって右に向かう道路を少し進むと、突き当たりにナギナ支部がある。
「以前は、こことナギナ北駅がターミナルだったんですけど、3年前にナギナ中央駅ができて、ターミナルの機能は集約されて、北駅は廃止、南駅も、人がだいぶ減ったみたいです」
ユイナがそう解説してくれた。
ナギナ支部の建物は、鉄筋コンクリート製とおぼしき外観だった。
出迎えはなかったものの、玄関先で足止めを受けることもなく、由真たちは建物の中に進む。
そこは、ジーニア支部よりは若干小ぶりなロビーだった。その先に受付窓口があり、受付嬢が2人座っている。2人とも、由真たちが入ってきたのに気づいて、目を見開いて立ち上がった。
メリキナ女史が受付窓口に向かい、水晶板を見せる。
「尚書府副長官コーシア伯爵閣下、神祇理事セレニア神祇官ユイナ猊下ほか、昨日通知のとおりお伺いしました」
「お疲れ様でございます。オムニコ男爵以下、宿泊棟3階の応接室にてお待ちしておりますので、ご案内いたします」
そんな言葉が交わされて、受付嬢が先頭に立ち由真たちは「宿泊棟3階の応接室」に向かう。
階段を上り廊下を渡った先のその部屋は、小会議室程度のスペースだった。
中には、昨日対面したクシルノ支部長と、壮年から青年の男性4人・女性1人がいた。
「ようこそお越しくださいました。ラルド・フィン・オムニコです」
壮年の1人が、そう言って頭を下げる。その声は、先週通信した際と同じく引き締まっていた。
「グニコ・フィン・フォルドです。よろしくお願いします」
もう1人の壮年男性が、そう言ってやはり頭を下げる。
「フルゴ・フィン・フラストです。この前の、ユマ様の雷撃は、ムービで見ました。ただ感服するばかりでした」
壮年の2人と若い2人の中間程度の年格好の男性が言う。
紅虎との戦いの模様を記録した動画は、彼らの目にも入っていたらしい。
雷系統魔法を得意とするというフルゴは、由真が連発した「最大空雷」に「感服するばかり」という評価を口にした。
「リスタ・フィン・ルティアです」
由真が言葉を返すより先に、先方の紅一点である若い女性が挨拶する。
「その……ボレリア博士! お会いできて、光栄です!」
彼女――リスタは、目を輝かせてウィンタに向かう。
「え? 私?」
「はい! 『光の風』と『闇の風』の博士に、一度お会いしたかったんです!」
火系統魔法を使うリスタは、その「火」を操る「光の風」と「闇の風」を系統魔法に取り入れたウィンタに崇敬の念があるようだった。
「ああ、その、それは……」
「あ、済みません! 話は、今度じっくりさせてください! ほら、次、コスモの番」
反応に窮したウィンタに対して、リスタはそう応じると、さらにコスモに話を振る。
「あ、はい。……コスモ・アムリトと申します。よろしくお願いいたしします」
コスモは、そう言って頭を深く下げる。
出自は「住人」にして16歳の若さでA級冒険者となったという彼は、謙虚で温和な人柄の主らしい。
「ご丁寧に、ありがとうございます。僕はユマ・フィン・コーシアと申します。こちらは、セレニア神祇官ユイナさん、それに僕の仲間の、ハルミ・フィン・アイザワさん、カズハ・フィン・カツラギさん、マモル・フィン・センドウくん、ウィンタ・ボレリアさんです」
由真は、「こちら側」の面々を、「セレニア神祇官」を筆頭にして、たまたま並んでいた順で紹介する。名乗りは、「神祇官」以外は、相手と同じく爵位は省略する。
それからメリキナ女史に目をやると、彼女は眼前に掌をかざしてかすかに振る。「秘書官の紹介は不要」というジェスチャーだということは、由真にもわかった。
「そうしましたら、我々は、事務方同士の打ち合わせに入りますので、後は皆さんでよろしくお願いします」
クシルノ支部長はそう言って、メリキナ女史と支部の受付嬢とともに部屋から退室した。
顔合わせの挨拶を粗末に済ませるのもどうかと思い、節を分けました。




