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285. ナギナの5人と身分制度

ナギナ支部の5人と会う――前に一つ確認事項があります。

 結局、「お目汚し」の罵詈雑言は封筒の中に戻して、由真たちはアトリア焼鴨に舌鼓を打って気を紛らせた。


 翌朝。

 せっかくスペースがあるということで、朝食は由真の部屋の応接室に集まって朝食を取ることにした。

 厨房から供されたのは、豚肉入りの「シナニアうどん」。

 愛香の話に時折上るその「特産品」は、日本の平打ちうどんのような仕立てだった。


「あ、そうだ、ユイナさん。出かける前に聞いておきたかったんですけど……」

 一通り食べ終えたところで、由真はユイナに問いかける。


「なんでしょう?」

「今日会うA級の5人なんですけど、ラルドさんとグニコさんが男爵、フルゴさんとリスタさんが騎士爵で、コスモさんだけは……」


 5人のフルネームには、その「身分」が示されている。


「ええ、コスモさんは、臣民ですね」

「それ、リスタさんとコスモさんって、同時期にA級になったのに、身分に差があるのは、年齢のせい……っていう訳じゃ……」

「……そう、ですね。リスタさんは元から臣民でしたけど、コスモさんは……A級になる前は、住人でした」


 アスマですら、「臣民」と「住人」は全く平等という訳ではない。リスタとコスモの「格差」は、その証だった。


「それ、コスモさん、って、魔法学院に通ってた、って話だったわよね? なのに、住人のままだったの?」

 そこに晴美が問いかける。

「それは……アスマでは、住人の身分でも、学院までの学業の機会は保証されていますから、臣民になるのは、任官の時点ですね。あの、私も、臣民になったのは、B1級神官になったときですし……」

 ユイナは苦笑交じりで答える。


「私と平田君は、召喚された日に、いきなり騎士爵をもらったけど、それって……」

「年爵……王族が持つ爵位推薦枠ですけど、それの範囲なら、爵位はすぐ与えられるんです。ハルミさんと勇者様の騎士爵位(リデリア)は、アルヴィノ殿下の年爵でしたし、ハルミさんの子爵位(ディグラフィア)とカズハさんとセンドウさんの男爵位(バルニア)は、エルヴィノ殿下の年爵でしたから」


 確かに、「アルヴィノ殿下の年爵」という言葉は何度か耳にした。

 エルヴィノ王子も、ゲントに対して「私の年爵の範囲からでも」といって男爵位を打診していた。


「けど、普通の場合は、そうは行かないんです。アスマだと、一般の臣民の場合は、A級冒険者は任官時点で、文官はA2級相当になってから2年程度、騎士爵の子弟の場合はA3級相当になった時点で、ということになっています。

 コーシア県庁だと、マリナビア部長は、臣民出身でもうじき騎士爵位(リデリア)が与えられるところ、ウルテクノ部長は、騎士爵のご子息として若干優遇されている、というところでしょうね」


 本人たちのいる県庁では聞けない「裏事情」だった。


「けど、その基準だと、コスモさんって、A級冒険者になって、もう3年以上経ってる訳ですから、騎士爵をもらってもおかしくない、ってことには……」

「それは……」

「一般の爵位は、まず県知事が州長官に推薦し、それから州長官が陛下に奏薦する、という流れで授与されます。その事務は、県庁民政部、そして州庁民政省が担当するのですが……北シナニア県は、119年に入ってから、推薦件数が激減している、ということで、民政省でも問題視されています」

 由真の問いにユイナが言いよどんだところで、メリキナ女史が代わりに説明する。


「コスモ・アムリトさんは、一般の例にならったとしても、119年の春の時点で騎士爵位(リデリア)の資格を得ているはずですが、北シナニア県民政部は、推薦手続を行っていません。

 殿下は、年爵で対応されることもお考えになられたそうですが、他の停滞件数が多すぎて、年爵での対応は困難となるため、この方向は避けるべきと、タツノ副知事が示唆された、と聞きます」


 エルヴィノ王子の「年爵」だけでは対応できないほどに「停滞件数が多すぎる」。

 北シナニア県庁民政部を支配するエストロ知事とエンドロ男爵は、よほど「臣民の貴族成り上がり」を嫌っているということなのか。


「ちなみに、オムニコ男爵とフォルド男爵の例にならえば、A級昇級から4年程度で男爵位(バルニア)の資格が得られることになりますので、フルゴ・フィン・フラストさんも男爵位(バルニア)を授与されているべきところですし、リスタ・フィン・ルティアさんも、来年にはその資格が得られるはずです」

「そちらの方は、冒険者を優遇している仕組みですから……一般の文官だと、S級官が引退すると男爵位(バルニア)なので、かなり厳しいんです。それとバランスを取るべき、と言われると、無理に押し切るのは、難しいところもありますから……」

 メリキナ女史のさらなる説明を、ユイナが補う。


 冒険者を優遇する仕組み。それは、エストロ知事とエンドロ男爵にとっては、とにかく忌まわしいだけのものなのだろう。


「そうすると、コスモさんも含めて、本来なら男爵になってもいい人たち、ってことで、ラルドさんたちの身分の違いとか、その辺は変に気を遣わなくても大丈夫そうですかね?」

 由真はそう尋ねる。そもそも気になっていたのは「それ」だった。


「それは、大丈夫ですよ。もちろん、コスモさんの前で、住人をそしるようなことを言うとか、そういうのは、問題外ですけど……」

 ユイナはそう言って苦笑する。そのような「非常識な者」は、少なくともこの中にはいない。


「そこは、もちろん」

「むしろ、私たちの爵位とかが無駄に高い方が、なんとなく気が引けるわね」

 由真が応えると、晴美が苦笑とともに言う。


「そこも、あちらもわかっていると思いますから、お互いに気にしないのが一番だと思います」

 ユイナのその言葉に、由真も、晴美・衛・和葉も頷いた。

ナギナ5人衆の「身分」を巡る設定の説明は、ここが最後の機会と思い、あえて節1つ割きました。

なお、この面々は、「実績複数回」(前回のダンジョン陥落が1回目、次の「実績」が2回目)で晴美さんがS級、衛くんと和葉さんがA級という位置にあります。


次回は、今日のお昼に予約投稿してあります。

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