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281. ナギナへの道行き、伝えられた「上意」

特急に乗って、現地へ向かいます。

「特急『白馬5号』、ナギナ中央行が、4番線に12両編成で参ります。この列車、本日は、12号車を除き、すべて軍用列車として運行されております。12号車以外への立ち入りは厳禁となりますので、くれぐれもご注意ください」


 コーシニア中央駅4番線ホームに、そんなアナウンスが流れて、由真は我に返った。


 特等車や食堂車を含むすべての車両が「軍用列車」としてアスマ軍に占拠され、かろうじて12号車1両にのみ乗車できる。

 今更とはいえ、どうしても釈然としない思いは拭えない。


 程なく、時計は11時40分を指して、モディコ200系14両編成の「白馬5号」が到着した。

 2号車から11号車までは軍装の将兵たちが乗車していて、12号車は他に乗客はいない。

 その先に、窓がブラインドで閉ざされた車両が2両連なっている。その車両――荷物車も、今回はアスマ軍のものになっている。


 由真たちが乗り込むと、中で車掌と車内販売員が平伏して待っていた。


「ご乗車、まことにありがとうございます。本日は、手狭な車で申し訳ございません」

 平伏したまま車掌が言う。

「いえ、今日は、わざわざ乗務をいただいて、ありがとうございます」

 一同を代表して、由真はそう応える。


 由真たちは、車内に進んでそれぞれの座席に着く。

 今回は、由真と衛、晴美と和葉、ユイナとウィンタが並び、由真の一つ前にメリキナ女史が座る。

 すぐに、車内販売員が肉入り焼きパンとお茶のセットを提供してくれた。


 程なく列車は発車した。由真たち以外には乗客もいないため、車内放送なども流れない。

 流れゆく車窓は、先週の第1日に乗った「臨時白馬511号」と1時間しか違わない。


(あれも、持ってくればよかったかな)


 無聊を癒やすためにアクティア湖に持ち込み、そのまま知事公邸にも持参していた、「鬼ごろし」親子の伝記3巻。

 しかし今回は、「最終決戦」に向けた道ゆきということもあって、「暇つぶしの種」は置いてきていた。


 列車は、12時53分にユリヴィア駅に到着した。

 しばらくして、後ろから軽い衝撃が伝わる。

 急勾配を上るための補助機関車の連結。

 先頭の1号車には伝わらなかった衝撃も、客車最後尾の12号車となると軽くない。


 午後1時2分にユリヴィア駅を出ると、特別なアナウンスもなく、時計が1時間戻されて、午後0時2分を指す。

 ここからは、車内もシナニア時間になる。


 いわゆる「ユリヴィア回廊」の急勾配をゆっくりと上った列車は、30分近くかかってカリシニア駅に到着した。

 午後0時45分に発車すると、時速160キロの快適な走りに戻る。



 午後1時25分に、列車はコモディア駅に到着した。

 3日前に、「対策本部」のためにやってきたエルヴィノ王子と愛香たちを迎えたのが、ちょうどこの時間だった。


 ここに来て、それまで由真たち7人の貸し切り状態だった車内に、一斉に客が乗ってきた。

 新たな乗客は合計27人で、13人と14人の団体に分かれている。

 そして、それぞれから1人ずつ、由真の席にやってきた。


「民政省冒険者局魔族魔物対策部長のジャスト・フィン・エストレドと申します」

「内務省国土局河川部長を勤めておりますソルコ・ユグラドでございます」

 魔族魔物対策部と河川部を代表して、それぞれの部長が挨拶する。


「担当州務尚書のユマ・フィン・コーシアです。お二人とも、ガルディアからナギナに連勤で、大変お疲れ様です」

 由真は、席から立ってそう応える。


「いえ。魔物どもと直接戦われている閣下がたには、到底及びません」

「私どもも、専門職として微力を尽くさせていただく所存でございます」

 エストレド部長とユグラド部長は、そんな言葉を返した。


 先週は快速列車で往復した路線を、シンカニオ特急は時速160キロで走る。

 あっという間にガルディア・ノクティニカ駅を通過し、程なくトラス橋でベニリア川を越えていったん左岸に移る。


 ベニリア川にノクティナ川が合流するのが見えると、列車はトラス橋を渡ってベニリア川右岸に戻る。

 一昨日の戦場を、シンカニオ特急は一瞬で通過していった。



 2時間ほど延々と走り続けた列車は、時計が午後3時40分を指す頃に、オプシア駅に到着して、程なく発車する。


 そして時計が午後4時を指したとき、突然車内に鐘の音が3回響く。小休止から、再び3回、そして三度3回。「3回3連」の鐘が鳴った。


「謹んで、お知らせいたします。ただいま、軍務省及び参謀本部より、上意の通知がございましたので、謹んで奉読いたします。繰り返し、お知らせいたします。ただいま、軍務省及び参謀本部より、上意の通知がございましたので、謹んで奉読いたします」


 車内放送が、確かにそう告げた。


「軍務省と、参謀本部?」

「敵の『対抗措置』だね」

 険しい表情の衛に、由真はそう言葉を返す。


「まず、軍務省からの通知を奉読いたします」


 車内放送の声を受けて、由真は神経をそちらに集中させる。


「アスマ軍総司令官殿。……上意を承りここに通知する。

 王国軍は、建軍以来王国の礎となり柱石となってきた、王国最高にして最重要の存在である。王国軍に敵対することは、すなわち王国に反旗を翻すも同然である」


 ことさらに「王国軍の地位の高さ」を顕示し、「王国軍に敵対すること」を「王国に反旗を翻す」ことと同等視する。

 国王の詔書において「王国軍官衙・部隊」と名指しされたことに対するあからさまな反発だろう。


「現在、王国軍に刃を向け王国の威信を汚そうとする輩が跋扈している。かくのごとき輩は、たとえ弱小なりといえども、これを放置すれば王国の将来に禍根を残す。

 よって、王国軍は全力を挙げて、かくのごとき下衆の輩を排除・討伐し、もって王国の栄誉と威信を堅持しなければならない」


 いかにもアルヴィノ王子が好みそうな文言――と由真は感じずにいられない。


「王国軍に反意を示す者はもとより、王国軍部隊に対してみだりに魔法を用いる者も、王国軍に敵対し王国に(そむ)く者とみなす。かくのごとき輩を一掃すべく力を尽くすこと。

 大陸暦120年晩夏の月11日、軍務大臣、白馬騎士団S級大夫、大将軍、アルキア子爵サスペオ」


 軍務大臣は、イタピラ子爵と同じ栄爵・階級・爵位の主らしい。


「続きまして、参謀本部からの通知を奉読いたします。……アスマ軍総司令官殿。……上意を承りここに命ずる」


 先ほどの軍務大臣名義のものは「通知する」なのに対して、こちらは「命ずる」だった。


「貴官隷下の部隊を北シナニア県内に展開し、王国軍に叛く輩を迅速に排除・討伐せよ。

 大陸暦120年晩夏の月11日、参謀総長、白馬騎士団S級大夫、大将軍、カンニア子爵コルト」


 その「命令」は、極めて端的だった。


「以上で、上意の通知の奉読を終了いたします」


 そんな文言で、その「奉読」は終わった。

あっさり諦めをつける王国軍ではありません。

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