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273. 出発準備 (1) アトリアとの相談

決戦に向けて、まずは州都に相談です。

 タツノ副知事の進言を受け、由真はアトリアのエルヴィノ王子に連絡を取ることにした。


 昼前のシンカニオでコーシニアを発っていた王子は、すでにアトリア宮殿に入っていて、通信はすぐに接続された。

 由真は、ナギナ支部と連絡が取れて「現地に赴いて依頼するなら協力する」という趣旨の発言を得たと告げる。


『それは、大きな前進ですね』

 エルヴィノ王子のその声は、通信越しにも明るく聞こえた。


「ただ、先方は、現地では憲兵の活動がますます盛んになっていて、僕たちにも監視がついたり、下手をすると僕が逮捕される可能性もある、と、そういうことも言っていました。

 それと、本部の締め付けもあるので、宿舎の提供とか、そういう協力もできかねる、という話で、現地に入るのも簡単ではないようです」

 悪い条件の方も続けて報告する。元々、そちらが主目的だった。


『やはり、あちらは状況が悪化していましたか』

 怒りやいらだちの色は見せずに、エルヴィノ王子はそう応える。


『ユマ殿には説明していませんでしたが、実は、北シナニア県警察部は、憲兵に過剰に依存していて、その活動は最近乱暴の度を強めています。詳しいことは、そちらのウルテクノ警察部長が治安局総務課長でしたから、彼に聞いてもらえばわかります』

 王子は「治安局総務課長」だったウルテクノ部長の名を口にした。


「実は、ウルテクノ部長から事情も聞いて、それで、まずは殿下にご報告を、と思いまして……」

 由真は素直にそう話すことにした。


『それであれば話は早いですね。憲兵隊は、統帥権の配下にあり、そちらには私の手は及びません。先代様は、王位継承者たるミノーディア大公を兼ねられており、そちらからアスマ軍にも抑えは効いていたのですが、私はそのような立場にはありませんから、先代様、すなわち陛下の御意に沿わない行動も目立つようになっています』

 タツノ副知事から以前聞かされていた背景事情を、エルヴィノ王子自身が口にする。


『ともかく、ユマ殿がナギナに入り、妨げがなければ、現地のA級冒険者5人からも協力が得られるという見通しが立ったというのは、大きな前進であることは間違いありません。

 最初の事件、シンカニア襲撃からちょうど1週間が経過したことですし、私から、陛下に状況を奏上します』

 エルヴィノ王子は、愚痴めいたことは言わずに、淡々とそう続けた。


『ユマ殿は、シンカニオの運行再開、それから現地入りの準備を進めてください』


 それは、由真たちが取るべき「次の一手」に他ならない。

 由真は、かしこまりました、と答えて、そして通信を終えた。



「殿下から陛下に、事件発生から1週間の状況を奏上していただくことになりました」

 由真は、通信を聞いていなかった面々に告げる。


「それで、そっちの空中戦はともかく、地上戦……『白馬』の運行再開と、僕たちの現地入りの準備をしておけ、という話もありました」

 続けて、ユイナや晴美たちを前提にそう続ける。


「『白馬』の方は、リフティオ社長に連絡してみる」

 応えたのは、愛香だった。彼女も、「担当州務尚書」である由真のいるコーシア県庁にとどまっていた。

「それでは、通信を接続させましょう」

 マリナビア内政部長が、そう言って内線を開き、TA旅客本社の社長室への通信を手配させる。


 そちらも、通信はすぐに接続された。愛香がマイクに向かい、由真とタツノ副知事もヘッドホンを装着する。


『リフティオでございます』

 リフティオ社長の声が聞こえてきた。


「民政省冒険者局のシチノヘでございます。お疲れ様です」

『シチノヘ理事官、お疲れ様です。……『白馬』の件ですね?』

 当然というべきか、相手も話は早い。


『シンカニオは明日運行再開できるので、軍用列車の運行計画を示してほしい、と、アスマ軍には昼前に通告してあったのですが、『検討中』という以上の答えがないまま、15時になってしまいました。

 こちらとしても、明日の話でもありますから、16時をめどに、運行再開の旨を発表しようかと考え、陸運総監府に相談しようと思っていたところでした』


 リフティオ社長は、アスマ軍との事前調整を模索していたものの、さすがにしびれを切らしたらしい。


「それは……おとといの『503号』の二の舞、というおそれも……」

 愛香が眉をひそめて言う。


 一昨日、コモディアに向かおうとしたエルヴィノ王子以下の一行が乗車する予定だった「臨時白馬503号」は、「総司令官移動のための軍用列車を運行する」ために、発車1時間前に運休とされていた。

 同じような「ドタキャン」を強いられると――


『……おそらく、そうなろうかと思っております。こちらが特急券を発売したところで、『軍用列車運行のための運休』を仕掛けるものと……』

 リフティオ社長は、より辛辣な想定をしていた。


「それは……」

 愛香が言葉を詰まらせてしまう。


 彼女も、この数日アスマ軍と接触して、その「悪質さ」は十分理解させられたことだろう。

 そして、その悪意に満ちた嫌がらせじみた行動には、さしもの愛香も――


「あの、リフティオ社長、ユマですけれども、よろしいですか?」

 ――由真は、そこで口を出すことにした。


『あ、これはユマ様。何か、お考えが……』

「例えば、ですけど、上下線とも明日運行を再開する、と発表しておいて、実際には、上り便の方だけ発券して、下り便の切符は売らない、とか、そういうことは可能でしょうか?」

『下り便の切符を……売らない……』

 リフティオ社長は、由真の言葉をオウム返しする。


「『すでに満席で売り切れ』といった名目で、下りの切符を一切売っていなければ、敵が軍用列車の運行を強行しても、払い戻しの手間は発生しませんよね。

 実際問題として、魔物が迫っているナギナに向かう方の下り列車は、一般のお客さんにあまり乗られてもよろしくない……と、そう思われるところもありますから……」


 TA旅客の手間の面だけでなく、ナギナ方面の安全確保の面からは「不要不急の移動」は避けさせるのが得策――という考えもあった。


『なるほど……それは確かに……』

「もちろん、冒険者とか、関係の役所の人たちとか、そういう必要最小限の移動の分は、座席を確保していただきたいところではありますけど、そこは……三等車1両分もあれば足りると思いますし……」

『それは、確かに、モディコ200系の三等車は、洗面所つきでも1両85人は乗れますが……』


 あの列車は、やはり日本の新幹線の普通車並の収容能力があるらしい。


「であれば、その分だけ確保していただいた上で、後は、敵の要求があったら軍用列車に切り替える、という前提で、下りの切符は『売り切れ』の扱いとしていただいて、上りだけ発売していただく、ということで、いかがでしょうか?」

『……かしこまりました。確かに、それが一番危険が少ないと思われます』

 リフティオ社長は、そう答えてくれた。

 由真は、そこで愛香に目配せする。


「そうしましたら、その方向で、陸運総監府と調整の上、運行再開の手続きをお願いします。こちらは、ナギナに派遣する人間の数を固めます」

『かしこまりました。それでは、総監府と調整が済みましたら、改めてご連絡いたします』

 愛香の言葉にリフティオ社長がそう答えて、そして通信を終えた。

こちらはいずれも味方なので、話は順調に進んでいます。

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