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266. 秘書官着任

スタッフが新たに加わります。

 結局、昼食を終えるまでの間、ナギナとの通信はつながらなかった。

 アトリア時間の午後1時は、シナニア時間の正午で、今度はあちらが昼食時となる。

 その間は、通信を試みても無為に終わる。

 時間も空くため、その間でユイナがコーシニア中央駅に入り、シナニア東線の線路防衛の祈祷をすることになった。


 一方で、由真の秘書官2人が、アトリア西駅を13時に発車する「コーシア27号」でコーシニアに来るという連絡が入る。

 コーシニア中央駅に到着するのは14時40分で、午後3時前には知事室に挨拶に来るということだった。


 こうなると、先週――エストロ知事と連絡がつくより先にアクティア湖にいたユイナが県庁に到着したとき――同様に、ナギナ支部との連絡より先に秘書官2人が到着する可能性が高い。


 そんな由真の予想通り、ナギナとの連絡はつかないまま時間が流れていく。

 ユイナの「線路防衛の祈祷」も、さして時間はかからず、午後2時前には知事室に戻ってきた。


 午後3時近くになり、内線が入って、「秘書官が受付に来られました」と伝えられた。

 内線を取ったマリナビア内政部長が「通してください」と答えると、程なく扉がノックされる。


「失礼します。閣下の秘書官が来られました」

 そんな声がして、そして扉が開かれる。そこにいたのは――


「クロド支部長に、メリキナさん?」

 アトリア冒険者ギルドのジーニア支部に勤めている2人が、確かにそこに立っていた。


「え? どうして……」

「実は、このたび、兼任で閣下の秘書官を仰せつけられました」

 そういって、クロド支部長は2枚の紙を見せる。



冒険者 B級大夫 サンティオ・クロド


 勅命を奉じ兼ねて州務尚書秘書官に任じA3級に叙する。


大陸暦120年晩夏の月10日

アスマ公爵ノーディア王子エルヴィノ



州務尚書秘書官 サンティオ・クロド


 コーシア州務尚書付に補する。


大陸暦120年晩夏の月10日

尚書府長官官房長 グリト・リデロ・フィン・ファスコ



 それは、以前愛香が見せたのと同じ、兼任の官記と補職辞令だった。


「メリキナさんは、C級の事務員でしたので、やや手続きが煩瑣になりましたが」

 クロド支部長に話を振られて、メリキナ女史は、4枚の紙を取り出した。



アトリア冒険者ギルド事務員 ラミナ・メリキナ


 冒険者ギルド書記官に任ずる。

 B3級に叙する。


大陸暦120年晩夏の月10日

アスマ公爵ノーディア王子エルヴィノ



冒険者ギルド書記官 ラミナ・メリキナ


 アトリア冒険者ギルド ジーニア支部付に補する。


大陸暦120年晩夏の月10日

民政尚書 カルノ・リデロ・フィン・コールト



冒険者ギルド書記官 ラミナ・メリキナ


 兼ねて州務尚書秘書官に任じB3級に叙する。


大陸暦120年晩夏の月10日

アスマ公爵ノーディア王子エルヴィノ



州務尚書秘書官 ラミナ・メリキナ


 コーシア州務尚書付に補する。


大陸暦120年晩夏の月10日

尚書府長官官房長 グリト・リデロ・フィン・ファスコ



「C級のギルド事務員からB級のギルド書記官に昇格、業務課から支部付に異動、その上で、秘書官に兼任となりました」

 その煩瑣な手続きが、4枚の紙に示されていた。


「閣下よりご指名とのことにつき、僭越ながら勤めさせていただきます」

「非才の身で恐縮ですが、よろしくお願いいたします」

 クロド支部長とメリキナ女史は、そう言って深く頭を下げる。


(ご指名、って……もしかして……)


 一昨日、ファスコ官房長から「秘書官2人がつく」と言われた際に、由真は「クロド支部長とメリキナさんくらいしか知ってる人はいませんし」と答えていた。

 それを文字通りに解釈して、今回の人選がなされたということだろうか。


「あ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 由真は、そう言って礼を返すしかなかった。



 ともかく、着任した秘書官2人に、早速目下の課題「ナギナ支部との連絡」を告げる。


「北シナニアのナギナ支部……ですか」

 クロド支部長は表情を曇らせる。


「それは、難しい……ですよね……」


 北シナニア冒険者ギルドと確執のあるアトリア冒険者ギルド。

 その中枢といえるジーニア支部の長が、北シナニアの県都と連絡を取るのは、由真自身が当たるより壁が高い。


「私は、北シナニアに赴任したこともあり、クシルノ支部長やオムニコ男爵、フォルド男爵も知らぬ関係ではないのですが……」

「クロド支部長は、大陸暦111年から113年まで2年間、北シナニア県冒険者部の魔物対策第二課長でした。クシルノ支部長は総務課の書記官で、ラルドやグニコは当時から戦力でした」

 クロド支部長の言葉をタツノ副知事が補う。


「クロド支部長、あちらに赴任してたんですか……」

「県庁への赴任は、民政省の官吏の典型的な人事コースです。……当時は、大陸暦111年初春の月ナギナ魔物大量襲撃事件が発生した直後だったため、特にクロドさんを派遣した、という事情もありましたが」

 由真の言葉にタツノ副知事が応える。

「冒険者ギルド民間化」以前は、管理に当たる官僚も柔軟に展開できたということだ。

 少なくとも、今の北シナニア冒険者ギルドに対しては、同じようなことはできないと思うと、やはり「弊害」を意識せずにいられない。


 そこに、内線の呼び出し音が鳴った。


「はい、知事室です」

 マリナビア内政部長が受話器を取る。

「……はい、ここに来ています。先方が指名しているということですね」

 そう言うと、マリナビア内政部長は由真たちの方に振り向く。


「クロド君、ナギナのクシルノ支部長から通信が来てるわ。ご指名だけど、大丈夫?」

マリナビア部長が「大丈夫?」と問いかけて終了です。

今回は事実上設定説明回なので、次は1時間後に予約投稿してあります。

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