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261. 続・週明けの閣僚会合 - 対応について

エルヴィノ王子が直接問いかけます。

 エルヴィノ王子は、閣僚会合の席上で「紅い虎」――紅虎の神使と河竜の関係を直接問いかけてきた。


 由真とユイナは一瞬目を見合わせて、ユイナがうなずき起立する。


「実は、それについても、大地母神様から神託を賜りました。紅虎様が『荒ぶ時』に入られたのは、これを御する者の仕業です。その者は、河竜が封じ込められたことを受けて、これを解放するために、コーシア伯爵閣下がガルディア堰堤に入り、合流地点には私たち留守隊だけが残った機会を狙って、ガルディア堰堤に神使を出してコーシア伯爵閣下を足止めして、合流地点の方を打破しようとした、とのことです」

「それはつまり、河竜と紅虎様の神使は、同じ者の意を受けて、北シナニアを襲っていた、ということですか?」

 またしても、エルヴィノ王子が問いかける。


「はい。それで、結局、両方とも討伐されたため、その者は、より慎重になり、紅虎様ご自身に襲撃させて、ナギナを確実に殲滅した上で、攻略に来る伯爵閣下のパーティーを、総力をもって返り討ちにするつもりである、と、大地母神様は、そのように仰せでした」


 ナギナを狙う敵――すなわちイドニの砦に跋扈する勢力が「黒幕」だった。

 ユイナがそのことを告げると、閣僚たちの表情は一様に硬直する。

 由真たちの真向かいに座るアスマ軍の2人すら、険しい表情になり互いに顔を見合わせた。


「その、紅虎様を御する敵将の、氏素性がわかるとよいのですが……」

 エルヴィノ王子のさらなる問いかけに、起立していたユイナと座っていた由真は再び目を見合わせる。


「あの……実は、コーシア伯爵閣下からのお尋ねに、大地母神様は、魔王四天王が一、地の大魔将ダクト・オリステロ・フィン・ガロ、と……そう仰せになりました」

 ユイナは――「由真の問いに答えた」と付言して――その名を告げる。


「なるほど、魔王四天王……それも地の大魔将が、イドニの山地に依拠していた、しかも、西方守護神を『荒ぶ時』に陥れ、西のシナニアの地を押さえた、ということですか。それは……極めて厳しいですね」

 エルヴィノ王子は、常の笑顔を消して、険しい表情でそう言葉を返す。


「紅虎様の神使に関しては、セレニア神祇官から話のあったとおり、全土の神殿において祭祀を怠りなく務めていただく、ということでしょうね」

 それ自体は、ユイナからの連絡を受けた総主教府が取り仕切る。

 ただ、アスマ公爵たるエルヴィノ王子が明言したことで、それは州全体の方針と位置づけられることになる。


「その上で、地の大魔将との戦いについては……州庁としては、冒険者の戦力、ことにコーシア伯とそのパーティ-、それに北シナニアにいるA級冒険者たちに頼ることになりますから、決戦に向けて全面的に支援していくことになるでしょう」

 そこまで言うと、エルヴィノ王子は、目線を左側――アスマ軍の2人に向ける。


「それで、アスマ軍の方は、いかがされるおつもりでしょう?」

 王子は正面から問いかける。


「……いかが、とは?」

 目線を向けられて、イタピラ総司令官は正面から問い返す。


「状況については、コーシア伯とセレニア神祇官から説明があったとおりです。一昨日の会合では、先遣隊1個連隊を派遣する、ということでしたが……そちらの見通しなり、今日までに判明した状況を受けた、さらなる対策なり、そういったお話はありませんか?」

 エルヴィノ王子は、イタピラ総司令官の目を正面から見据える。


 問いかけられた総司令官と、その隣に座る総参謀長は、いずれも洗脳術式を発動しようとして――やはり由真の「封鎖」によって効をなさなかった。


「私は、統帥権には関わっていませんし、それ以前に軍の教育も受けていませんから、アスマ軍に向かってあれこれと指図するつもりはありませんが、先遣隊の派遣などは、早めに実施していただいた方がよい、とは思います」

 そう言うと、エルヴィノ王子はその目を由真たちの方に戻した。


「先週の台命(たいめい)では、北シナニア冒険者ギルドに対しても、防御に全力を尽くすこと、それと砦の攻略の可能性を検討することを指示していましたが、その後、あちらから何か連絡はありましたか?」

 エルヴィノ王子は、その課題にも言及してきた。


 北シナニア冒険者ギルドとの関係。

 河竜対策のための「選択公理作戦」は、オプシア支部、クシノロ支部を巻き込み、ノクティノ支部に至っては、宿と食事の用意から通信の送受信まで大いに協力を得た。

 しかし、それは「本部には無断で」行われたことであり、北シナニア県庁民政部長にしてギルド理事長であるエンドロ男爵とは、一切意思疎通していない。

 それ以前に、由真はその作戦の発案者かつ実行者ではあるものの、冒険者ギルドを指揮命令した訳でもない。


 由真もユイナも、自らの右側に目を向ける。


「それが実は、少なくとも私は、北シナニアから通信も雷信も全く受けておりません」

 目を向けられた人物――コールト民政尚書は、額の汗を拭いつつ答える。


「冒険者局は……」

 コールト民政尚書は、そう言って下座に目を向ける。


「こちらも、何もございません」

 答えたのはビルト冒険者局長だった。その隣で、愛香も無言で頷いた。


「音沙汰なし、ですか。そうなると……」

 エルヴィノ王子の表情が一段と険しくなる。


「殿下、とりあえず、コーシア県庁から、改めて連絡を試みます」

 王子が言葉を続けると引っ込みがつかなくなる。

 そう直感した由真は、とっさにそう口にしていた。「コーシア県庁から」と言えば、タツノ副知事からの連絡でもかまわない。


「そうですね。そこはコーシア伯にお願いしましょう。それと、民政省からも、全冒険者ギルドが一致団結して事に当たるよう、改めて通達をお願いします」

 そう言うと、エルヴィノ王子は正面に目を向ける。


「他に何かございますでしょうか?」

 その目を受けて、ファスコ官房長が問いかける。それは――


「何もなければ、閣僚会合はこれで閉会とさせていただきます。殿下には、シンカニオにてアトリアへお戻りになられます」

 ――という言葉とともに、閣僚会合は終わった。

王子が主導権を掌握したまま、会合は終わりました。

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