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260. 週明けの閣僚会合 - 状況の報告

週明けの会議が始まります。

 この日は、カリシニア離宮に滞在していたエルヴィノ王子が10時ちょうどに到着する特急「コーシア30号」でコーシニアに入り、10時半からのイドニの砦対策本部閣僚会合に臨む。

 エルヴィノ王子は、大仰な出迎えを好まないものの、何の事前相談もできていないこともあり、今回は由真とタツノ副知事の2人が出迎えに行くことにした。


 特急「コーシア30号」は、定刻の10時ちょうどに到着して、特等車からエルヴィノ王子の長身痩躯が現れた。すぐ後ろに、ファスコ官房長、愛香たち随員も続く。


「お二人とも、お疲れ様です」

 その言葉に、由真とタツノ副知事は平伏を返した。


 由真たちに案内されたエルヴィノ王子一行は、特等・一等の専用通路を通り、南口に停車させていた県庁のバソに乗車した。


「今日の閣僚会合ですが、できるだけ手短に済ませるつもりです」

 席に着くなりエルヴィノ王子が口を切る。


「昨日の戦果について説明していただき、神殿で神託を預かっているのであればそれについても説明していただき、アスマ軍が部隊を動かすということであればその方針も聞いた上で、引き続き対策に当たる、ということだけ確認して、それで終わりとします」

 王子は、議事進行の細かい段取りまで口にした。


「それは……」

「事態は、冒険者ギルドによる討伐、つまりはユマ殿のパーティーの活動と、神殿の祈祷、つまりはユイナさんの働き、その二つに収束しつつありますから、それ以外の雑事の優先度は低い、ということを強調しておきたい、というところです」

「そうなると、説明するのは、討伐の関係は僕、神殿の神託の関係は、ユイナさんから、という……」

「差し支えなければ、それでお願いしたいと考えています」

 由真とユイナを前面に出して、主にアスマ軍の2人を押し切るということだ。


「そうなると、愛香さんからの説明などは……」

「そちらは、終了後の理事官会議で打ち合わせをお願いします。ユマ殿とシチノヘ殿がそろっていれば、イタピラ総参謀長も軽くあしらえるでしょう」


 ――愛香がいれば簡単にあしらえるような気もするが、洗脳術式を押さえ込むには由真も同席していた方がいいだろう。


 混乱を避けるため、エルヴィノ王子たちはいったん知事公邸に入り、渡り廊下を経由して県庁に進むという段取りとなった。

 コーシア県庁の大会議室は、一昨日のコモディア神殿のときと同様のレイアウトで席が用意されていた。


 王子から見て右側は、席が2つ用意されている。手前が由真、その隣には今回はユイナが着くことになった。

 そのユイナは、タツノ副知事に連れられて入室してきた。着用しているのは、朝の祈祷のために使っていたえんじ色の神官服だった。


「あの、私が直接、閣僚会合の場で説明する、というのは……」

「先ほども申し上げましたとおり、殿下の御意です。S1級の閣下と猊下に直接お話をいただくように、ということです」

 戸惑いを隠しきれない様子のユイナに、タツノ副知事がそう告げる。


 閣僚たちも入室し、開始直前にイタピラ総司令官とイスカラ総参謀長も姿を現した。

 2人は、「上座」にいる由真とユイナに険しい目を向けた。イスカラ総参謀長は、洗脳術式を繰り出す気配を見せた。


「『彼らの(エオールム)洗脳の(ポテスターテース)術の(アルトゥム)能力を(コゲントゥム)しばしの間(プロー・テンポレ)遮らん(インテルキピアム)』」


 一昨日と同じ呪文で、2人の洗脳術式は封印しておくことにした。


「それ、もしかして前回も使いました?」

 ユイナが問いかけてきた。

「まあ……あちらに洗脳術式を使われると、会議が進まなくなりますし……」

「それでは、イドニの砦対策本部閣僚会合を開会させていただきます」

 由真が答えるのと同時に、ファスコ官房長が宣言する。


「一昨日からの大きな変化として、かの河竜が討伐されたこと、それとは別に、大陸暦120年晩夏の月9日ガルディア堰堤(えんてい)赤色虎型(せきしょくとらがた)魔物襲撃事件が発生したことがございます。

 これにつき、討伐に当たられたコーシア伯爵ユマ閣下より、お話を賜りたく存じます」


 エルヴィノ王子の挨拶を省略して、いきなり由真が指名された。「ご指名」ということで、由真は立ち上がる。


「昨日まで、僕とこちらのセレニア神祇官猊下、それにアイザワ子爵、カツラギ男爵、センドウ男爵とウィンタ・ボレリアさんで、ガルディア町のベニリア川とノクティナ川の合流地点で、河竜襲撃に備えて監視をしていました」

 まずは、前置きとして昨日までの体制について話す。


「昨日朝、ガルディア堰堤の様子を確認するため、僕は、センドウ男爵とウィンタ・ボレリアさんとともにそちらに向かい、神祇官猊下とアイザワ子爵、カツラギ男爵が合流地点に残りました。

 そのさなかの、現地9時50分頃、監視していた地点に、河竜1体、魔族サゴデロ兄弟2体が、水鬼61体を伴い襲撃してきました。水鬼61体はアイザワ子爵が殲滅、魔族アルト・サゴデロはカツラギ男爵が斬り伏せ、魔族ウムト・サゴデロはアイザワ子爵が氷系統魔法で討伐し、河竜もアイザワ子爵が氷結させて討伐しました」


 二手に分かれたところで同時発生した事件のため、どうしても説明が長くなってしまう。


「同じ頃、ガルディア堰堤に到着した僕たちは、紅い虎のような魔物が出現したのを目撃しました。この紅い虎は、堰堤の堤体や周囲の山地などを破壊しようとしましたが、こちらも、僕たちで討伐しています。

 ただ、その魔物が、紅虎(こうこ)様に非常に似通った外観だったため、神殿の方に神意のお伺いをお願いしました」


「そちらに関しましては、本日は、S1級神祇理事、セレニア神祇官ユイナ猊下にもご出席をいただきましたので、猊下よりお話をいただきたく存じます」

 由真の説明を引き取って、ファスコ官房長はユイナに話を振る。


「はい。あの、私の方で、今朝、大地母神様にお伺いいたしましたところ、紅虎様は『(すさ)ぶ時』に入られており、その神使(しんし)が、魔物と化して堰堤を襲撃し、コーシア伯爵閣下に討伐されたとのことでした。

 その際、『神使の()』が激しく壊滅的な打撃を被ったため、今日から明日にかけては、魔物と化した神使の襲撃のおそれはないものの、それ以降については、出現と襲撃の危険があります。

 大地母神様は、各地の神殿が怠りなく祭祀に勤め、『ラ』を清浄な状態に保てば、魔物と化した神使の襲撃のおそれは減り、出現したとしても力は限定的なものとなる、しかし祭祀を怠れば、『ダ』に裏打ちされた『ラ』が強まり、それだけ危険が増す、との神意を示されました」

 開始前には当惑をあらわにしていたユイナは、閣僚たちを前にして臆することなく蕩々と説明してみせる。


「なるほど。しかし、紅虎様の神使が、なぜ河竜の潜伏地点にほど近いガルディア堰堤に襲ってきたのでしょう?」

 そこで初めて、エルヴィノ王子が口を切る。


 それは――ユイナが言及しなかった、そしてこの場における最重要課題に直結する点だった。

しばらく休んでおりましたが、投稿を再開しました。

あまり間が開かないように、ゆっくり連載を続けるつもりです。

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