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257. 明日の予定

帰りの列車が発車します。

 由真たちは、14時15分発の特急「臨時白馬506号」に乗車した。

 特等室2室は、1室に由真、衛、ウィンタが、もう1室にはユイナ、晴美、和葉が入る。

 そして、席に落ち着くなり、由真は報告の原稿を綴り始めた。


 定刻の午後2時15分にコモディア駅から発車した列車は、特にトラブルもなく進み、午後3時5分にカリシニアに到着した。

 カリシニア離宮の誰かが顔を出すかと思ったものの、そのようなことはなかった。


 午後3時12分にカリシニアを出ると、個室の時計が1時間進められて、アトリア時間の午後4時12分とされる。

 急勾配を慎重に下った列車は、午後4時40分にユリヴィア駅に到着した。

 直後、車内放送に「3回3連」の鐘が鳴る。


「お客様にお知らせいたします。州庁民政省より、魔物に関する警戒情報が発表されました」

 続いて車掌のアナウンスが流れる。


「州庁民政省は、大陸暦120年晩夏の月9日ガルディア堰堤(えんてい)赤色虎型(せきしょくとらがた)魔物襲撃事件に関連して、アスマ州内全域に、魔物に関する警戒情報を発表しました。虎型の魔物その他の未確認の魔物の襲撃に警戒してください」


 ――「大陸暦120年晩夏の月9日ガルディア堰堤赤色虎型魔物襲撃事件」。確かにそう聞こえた。


「これ、もしかしなくても……」

「あの『紅い虎』のこと、ですよね……」

 ウィンタに言われて、由真はそう応える。


「なんだってまた……」

「まあ、あの敵が神出鬼没となると全土的な危機、って考えたら、取り急ぎで警戒情報を出しておく、っていうことじゃないですかね」


 情報を秘匿しておくよりは、判明している範囲の情報から警戒を呼びかけた上で、詳細が判明したら警戒の対象を絞り込んでいく方がよいだろう。


 発車時刻が近づいて、再び「3回3連」の鐘が鳴る。


「民政省から、魔物に関する新しい情報です。晩夏の月9日現地9時50分頃、北シナニア県ノクティノ郡ガルディア町のノクティナ川ガルディア堰堤において、出現例なき強力な赤色の虎型の魔物による襲撃事件が発生しました。

 当該魔物については、コーシア伯爵ユマ閣下が、冒険者センドウ男爵マモル閣下とウィンタ・ボレリア氏とともに戦闘して、大規模雷撃術式により討伐に至りました。

 民政省は、本件を『大陸暦120年晩夏の月9日ガルディア堰堤赤色虎型魔物襲撃事件』と命名しました。

 この事件に関連して、民政省は、アスマ州内全域に、魔物に関する警戒情報を発表しています」


 今度は、命名の通知に個人名が含まれている。


「これは……『ユマ様が若干手こずりました』っていう情報?」

「……おそらく、そういうことだと」

 ウィンタの言葉に衛が答える。

「まあ、ユマちゃんにあれだけ手間をかけさせた、っていうのは、大事な情報よね」


 その言葉に、頷く気にはなれず、さりとて強く否定するのも気が引けて、由真は反応できなかった。


 新たな「警戒情報」は出たものの、列車は定刻通りにユリヴィア駅から発車した。


 目新しいアナウンスが入ることもなく、定刻の午後6時に、列車はコーシニア中央駅に到着した。

 下車すると、タツノ副知事が迎えに来ていた。


「お疲れ様でございました」

 副知事は、そう言って丁重に頭を下げる。

「いえ、副知事こそ、休日にお疲れ様です」

 由真はそう応え、後ろにいた一行も礼を返す。


 副知事に連れられて、一行は改札を出て、知事公邸に入った。


「こちらは、カリシニアからの雷信です」

 1階の小会議室に入ったところで、副知事はそう言って、全員に封書を配る。



大至急

晩夏の月9日17:42受信


コーシア県副知事 SS級大夫 タツノ男爵ヨシト閣下


 全州務尚書宛に以下のとおり雷信を発出いたしましたのでお知らせいたします。

 コーシア伯爵閣下が 到着されましたら、お伝えいただければ幸いです。


大陸暦120年晩夏の月9日

 尚書府長官官房長 グリト・リデロ・フィン・ファスコ


全州務尚書各位


 本日討伐された河竜及び赤色虎型魔物に関して、現地16時時点の状況を別添のとおり整理の上、民政省冒険者局付シチノヘ理事官より 公爵殿下に上申いたしました。

 公爵殿下よりは、 北シナニア冒険者ギルドともよく連携して早急に問題を解決するよう全力を尽くされたいとの御意のお示しがありました。

 殿下の 御意を体し、事態解決に向けご協力よろしくお願いいたします。


大陸暦120年晩夏の月9日

尚書府長官官房長


(別添)

1 紅虎様 関係

 赤色虎型個体の襲撃について、総主教府において神意を伺ったところ、当該個体は 紅虎様の神使であり、その意を受けて堰堤を襲撃したところ、厳しく撃退されたため明日までは再出現不能となったものの、それ以降は出現の可能性があるとの託宣を賜った。

 総主教府は、より詳しくは、セレニア神祇官猊下からのお伺いが必要との認識を示している。


2 ガルディア町戦闘関係

 魔族魔物対策部総務課長以下が現地入りし、赤色虎型個体は生体反応がないこと、河竜もコアが極低温にて冷凍され機能を喪失していることを確認した。

 なお、討伐に当たった コーシア伯爵ユマ閣下一行は、9日14時15分コモディア駅発の特急「臨時白馬506号」にてコーシニアへ移動した。報告については、民政省本省においてコーシア冒険者ギルドより聴取する。


3 魔物情報

 紅虎様神使に関しては、 赤色虎型魔物襲撃に関するものとしてシナニア時間15時40分に全土を対象とする警戒情報を発出した。本件については、明日以降、 コーシア伯爵閣下、セレニア神祇官猊下を中心に対策に当たる。

 河竜に関するものは、現場検証の上、明日をめどに警戒情報を解除する。


4 鉄道

 河竜は討伐されたものの、残党による攻撃の危険があることから、シンカニオ特急「白馬」の全線運行再開は明後日11日以降とする。


5 対策本部

 公爵殿下と 随員一行は、明日10日現地7時13分カリシニア駅発の特急「コーシア30号」に乗車、コーシニア中央駅に10時00分に到着し、10時30分よりコーシア県庁において対策本部閣僚会合を開催する。



 由真たちが移動している間で、神殿からの「お伺い」や、現地の現場検証などは進められていたらしい。

 その流れで、ユリヴィア駅停車中に放送された「警戒情報」も発表されたということだろう。


「紅虎様の神使の関係は、明日にも猊下よりお伺いを立てていただき、詳細な情報が得られてから警戒情報を発表しよう、という方針でこちらに相談がありましたが、閣下は、警戒の呼びかけは早め早めに行うべき、とお考えかと思い、私の方で、取り急ぎ発表すべき、と意見いたしました」

 副知事がそんなことを言う。


「あ、その、恐縮です。あの、早めの警戒の呼びかけで、助かりました」

 面はゆくなった由真は、答える言葉の歯切れが悪くなってしまう。


「それで、明日は、10時半から対策本部となります。閣下には、副長官格の担当尚書として、ご出席いただくことになります」

 そう言われて、由真の意識も「明日の予定」に向かう。


「そうすると、ユイナさんは……」

「朝食を済ませたら、中央神殿に入って、お伺いと祈祷をします」

 さすがにユイナは即答する。


「それ、僕もついて行った方がいいですかね」

 ユイナに「丸投げ」というのも気が引けて、由真はそう問いかける。


「それは、ユマさんを煩わせるようなことでも……」

「ただ、閣下も、実質『お国入り』から1週間経ったことでもありますし、せっかくですから、中央神殿でコーシア司教と面談していただいてもよいかと思います」

 ユイナの言葉に、タツノ副知事が言う。


「ああ、そうですね。挨拶くらいは、しておいた方がいいですよね」

「ええ。私も同行させていただきますので、是非とも」


 それで、明日の午前の予定は固まった。

一応、この日は「第7日」=「日曜日」です。皆さん休日返上です。

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