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255. ガルディアの戦いを終えて

ともかく、戦闘が終わると後片付けがあります。

 襲撃から1週間潜伏していた河竜は、晴美たちが撃退した。

 他方で、ガルディア堰堤に「紅い虎」が出現したものの、これも由真たちが討伐した。


 その模様は、「内務省が設置した遠隔監視機構」を介してエルヴィノ王子の目に入っていたという。


「まあ、一応は、決まりですから、これ、書いておきましたけど」

 溜息交じりで、ユイナは別の紙を取り出す。


魔物速報(襲撃)


大陸暦120年晩夏の月9日

ノクティノ支部発信


1 時点

 大陸暦120年晩夏の月9日9:50頃


2 場所

 ノクティノ郡ガルディア町サストレア1区地先 ベニリア川・ノクティナ川合流地点


3 個体概数

 河竜 発見数1 討伐済1 交戦中0 逃走0

 魔族 発見数2 討伐済2 交戦中0 逃走0

 水鬼 発見数61 討伐済61 交戦中0 逃走0


4 その他

 本件は、大陸暦120年晩夏の月3日コモディア上位魔物襲撃事件において襲撃した河竜及びサゴデロ兄弟を討伐したものである。なお、河竜はアイザワ子爵が氷結術式により行動不能としている。



 それは、定式通りの「速報」だった。


「そういえば、それ、いるんですよね」

「ええ。水鬼の数は、ちょっと自信がありませんけど……」

 ユイナは再び溜息をつく。その「61」という数は――


「……河川敷に転がってる死骸は、確かに61個ですね。これだけでも、大災害ものですよね」

 由真は、魔法解析した上で、自分が数え上げた結果を応える。


「そうですね。河竜とサゴデロ兄弟の印象が強すぎて、数字が面倒にしか思えなくなってますけど」

 ユイナの感覚も、さすがに変調しているのだろう。


「それ、ユマさんたちが戻るのを待って、出張所に持って行こうかと思ってたんです」

 ユイナは、そう言葉を続ける。この「速報」は、これから送信される。ということは――


 由真は、眼前の河竜に関する「速報」をまねて、急いでメモを作る。



魔物速報(襲撃)


大陸暦120年晩夏の月9日

ノクティノ支部発信


1 時点

 大陸暦120年晩夏の月9日9:50頃


2 場所

 ノクティノ郡ガルディア町 ノクティナ川ガルディア堰堤


3 個体概数

 魔物 発見数1 討伐済1 交戦中0 逃走0


4 その他

 討伐した魔物は、紅色の皮膚に白い縞を持つ虎型で、戦闘に当たった冒険者ユマ、ウィンタ・ボレリア氏、センドウ男爵はいずれも初見のため素性は不明。



「紅地に白い縞……」

 それを見ていたユイナが言葉を漏らす。

「これ、例の『紅虎(こうこ)様』と、関係があるんでしょうかね?」

 そのユイナに、由真は問いかける。


「ええ、まあ……紅地に白縞は、紅虎様の特徴的な外観です。同じ姿で、ここからもわかる程度に強かったとなると、ただの眷属ではなく、『神使(しんし)』という、分身みたいな存在だと思います」


 由真が直観した「分身体」。ユイナの推測が正しければ、実際にそういう存在だったということになる。


「その辺は、書いた方がいいのかな……」

「あ、それは、魔物対策部もカリシニアに来ているなら、すぐ現場検証に来ると思いますから、速報はこの程度で大丈夫だと思いますよ」

 由真の言葉にユイナがそう応じる。確かに、専門部隊がいるのなら、彼らに任せればよいだろう。


「そしたら、この小型バソを返しに行くついでで、それ、詰め所に届けてくるわね」

 そういって、ウィンタが2枚の原稿用紙を受け取り、往復で使った小型バソに乗り込んだ。



 監視小屋から小型バソが出発して、ものの10分ほどで、再び戻ってきた。

 ウィンタに続いて、出張所長も降りてきた。


「アイザワ子爵様、本局のシチノヘ理事官から雷信が来ました」

 そう言って、出張所長は封書を差し出した。



大至急

晩夏の月9日10:34受信


北シナニア冒険者ギルド ノクティノ支部ガルディア出張所気付

アイザワ子爵ハルミ閣下


 お疲れ様でございます。

 公爵殿下の 御意により、ガルディアについては民政省冒険者局魔族魔物対策部総務課長以下と内務省国土局河川部長以下が対策に当たるべく、カリシニア駅10時45分発の「臨時白馬503号」にて現地に入ることとなりました。

 コーシア伯爵ユマ閣下と 皆様方には、ひとまずコモディアまで撤収いただいて差し支えありません。

 その後については、コモディアにおける連絡先を指定していただければ、そちらに連絡します。


大陸暦120年晩夏の月9日

民政省冒険者局付理事官 アイカ・フィン・シチノヘ



 この地に潜んでいた河竜の討伐が終わった以上、監視小屋を間借りしての見張りも不要になる。

 ここにいては、雷信1通でも出張所との往復を強いられるのに対して、コモディアに入れば現地で直接雷信が打てる。


 監視小屋の時計は、10時45分を指していた。


「そうすると……昨日僕が乗った、12時23分の快速ですかね」

「そうですね。後片付けをして、1時間後に出発、という辺りで、ちょうど良さそうですね」

 由真の言葉にユイナがそう応えて、方針は決まった。


 武器や筆記用具などを片付けて、使っていた備え置きの食器や借りた食材を載せていた皿なども洗って、ついでに五徳代わりに使っていた石なども元に戻す。

 結局、監視小屋を出るまでに小一時間ほどかかった。


「いろいろとご迷惑をおかけしました」

 小型バソに乗り込んだところで、一同を代表する形で、由真は出張所長夫妻に言う。


「いえ、とんでもありません。あの河竜を、見事に退治していただいて、おさすがです」

「この片田舎に、ユマ様にユイナ様と皆さんが来られて、河竜退治までされたなんて、末代までの語りぐさです」

 夫妻はそんな言葉を返した。


 程なく、小型バソは駅に到着した。


「それでは、こちらを雷信してください」

「かしこまりました。お疲れ様でございました」

 そんな言葉を交わして、由真は出張所長に最後の原稿用紙を渡した。



尚書府カリシニア離宮事務所気付

民政省冒険者局付理事官アイカ・フィン・シチノヘ閣下


 お疲れ様です。

 コーシア伯爵ユマ閣下と セレニア神祇官猊下及び冒険者一行は、12時23分にガルディア・ノクティニカ駅を発車し13時4分にコモディア駅に到着する快速列車にて、コモディアまで撤収します。


大陸暦120年晩夏の月9日

ハルミ・フィン・アイザワ

ということで、一行はガルディアを後にします。

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