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252. 止まらない「紅い虎」

敵は、ダメージを帳消しにしたあげく、より強力になってしまいました。

 地系統と水系統の槍で致命傷を与えた直後、「紅い虎」はまばゆい光を放ち、そしてより強大な状態になった。


「そんな……嘘でしょ……」

 ウィンタが、呆然とした面持ちで声を漏らす。


(これは……)


 由真は、すぐに魔法解析する。この「紅い虎」の「コア」に、別の箇所から伸びる「糸」か「紐」のようなものがつながっていた。


(これは、『本体』からの……)


 おそらくは「分身体」であろうこの個体が深刻なダメージを負うと、「本体」から「ラ」が補給されて、ダメージを打ち消した上でさらに強大な姿を取らせるという仕組みだろう。


(『本体』に介入するのは……)


 この「分身体」に結ばれた「紐のような何か」を介して「本体」を探ってみると――物理的に遠く、ここから直接ダメージを与えるには「ラ」が強すぎた。


(となると、『これ』を切るしかない)


 この「紐のような何か」を切って、「本体」からの介入を無効化する。


(『切り方』を探るには、時間がいるな)


 そこまで来て、由真の基本方針は定まった。


「あれは、おそらくイドニの砦にいる『本体』から『ラ』が補充されてます。それを断ち切るのが理想ですけど、ちょっと厳しいので、とにかく敵に攻勢を取らせないために、こちらからどんどん仕掛けましょう」

「……わかったわ。とにかく、攻めるしかないものね」


 由真の言葉にウィンタはそう応えてくれた。「飽和攻撃」という意図は伝わったらしい。


(あとは……ダメージを強めるには……)


「『湖より(アクアース)来たりて(アブ・ラクー)湖へ(アドウェニアント)戻る(エト・アド・ラクム)水を(レウェニアント)なさん(ファキアム)』」


 これまで攻防に使っていた「水」は、付近の「ラ」を使ってはいたものの、それ自体は系統魔法で作り出したもので、地面に衝突すると消え去る仕組みだった。

 しかし、それではこの敵に十分な打撃は与えられない。

 とはいえ、実物の水を攻撃に使うと、下流に氾濫を起こしてしまう。

 そこで、ダム湖の水を一時持ち出して攻防に使い、使用後はダム湖に戻すという術式を仕組むことにした。

 これで、遠慮なく「実物の水」を使うことができる。


「それと……『山々と(フォルマース)堰の(モンティウム)形相を(モーリスクェ)固めん(フィガム)』」


 この「紅い虎」の力で山とダムが破壊される前に、その「形相」を強化する。これで、破壊に対する耐性は強まり、また修復も容易になる。


「『光のなせる闇の風、集いて我に与すべし』。【闇の風】!」

 そしてウィンタが詠唱し、「闇の風」が「紅い虎」の周囲に充満する。


「グオアアア!」

 一段と高く鋭い咆哮とともに、「紅い虎」は雷撃を放つ。


「【(マグヌス)(ムールス)(アクアリウス)】!」

 今度はダム湖の水を直接使って、大きく「水の壁」を展開する。もちろん、不純物は含まない形として、絶縁は確保している。


(こいつ……電圧は何ボルトくらいだ……)


 敵の攻撃力の程度は、そのまま防御可能性の程度に直結する。

 それを「電圧」で測定するすべはなく、感覚に依存せざるを得ない。


(……無い物ねだりは、しても意味ない)


「【(フルメン)(テレストレ)】!」


 すぐに意識を切り替えて、由真は「地雷」の術を放つ。それは、ユイナの使った「地の(いかづち)」そのものだった。


 足下から突如雷撃に見舞われて、「紅い虎」は一瞬もだえて、そして天高く飛び上がる。


「グオアアア!」

 咆哮し、大きく口を開いて、雷撃を放つ気配を見せる「紅い虎」。


「『水により(アブ・アクアー)それを(イド)包まん(コンプレクタル)』」

 その相手に向けて由真は詠唱する。水による「圧縮」ではなく「包囲」。それで、「紅い虎」は水の塊に覆われた。


「【(マグナ)(フルミナ)(アエリア)】!」

 空中の――すなわち通常の雷撃を、水で覆われた「紅い虎」に集中させる。

「紅い虎」が自ら放った雷撃を含めて、全てが水に呑まれて――大きな火花が飛んだ。


「グアアア!」

 空中で「紅い虎」が悶絶する。


(これは……例の『紐』は、空中じゃなく地面経由か)


 それを見つつ、由真は魔法解析を図る。敵の「本体」と「分身体」を結ぶ「ラ」の「紐」は、「地」を伝わっている。空中にいる相手を解析して、それはわかった。


(空中でダメージを与えても、着地されたら元に戻る。となると、地上でやるしかない)


 そう思っているうちに、「紅い虎」は地に落ちて、くるりと身をひねらせて足下から着地した。


「ウグアアア!」

 咆哮とともに、「紅い虎」は全方位的に雷撃を放つ。


「【(ノウェム)(スクタ)(アクアリア)】!」

 その雷撃が「9撃」だと感知した由真は、その全ての行き先に水の盾を展開する。今度は真水で、絶縁の効果も持たせている。


「あっ! 今ので、『闇の風』が!」

 ウィンタが叫ぶ。魔法解析を向けると、確かに「闇の風」が拡散していた。


「ウィンタさん、『闇の風』は、まだ行けますか?」

「あたしは大丈夫。けど、やり過ぎると、下流に毒が……」

 由真の問いに、ウィンタは険しい表情で答える。


(確かに、これはやり過ぎると湖水爆発だからな)


 二酸化炭素が川に沿って大量に放出されては、少なくとも、下流にいる晴美たちに被害が及ぶ。

 その先のコモディアや、離宮のあるカリシニア、さらに下れば、コーシニアにさえも――


「ガアアア!」

 そこへ響いた咆哮、そして足音。

 見ると、「紅い虎」がこちらへ直進していた。


「しまっ……【ムールス(アクアリウス)】! 【(ムールス)(テレストリス)】!」

 こちら――直接的には衛に向かって突進してくる相手を前に、由真はとにかく「壁」の術式を展開する。

 しかし、「紅い虎」は、いずれも強引に突き破ってきた。


「間に合わな……衛くんっ!」

 差し迫る激突の瞬間を前に、由真は一縷の望みとともに衛に「強化」の術を施した。


「ふんっ!」

 直後、衛の気合いの声が響く。


「紅い虎」が激突したその瞬間、衛はその攻撃線をわずかに左にずらして、そしてそのまま相手をねじ伏せた。

 そして、その一瞬の隙を突いて、衛は剣を「紅い虎」の首に突き刺した。そのまま剣を振り下ろし、「紅い虎」の首を大きく斬って、衛は剣を引いた。


「ま、衛くん!」

「そらせばいいと思っていたんだが……これは、由真の支援魔法か」


 ――どうやら、由真が切羽詰まって放った「強化」の術のおかげで、衛は「紅い虎」に生身で対抗できたらしい。


「と、危ないな」

 衛はすかさず飛び退く。直後、「紅い虎」は、先ほどと同じように光を放ち始めた。


(これは、この線か!)


 魔法解析で、「本体」からこの「分身体」に伸びる「紐」を「ラ」が伝わるのを感じる。


「『紐を(フーネム)切らん(セケム)! 力を(ウィム)遮らん(インテルキピアム)!』」

 由真はとっさに詠唱し、そして念を込める。

 しかし、その「紐」を「切る」ことはできない。「力」は、途中からある程度遮断することができた。


 結局、「紅い虎」は、つい今し方までとほぼ同程度の強さに回復した。

遠くの「本体」と魔法でつながっている「分身体」。やっかいな相手との戦いは続きます。

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