表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

248/451

247. 河竜再び

その頃、監視小屋では――

 ウィンタの運転する小型バソがガルディア堰堤に向かって出発すると、監視小屋には晴美、和葉とユイナが残った。


 和葉は、庭先で剣を素振りしていた。


「和葉が、すんなり仙道君を行かせたのは、意外だったわ」

 その姿を見ながら、晴美はユイナに語りかける。


「カズハさんも、気丈に振る舞ったんだと思いますよ。ユマさんは、放っておくと何でも一人で背負い込みますから」

 ユイナはそう応える。


「そうね。運転免許を持ってたら、あの子、自分で車を運転して一人で行ってたわよね」

「でしょうね」

 そんな言葉を交わして、晴美とユイナは苦笑を交わしてしまう。


(けど、今が一番危険なのは確かよね)


 敵――ことにアルト・サゴデロは、「由真がいる限り」この場所を狙うことはないだろう。

 裏を返せば、「由真が戻れないとき」は、この場所を狙う可能性がある。

 昨日の「対策本部」のときも、由真が4時間にわたり不在だったため、晴美は密かに不安を抱いていた。


 幸い、昨日は敵襲はなかった。

 エルヴィノ王子が視察に来たものの、そのときは由真が同行していたため、むしろ不安はなかった。


 今日は、往復しても小一時間ほどの場所。


 ここに来た日に、ユイナとともに行ってきたその場所は、山の中に若干入り込んだところにある大きなダムだった。

 途中の道は舗装されていない上に、目的地近くはちょっとした山道のため、その分時間はかかる。

 そして――その位置に敵が現れたら、少なくとも晴美には手も足も出せない。


 晴美に可能な索敵の範囲は――由真の「増補」のたぐいがなければ――精度が維持できるのは最大で5キロほど。

 当然、そんなところへ魔法攻撃を仕掛けることもできない。


(今、ここに河竜が来たら……)


 昨日も脳内で繰り返したシミュレーション。

 自らの最大の武器「氷系統魔法」。アトリアに来て、解説書を多少読み、自らも実験をして、ある程度理解は深めたつもりはある。

 その一つの成果が、あの「殲滅の(フェアニヒテンダー)吹雪(ブリザート)」だった。


(さっき仙道君が言ってた、腐食の術式が来たら……)


 由真が対抗術式を組み、晴美たちの武器に当たる前に、危険な溶液の効果は全て失われるようになっている。

 念を入れて、氷系統魔法を使って氷結させてしまえば、被害のリスクはより低下させられるだろう。


(あとは……)


 考えを巡らせようとして、ふと目線を動かすと、時計が目に入った。


「由真ちゃんたち、そろそろ着く頃かしらね」

「そうですね……え?」

 晴美の言葉に応えたユイナの声が不意に引きつる。


「どうかしたの?」

「……堰堤に、魔物が出てきたみたいです」

 振り向くと、ユイナの表情はこわばっていた。

 彼女は、鞄から水晶板を取り出して、テーブルに載せて手をかざす。次の瞬間、そこに直線と白い点が浮かんだ。


「これ……あの堰堤の『ダ』を感知する術式?」

「そう……なんですけど、……ここにいるこれ、この術式を使わなくても……ここからわかる強さなんです」

 言われた意味が、晴美には一瞬理解できなかった。


「それ……」

「ここにいるだけでわかる……そのくらいの強さ、つまり……下手をすると、あの河竜よりよほど強い敵です」

 遠くからでも検知することのできる敵。つまりはそれだけ強い相手ということだった。


「それ……由真ちゃんに仙道君、ウィンタさんで、片付く相手?」

「それは……ユマさんなら、たいていの敵は、なんとかできると思いますけど、これは……」


 ユイナが険しい表情で答えたちょうどそのとき。


「晴美さん! セレニア先生!」


 庭先から和葉の声が上がった。


「どうしたの?!」

 そう応えつつ、晴美はそちらに目を向ける。

 和葉は、剣を構えたまま、目を見開いて顔を青くしていた。


「竜が……竜がっ! 竜が出たっ!」


 その声に、晴美はとっさに槍を手に取り庭先に出る。

 そして川面に目を向けると――鉄橋の先に、動画(ムービ)で見た河竜の姿があった。


「あ、危ない!」

 ユイナが叫ぶ。

 晴美も直感した。河竜は、鉄橋に例の水の弾をぶつけようとしている。


「『大いなる天の光と地の恵み、我らを暫し衛らせたまえ』! 【天地の盾】!」

 詠唱とともにユイナは錫杖を向ける。鉄橋の傍らに分厚い光が現れて、河竜の放った水は遮られた。


「ユイナさん、あれって……」

「今張っているものは、あと2回です」

 アクティア湖出張所で見たムービのときと同じ答えだった。


「やるしかないわね。和葉、着いてきて!」

 晴美は、槍を手に取り、和葉に声をかける。

「イエスマム!」

 そう答えて、和葉も着いてきた。


 2人は監視小屋から川岸へと降りる。

 それを待ち構えていたかのように、川面から次々と水鬼たちが姿を現す。

 その奥に、ひときわ強い「ダ」を持つ者が2人いた。1人は長身、1人は中背で、いずれも肌の色が「人類」とは異なる。


「ハルミ・フィン・アイザワに、カズハ・フィン・カツラギか。上にいるのはユイナ・フィン・セレニア。貴様ら3人だけだな」

 長身の方が口を切る。同時に、鉄橋の向こう側で河竜が咆哮し、水の第2弾を放ってきた。

「ユマ・フィン・コーシアがいない今が好機。始末してくれる。……かかれ!」

 その合図とともに、水鬼どもが一斉に動き出す。


「『風よ吹け(ヴィンデット)! 闇の氷を(ツェアシュテアト)伴いて(ディー・トイフェル)魔の者どもをミット・デム・ドゥンクレン討て(アイス)!』」

 晴美はすかさず詠唱する。

 その周囲に、闇系統の「ラ」を帯びた多量の氷が出現した。

現れた河竜たちと、決戦開始です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ