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244. ガルディア堰堤へ

作戦開始――の前にいくつかの準備があります。

 ウィンタがギルド出張所に赴いて、小型バソが借りられたらそのまま運転して戻るということにした。


「これで、上流のダムに対策を打ったら、いよいよ本体だね。今度こそ、きっちりけりをつけないと」

「由真、それなんだが……」

 由真が言うと、衛が口を切る。


「あのコンクリの腐食……もしかしたら、塩害かもしれない」


 そう言われて、由真は黒ずんだ橋の残骸のことを思い出した。


「ああ、あれ……塩害?」

「こういう水辺で、腐食を加速するとしたら……炭酸より塩化の方が可能性が高いと思う。骨材に塩素が混じってると、塩水を電離させて、鉄筋の不動態を水酸化鉄……つまりは錆に変えてしまう。この山の中だから、骨材は大丈夫だとしても、敵は……塩水に魔法の何かをつけるだけでも、腐食を加速させられるかもしれん」


 鉄を急激にさび付かせるたぐいの「術」。そんなものを使われては目も当てられない。


「それ、剣とかも、やられかねないわね」

 晴美も眉をひそめる。


「俺たちの武器は、相沢の槍も含めて、例のステンレスで作ってあるから、おそらく大丈夫だ」

 衛はあっさりと応える。


「そうなの?」

「ステンレスは、クロムが表面に強力な不動態を作る。だから錆びにくい。塩害対策には最適だ。……もちろん、敵は魔法と組み合わせてくるだろうから、油断は禁物だが」


 そう言われると――念には念を入れておきたくなる。


「みんなの武器は、ここにあるよね?」


 衛も和葉も金付革鎧を装備して剣を帯びている。

 晴美も革鎧を身につけて傍らに槍を立てかけていた。


「あと、衛くんの盾は……」

「あれは、池谷が超々ジュラルミンで作ったということなら、ステンレスと同じで、表面に不動態ができてるはずだ」


 そう言うと、衛はいったん部屋に戻り、瑞希から渡された盾を持ってきた。


「これで全部かな。ユイナさんの錫杖は、手をつけたらまずそうだし……」

「この錫杖は、大地母神様に聖別していただいてますので、錆びとか腐食とかは心配ありません」

 由真の言葉にユイナはそう応える。


「由真ちゃん、どうするつもり?」

 晴美が問いかけてくる。


「こうするつもり。……『腐敗を(オムネース)もたらす(エフェクトゥース)水の(アクアールム)効果の一切を(コッルンペントゥム)物の前にて(プロー・レーブス)完全に(ペルフェクテー)除去せん(デレアム)』」


 周囲に並んだ金属製の武器を前に、由真は呪文を唱える。


「これで、塩水でも塩酸でも、何なら硫酸でも、危ない溶液の効果は、その武器の手前で全部なくなるよ」

 そしてその呪文の効果を説明すると――晴美たちは呆然とした面持ちだった。


「……ユマさん、ほんとに何でもありですね」

 ユイナが、半ばあきれたように嘆息する。


「まあ、ここまで来たからには、何でもします」

 由真は、あえてそう答えた。



 程なく、出張所の小型バソがやってきた。

 運転しているのはウィンタで、他に乗っている者はいなかった。


「バソは借りてきたけど、堰堤に行くのは……」

 降りてきたウィンタが問いかけてきた。


「それは、僕が……」

「あと、仙道君も一緒に行ってくれる?」

 由真の後ろから晴美が言う。


「え? いや、衛くんは……」

「こっちは、河竜対策が中心だから、戦士職は、私と和葉がいれば大丈夫。そっちは、ウィンタさんは魔法導師だから、戦士職も1人つけないとね」


 そう言われると――由真自身はともかく、「運転免許持ち」としてこちら側に回るウィンタの護身は考えない訳にもいかない。


「そっちは……河竜が出てきたら……」

「それは、魔法は私とユイナさんで対応するわ。最初から、そういう前提でしょ?」

「そうそう。この間の魔族くらいなら、あたしでも大丈夫だからさ」

 日頃は不安をのぞかせる和葉すらも、そんなことを言う。


「わかった。それじゃ、できるだけ早く戻るから」

 そう応えて、由真は、ウィンタと衛とともに、小型バソに乗り込んだ。



 ウィンタの運転する小型バソは、ガルディアに来るときに通ったノクティナ川沿いの砂利道を上っていく。


「こっちのバソって、前後は長いけど、単体だから慣れると運転しやすいわね」

 ハンドルを握るウィンタが言う。


「カンシアだと、トラカドとトラクトが別々なんですよね」

 半ば相づちのように由真は応える。


 カンシアでは、トラクターに当たる「トラカド」とトレーラーに当たる「トラクト」を分けて、トレーラーの方を貨物用と旅客用で使い分ける。


「そう。まあ、これなら、往きはともかく、帰りは少し飛ばしても大丈夫ね」

 ――晴美たちを残していることを考えると、「飛ばしすぎは不可」とも言いづらい。


 左右の山々が近づいて、やがて谷間(たにあい)に入る。道は地形に沿って曲線を描き、走行速度も自然に落ちる。

 前方の山の麓で道が右に折れると、その先に大きな壁が現れた。


「あれが、ガルディア堰堤……」

「堤体は、重力式みたいだな」

 由真のつぶやきに、衛が反応した。


「あれが、重力式なんだ」

 由真は、名前だけは聞いたことがあった。

 眼前のダムは、上から下に向かうに連れて手前方向に傾斜しているように見えた。


「ああ。堤体の自重で水圧に対抗するから、上より下の方が分厚く、重く作られてる」

「なるほどね……」

 衛の言葉に由真が相づちを打った、その瞬間。

 そのダムの向こう側に、鮮烈な炎のような「ラ」の塊が出現した。

最初の襲撃でコンクリが腐食していた件、回収しました。

ちなみに呪文は「Omnes effectus aquarum corrumpentum pro rebus perfecte deleam.」です。

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