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239. 閣僚会合

会議が始まります。

 エルヴィノ王子は、自らの右斜め前の席、すなわちこの場の「臣下首座」を指して、由真に座るよう言った。


「ああ、先ほどは説明を失念してしまったかもしれません。今回の件、『イドニの砦問題』は、ここに招集した全閣僚が携わるべき州庁の大問題であり、州領・州民の安全保障を根底から揺るがしかねない事案ですので、コーシア伯に担当していただきます」

 そう言って、エルヴィノ王子は微笑する。


「殿下! 殿下は、何を仰せかおわかりか?! そこな小娘は、どこの馬の骨とも知れぬ住人、アルヴィノ殿下の召喚の儀に紛れ込んだ村娘のたぐいですぞ?!」

 イタピラ総司令官は、顔を真っ赤に染めて声を荒げる。


(ふうん、あっちだと、今でもそういう認識なんだ)


 言われた由真の方は、それを淡々と受け止めていた。

「召喚」を受けたあの日、ドルカオ司教は、「どこぞの村娘」と決めつけて由真を追い出そうとした。

 その「決めつけ」が、今でも王国軍の――すなわちカンシアの受け止めということだろう。


「イタピラ総司令官……大地母神様の御前で、ずいぶんと大胆な発言ですね」

 対するエルヴィノ王子は、微笑を崩さない。


(まあ、確かに、大地母神様の御前……なんだよな)


 この会議室にも女神像が据えられている。

 少なくともユイナの手にかかると、ここからそのまま大地母神セレナと直接やりとりすることができる。

 つまりこの女神像は、大地母神の目であり耳でもある。


「コーシア伯は、陛下が(みずか)ら任ぜられたS級冒険者、すなわちS1級官です。その伯に、私は州務尚書を兼任していただくことにしました。つまり、彼女は国務大臣と同格の上級州務尚書ということになります」

 そもそも、そう宣言するための人事だった。


「そういうことで、席に着いてください。アスマ上級州務尚書コーシア伯爵、それにアスマ軍総司令官、大将軍イタピラ子爵」


 肩書きのどの部分をとっても、イタピラ総司令官が勝る点はない。そうだめ押ししつつ、エルヴィノ王子は両者に着席を促す。

 由真は戸惑いをどうにか押し隠して、イタピラ総司令官は不満と苛立ちをギリギリ押しとどめて、向かい合う席に着いた。


「それでは、イドニの砦対策本部閣僚会合を開会させていただきます。まず、殿下から御言葉を賜りたく存じます」

 ファスコ官房長が宣言すると、一同の目がエルヴィノ王子に向かう。


「皆さんお疲れ様です。昨日、河竜の封じ込めに成功したとの報告を受け、急遽、最前線に近いこのコモディアの地で会合を開くこととしました。

 私は、先代である国王陛下の御志を継ぎ、最前線にあえて立つこともいとわず、事態の解決に当たりたいと考えています」


 ユイナが指摘したとおり、エルヴィノ王子は先代アスマ大公である現国王と同じように最前線にも向かう覚悟を示した。


「また、事態解決に向けた体制を強化するため、本日付で、S級冒険者コーシア伯爵ユマ殿を、兼ねて州務尚書とし、内政と安全保障を担当してもらうこととしました。

 この件についても、コーシア尚書を主担当とします。事態の速やかな解決に向け、コーシア尚書を中心に、皆さんが務めを果たされることを、切に希望します」


 そう言って軽く一礼して、エルヴィノ王子は挨拶を終えた。


「それでは、コーシア伯爵にも、御言葉を賜りたく」

 当然の流れで、ファスコ官房長は由真に振ってきた。

(って、急に振られても……)

 と口にしては、真向かいの総司令官を調子づかせる、と思い、由真は深呼吸して頭を回転させる。


「ただいま、殿下より仰せを賜りましたとおり、州務尚書を仰せつかり、本件を担当することになりました。事態の解決に向け、冒険者として、また、担当尚書として、全力を尽くす覚悟です。皆さんのご支援、よろしくお願いいたします」


 どうにか最低限度の言葉は出てきた。


「それでは、議事を進めます。民政省冒険者局のアイカ・フィン・シチノヘ理事官より、現状の説明をお願いします」

 ファスコ官房長は、次に愛香を指名する。そこで「フィン」がつけられて、彼女も「貴族」だということが示された。


「それでは、お手元の資料をご覧ください」

 立ち上がった愛香は、早速口を切る。


「一昨日からの進展は2点、一つは、ベニリア川に潜伏していました河竜の封じ込めによる居場所の特定です。

 昨日、セレニア神祇官猊下がベニリア川流域において祈祷を繰り返された結果、河竜は、北シナニア県ノクティノ郡のヤクティア町東3区以東及びガルディア町サストレア以西、うちノクティナ川ガルディア堰堤より上流を除く範囲に封じ込められました。

 民政省におきましては、これを受けて河竜関連の警戒情報の対象地域をこの領域に限定し、それ以外の地域については注意情報に緩和しております」


 ユイナの名義で行った報告の結果、警戒情報と注意情報が更新されていた。


「次に、鉄道の運行再開です。

 まず、ナギナ近郊区間、具体的な範囲は別添2の鉄道3社の共同発表に記載されておりますが、この区間については、ベニリア鉄道ナギナ支社において保守点検を行い安全を確認、TA旅客は昨日の始発から平常通り運行を再開しております。

 シナニア本線コモディア・ナギナ中央間につきましても、一昨日の夜から昨日にかけて、検査車両による検査を行い安全が確認されたため、本日始発から、特別快速以下の旅客列車と貨物列車の運行が再開されております。シンカニオ特急『白馬』については、イドニの砦問題と河竜問題が未解決であることから、明日以降順次再開とのことです。

 なお、旅客・貨物いずれにつきましても、軍用列車は全ての列車に優先としております。現時点までで、軍用貨物列車1本がサイティオ貨物駅からコモディア駅まで、軍用旅客列車1本がアトリア西駅からコモディア駅まで、それぞれ運行されております」


 鉄道3社の共同発表そのものも席上資料に添えられていた。


「最後に、今後の方針についての案です。

 前回は、イドニの砦のありますナギナまでの安全の確保を基本に、その阻害要因である河竜への対策を図るとしておりましたが、その河竜については見通しが立ちましたので、冒険者局として戦力を集中投入し、河竜などの無害化を図り、また魔族魔物対策部において再発防止対策を講じることを考えております。

 そして、鉄道運行環境を完全に正常化させた上で、イドニの砦に対する抜本的な対策を図る、という方向を考えております。

 冒険者局からは、以上になります」


 そう言って、愛香は説明を終えた。


「前回、コーシア伯と連絡してお願いした対策が功を奏して、河竜の方は大きく進捗した印象です。現場の上流側、ガルディア町はここからほど近いということもありますので、この会合が終わったら、私も、陣中見舞いを兼ねて視察したいと思っています」


 ――エルヴィノ王子は、そのことを明言した。


「コーシア伯からは、補足などありますか?」

 王子は、そう言って由真に話を振ってきた。


「いえ、前回の会敵(エンカウント)のときよりも、戦力は充実していますので、まずは確実に討伐します」

 魔法に関しては晴美とウィンタもいる。物理も和葉が加わっており、サゴデロ兄弟がそろってきたとしても、十分対応できる。


「後は、イドニの砦の抜本対策も……」


 そこで続ける言葉を見失ってしまう。


 ラルドたち北シナニアギルドの面々との関係は、「彼らはナギナの防衛に集中し、河竜は由真たちに委ねる」という状態だった。

 河竜が討伐できれば、由真たちもナギナに入ることができる。

 由真たちとラルドたちで「レイド」が編成できるかどうか。


「そちらに関しては……アスマ軍も、しきりに軍用列車を走らせていることですし、相応の備えがある、と期待したいところですが」

 そう言って、エルヴィノ王子は、それまで無言だった2人に話を振った。

ここまでスムーズに進んだ流れに、王子は自ら爆弾を投げ込みます。

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