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23. 仲間と自主練

貴重な男性キャラが再登場です。

 この日ユイナが指導に当たった結果、七戸愛香や島倉美亜も、水系統魔法の初歩は使えるようになった。


 魔法実習が終わったところで、ユイナは晴美に声をかけてきた。

「ハルミさん、あの、この後の自主練なんですけど、実は、センドウさんも自主練がしたいと申し出られてまして……」

 仙道衛。Sクラス・Aクラス計7人のうち、ただ一人あの場で晴美と由真に与した男子生徒。「守護者」のギフトを持ち、晴美に襲いかかった毛利剛をねじ伏せた実力者でもある。

「……まあ、込み入った話をしないなら、仙道君がいてもかまわないんじゃ……」

 そう答えつつ、晴美は由真に目を向ける。由真は、切れ長の目と柳眉を動かすことなく、軽く首を縦に振った。


(やっぱり、自分を抑え込んでるわね)


 学年トップに君臨し続ける「秀才」渡良瀬由真。陸上部でも400メートル走の県内記録を更新したという「彼」は、自己主張が極端に弱い。それが晴美の印象だった。

 面差しは、線が細いものの端整で、身長は170センチ程ではあるものの、痩身は鍛え抜かれた鋭さを帯びていた。

 しかし、そんな「彼」は、いつも幼馴染みの度会聖奈に連れ回され、その使い走りのごとき地位を甘受していた。


 1年生の時は別学級だった。

 しかし、2年生に進級して同じ学級になった。その新学期は、新型コロナウイルスによる休校の末、2ヶ月遅れでようやく始まった。

 さんざん待たされた「対面」以後、晴美の由真に対する関心は強まるばかりだった。


 だからこそ、晴美は、異世界召喚の直後、由真に生じた「変化」にいち早く気がつくことができた。

 身長が縮み、体格も華奢になった。端整な面差しは、造作こそ変わらなかったものの、「男装美少女」として容易に受け入れることができた。


 そして、シックなメイド服に身を包んだ「彼女」と数日ともに暮らしているうちに、晴美は「彼女」を親しい女友達のごとく認識するに至った。この世界の優秀きわまる「ガイド」ユイナと3人でいると、「彼女」も打ち解けた表情を見せるようになった。

 それでも、それ以外の人物が絡むと、由真はとたんに内向的になる。美亜のように人なつっこい人物であれば、その「心の壁」を簡単に乗り越えられる様子ながら、クラス全体との関係となるとそうも行かない。


(それも、この神殿……特にアルヴィノ王子とドルカオ司教のせいだけど……)

 昨日ユイナから知らされた事実。彼らは、晴美すらも抑圧し、「勇者」平田正志を中心とする「兵団」を作ろうとして、洗脳の魔法すら使っていた。これでは、由真がクラスメイトたちと「友だちづきあい」することすらも容易ではない。

(全く……)

 などと物思ううちに、昨日と同じ宿泊区画の裏手の空き地にたどり着く。そこには、すでに仙道衛の姿があった。


「仙道君……あなたも、自主練希望?」

「ああ。ここの稽古は、まるで物足りないんだ」

 そう答える相手の手には、木製の模擬剣が握られていた。

「まあ、そうかもね。槍術なんて、教わることは何もないもの」

 晴美は、相手にそう答える。長刀の心得がある晴美にとって、この世界の槍は扱いに困る代物ではなかった。そして、神官たちは、そんな彼女に何の「指導」もできていない。


「そうか。俺は、剣術の型稽古をする」

「そう。私は、光系統魔法と槍術を練習するわ」

 そんな言葉を交わしてから、晴美は由真に目を向ける。


 由真は、晴美が初めて見る「構え」のようなものを取っていた。

 くるぶし丈のワンピースの奥の両脚の形はわからない。左脚で体を支え、右脚は前方に差し出している。右腕は肩の高さで伸ばし、左腕は胴の傍らで曲げて手を腰の近くに置く。


 由真は、そのまま右脚を踏み出して前方に進んだ。左脚が追いついた――と見えた直後、彼女のメイド服がぐらりと揺れる。

「って、由真ちゃん、大丈夫?」

「……あんまり、大丈夫じゃないかな。体幹も、まだろくに固まってないし」

 そう言いつつ、由真は、左右を逆にして構えを取り、同じように踏み出して、やはり身をよろけさせた。


「渡良瀬、それはいったい……」

 その姿を見ていた仙道が由真に問いかける。

「ああ、これは……形意拳の『三才式』と『跟歩』だよ。元の体のときは造作なくできたんだけど、この体だと、体勢の確保もきついかな」

 特に表情を変えずに、由真は答えた。

「けいいけん? それ、中国拳法?」

「そう。母さんの親戚がマスターしてて、軽くかじってたんだ」

 由真の答えは淡々としていた。


 しかしそれは、基本型らしきものを訓練できる程度には会得した「スキル」が、この異世界召喚に伴う「女体化」によって失われてしまったということだった。

 由真にとっての悔しさは察するにあまりある。そして、その「スキル」を奪い取った「異世界召喚」に対する疑問が改めて浮かび上がる。


「そうか。……渡良瀬も、頑張ってるんだな。俺たちも、負けてられない」

 仙道のその言葉で、晴美も我に返る。そう。この苦境でもなお「頑張ってる」由真を守るため。そして、この状況をもたらしたアルヴィノ王子とドルカオ司教に対抗するため。この世界における「実力」を高めなければならない。

 そんな思いとともに、晴美は自らの練習に向かった。

「群像劇」にするつもりはありません。そんなものをきれいにまとめる力量もありませんし…


ただ、時々晴美さんの視点を入れていくつもりです。

「他人の目から見た由真ちゃん」も描いておきたいので。

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