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235. コモディアに入る

会議の時間が近づいてきました。

 監視小屋の時計が11時40分を回ったところで、小型バソが到着した。


「ユマ様、そろそろ、よろしいでしょうか」

 玄関先で、出張所長が声をかけてくる。


 由真は、最低限の筆記用具を背嚢に入れてバソに乗り込んだ。


 駅に到着すると、駅員一同とおぼしき人々が迎えに出てきた。

 彼らに案内されて、由真は、一般の待合室とは別の区画に入る。


「ユマ様、こちら、行きの二等券です。10時23分のものには、特等・一等をつないでおったのですが、こちらは、準備が間に合いませんで……」

 駅長と記された名札をつけた人物が、恐縮をあらわに二等乗車券を差し出した。


「いえ、わざわざ恐縮です。えっと……」

「あ。そちらは、州庁から精算されております!」

 身分証を取り出そうとした由真に対して、相手は慌てた様子で言う。


「それと、こちらは、コーシニア中央駅から報告でございます」

 駅長は、由真に封書を差し出した。



至急

晩夏の月8日10:44受信


シナニア本線内

コモディア駅長殿

ガルディア・ノクティニカ駅長殿


 公爵殿下が 座乗された特急「臨時白馬505号」は、定刻11時42分(アトリア時間)に当駅より発車しました。

 ガルディア・ノクティニカ駅においては、ご滞在中の コーシア伯爵ユマ閣下にお伝え願います。


大陸暦120年晩夏の月8日

コーシニア中央駅長



 エルヴィノ王子は、順調にコモディアに向かっているらしい。


「それと、こちらはコモディア駅からで……」

 そう言って、駅長は別の封書も出した。



晩夏の月8日11:27受信


シナニア本線内

コーシニア中央駅長殿

ユリヴィア駅長殿

カリシニア駅長殿

ガルディア・ノクティニカ駅長殿

ヤクティア駅長殿


 軍用旅客列車が11時25分(シナニア時間)に当駅に到着しました。

 アスマ軍総司令官イタピラ大将軍閣下が当駅特別待合室を使用中ですので、お知らせいたします。


大陸暦120年晩夏の月8日

コモディア駅長



「コモディアには、特別待合室は1箇所しかございませんので、今、ふさがっておるということでして……」


 確かに、例の祈祷のときの帰り道に寄った駅舎には、他に「特別待合室」と呼べるような空間はなかった。


「そうですか。まあ、殿下が到着されたときにふさがっている、というのは、さすがにないのでは……」

「それは……ただ、ユマ様が到着される、13時頃には、まだ空いていない、ということも……」

 そう言うと、駅長は顔の汗を軽くぬぐう。


「それは、僕は、ホームで適当に待つつもりですから」

「っ! ユマ様が、ホームで……」

 由真の答えに、相手は息を詰まらせる。


 そこへ、「3回3連」の鐘が鳴る。

 程なく、通信室らしき区画から、別の駅員が駆け込んできた。


「ユマ様、こちら、ユリヴィアからの雷信です!」

 そう言って駅員が渡した紙を受け取る。



至急


晩夏の月8日12:10受信


シナニア本線内

カリシニア駅長殿

コモディア駅長殿

ガルディア・ノクティニカ駅長殿


 公爵殿下が 座乗された特急「臨時白馬505号」は、定刻13時02分(アトリア時間)に当駅より発車しました。

 公爵殿下には、 カリシニア離宮ご宿泊をお考えの由 仰せ出されたため準備するようカリシニア駅を通じ申し伝えることと民政省のシチノヘ理事官閣下より言付けを承りました。

 ガルディア・ノクティニカ駅においては、ご滞在中の コーシア伯爵ユマ閣下にお伝え願います。


大陸暦120年晩夏の月8日

ユリヴィア駅長



(『カリシニア離宮ご宿泊をお考えの由』……ってことは、やっぱり、ここまで来られるおつもりか)


 14時開始の会議が終わってからこのガルディアに入ろうとすると、今日中にアトリアに戻ることはできない。

 その場合、カリシニアに宿泊することになる。

 その準備をするようにという指示が、愛香経由で下された。



 12時20分を回って、由真は駅長に案内されてホームに入る。

 程なく、列車がやってきた。

 それは、地色は黄色で、外観は「ファニア3号」と同じ――おそらくは同一形式のものだった。

 最後尾の二等車は、乗客もまばらだった。


 動き出した列車は、やはり付随車であるらしく、モーター音のたぐいはしない。

 窓外は、左手にベニリア川を見ながら田園風景の中を進む。

 途中で、アスファ・コモディカ駅に停車したものの、二等車には出入りはなかった。


 程なく、快速列車は終点のコモディア駅に到着した。


「ユマ様、お疲れ様でございます」

 駅長が、そう言って低頭して由真を迎える。

「いえ、こちらこそ、お忙しいところ、わざわざ恐縮です」

「とんでもございません。それで、こちら、カリシニア駅からの雷信でございます」



晩夏の月8日12:46受信


シナニア本線内

コモディア駅長殿


 公爵殿下が 座乗された特急「臨時白馬505号」は、定刻12時45分に当駅より発車しました。

 なお、離宮ご宿泊の件は離宮側に連絡を終え、その旨シチノヘ理事官閣下にもご報告してあります。12時30分時点でアスマ軍総司令官が特別待合室使用中の旨も併せてお伝えしてあります。

 コモディア駅においては、 コーシア伯爵ユマ閣下が到着された際にお伝え願います。


大陸暦120年晩夏の月8日

カリシニア駅長



 エルヴィノ王子は、カリシニア駅も定刻で出発した。

 そして、カリシニア離宮宿泊の件も連絡が行っている。


 駅長は、由真を連れて階段に向かう。

 ホームは島式2面4線で、上り線側の1面2線、下り線側の1面2線、そして駅舎が跨線橋で結ばれている。

 駅長と由真は、下り線側のホームへと降る。


「実は……アスマ軍総司令官は、まだ……特別待合室におりまして……」

 眉をひそめて、溜息交じりに、駅長は言う。

「あと20分で殿下が来られるのに、ですか? それは、特別待合室で迎えるつもり、とか……」

「そこは、なんとも。『臨時白馬505号』の運行状況は、逐一入れておりますが、あちらは、総参謀長が、『わかった』と答えるばかりでして……」


 ――今度は、待合室に先着して「マウントを取る」という「作戦」なのだろうか。


「それなら、ここで待つしかないですね」

「誠に、申し訳ございません。ユマ様に、こんなところで……」

 駅長は、恐縮をあらわに言う。


「いえいえ。ここは、外のほうが涼しいですし」

 標高1000メートルを超えるだけあって、実際にこの駅は十分涼しかった。

特別待合室を除いて、今度は順調に進んでいます。

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