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234. 殿下の御意

朝っぱらから水を差された訳ですが…

 由真たちは、豚肉を焼いて肉入り焼きパンを仕立てて朝食を取る。


 昨日もらった食材には茶葉も添えられていた。

 由真が出した水を沸かしてお茶を淹れて、晴美が出した氷を入れて冷やして食後のお茶にする。


 そのお茶を飲んでいるうちに、また小型バソがやってきた。

 中から出てきた出張所長の手には、やはり封書があった。


「アイザワ子爵様、本局から雷信です」

 今度は、由真でもユイナでもなく晴美宛だった。

「済みません」

 そう言って、晴美は差し出された封書を受け取り中身を開く。



晩夏の月8日8:21受信


北シナニア冒険者ギルド ノクティノ支部ガルディア出張所気付

アイザワ子爵ハルミ閣下


 お疲れ様でございます。

 アスマ軍総司令官閣下御移動のため、アスマ公爵以下は謹んでこれを見送った後、2時間後の列車にてコモディアに入り、現地本日14時より、畏くも総司令官閣下のご臨席を賜り対策本部の「オダワラ会議」を開催することとなりました。

 公爵殿下には、 陣中御見舞いをされたいとの御意のお示しがあり、当初予定の通り対策本部の会議が行われていた場合にはガルディア・ノクティニカ駅に向かわれることもお考えでした。また、 殿下は大明神様の予定を気にされており、13時頃に着く予定である旨を上申してあります。

 なお、アスマ公爵以下は、アスマ軍総司令官閣下の御意を忖度申し上げるべき状況のため、今後の見通しは全く立っておりません。

 以上、臣アイカ謹んで申し上げます。大至急法令の如しです。


大陸暦120年晩夏の月8日

 臣冒険者局付 アイカ・シチノヘ



「これ……完全に遊んでるわね」

「まあ、たぶん、おかしい人たちの相手で気が滅入ってて、悪ふざけでもしてないと神経が持たないんじゃないかな」

 晴美の言葉に、由真はとりあえずそう返す。


 末尾の「大至急法令の如し」は、差し詰め「急々如律令」を翻訳スキルが通した結果だろう。

 途中に「大明神様」云々とあるところまで気にしたら、なんとなく負けのような気がしてくる。


「それはともかく、本題はこれ……殿下がここに来られるかも、ってとこだよね」


 悪ふざけとしか思えない段落の間に挟まったその情報。

 あえて明記されているということは、エルヴィノ王子は「ガルディア・ノクティニカ駅に向かわれること」を、今現在も「お考え」なのだろう。


「愛香さんは『小田原評定』とか言ってるけど、たぶん、閣僚会合は、1時間はかからないだろうから、殿下は夕方までに来られる可能性が高いんじゃないかな。僕を呼んだのも、その『案内役』にするためだと思うよ」

「って、ここ、最前線よ? ダンジョンの奥に人を送り込んで『高みの見物』ができるセプタカの砦とは、訳が違うんじゃない?」

「いえ、殿下なら、ここに来られると思います」

 晴美の疑問を、ユイナが否定する。


「先代様……陛下は、ホノリア紛争の折や、シグルタ震災の折に、最前線や被災地に自ら足を運ばれました。殿下も、陛下と同じように、この現場に足を運ばれても、不思議はありません」

 アスマで生まれ育ち、国王とエルヴィノ王子のことを誰よりもよく知るユイナがそう言うのなら、王子は実際にこのガルディアまで視察に来る可能性は高いだろう。


 時刻表を開いてみる。


 コモディア駅からは、特急「白馬」から接続する特別快速と、その合間で運行される快速が出る。

 14時以降は、14時40分発の特別快速「ノクティニ5号」、その次に15時25分発の快速と続く。前者はガルディア・ノクティニカ駅を通過するのに対して、後者は16時7分にガルディア・ノクティニカ駅に到着する。


 復路は、17時ちょうどにコモディアに到着する特別快速「ノクティニ10号」が16時10分にヤクティア駅から発車する。これが17時15分発の「白馬10号」に接続して、コーシニア中央駅からアトリア西に至る最終列車となる。


(特別列車でも出さない限り、今日中にはコーシニアにも戻れない)


 予定通り閣僚会合が12時から始まっていれば、13時25分発の快速で14時7分に到着し、15時23分発の快速に乗れば16時4分にコモディアに戻ることができていた。


(エルヴィノ殿下は、特別列車は出さない)


 予定が2時間遅れることになっても、エルヴィノ王子は後続の定期列車に乗る。そんな人物が、この局面で特別列車を運行させたりはしないだろう。


 定期列車は、17時23分に発車する快速が、コモディアから先、カリシニアまで運行される。カリシニア到着は19時20分。アトリア時間では20時20分になるためか、ここからコーシニア中央までの列車も運行されない。


「今日ここまで来られるとなると、カリシニアまでしか戻れませんね」

「カリシニアには、離宮がありますから、そちらにご宿泊されると思います」

 由真の言葉に、ユイナは即座にそう応える。


「殿下が……ここに、来られると……」

「あの、もちろん、殿下は、仰々しい出迎えとか、そういうのは、お求めにならないはずです」

 青ざめた顔で声を震わせる出張所長を前に、ユイナはそう言う。


「昨日ヤクティアから来たバソは、まだこちらにいますよね? それで、移動の足も大丈夫だと思います。僕もコモディアに行きますから、もし殿下が来られるという話になったら、こちらの状況は説明しておきます」

 由真がそう言うと、出張所長は、緊張をあらわに、かしこまりました、と応えた。

エルヴィノ王子も、そして(今は病気療養中の)国王陛下も、前線に立つことをいとわない人物です。

変な邪魔が入ったところで、そこは揺るがないのです。

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