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221. 選択公理作戦です

仮にも俺tueeeな主人公が、困ってばかりという訳にはいきません。

 イドニの砦に巣食う魔族たちの手により、西方守護神が「(すさ)ぶ時」と呼ばれる「暗黒面」に入っていた。

 それを止めようにも、コモディアに出現した河竜を放り出す訳にはいかない。

 それ以前の問題として、その河竜のせいで、ナギナに至る鉄道は運休となっている。


「コモディアからナギナって、営業距離、だいたい540キロなんですよね」


 日本で言えば、東海道五十三次の水準になる。徒歩での移動などとてもあり得ない。


「敵が、この間みたく攻めてきたら、今度こそちりも残さないでつぶすとこですけど、敵は……潜んでるんですよね……」

「まあ、河竜が、ユマさんが出てきたとたんに殺されかけたとなると、少なくともアルトは、ユマさんがいるところに襲撃はしないでしょうね」

 ユイナの言うとおりだった。あのとき仕留めることができなかったことが、今更ながら悔やまれる。


「この距離で、ベニリア川をしらみつぶし、とかは……」

「少なくとも、私には無理ですね……」

 ユイナにそう言われては、祈祷の方面はお手上げだった。


(いっそ水を干上がらせる……のは、さすがにまずいか)

 一瞬浮かんだその考え――流域に甚大な影響を及ぼすそれは脳内で否定する。

(待てよ、ユイナさんの力なら、もしかして……)


「ちなみに、ユイナさんは、河竜がいるかどうか、というのは、わかるんですか?」

 由真は、ユイナにそう尋ねてみる。

「まあ、一度見ましたから、あの個体なり、同レベルの個体なりが、いるかどうかだけなら……」

 そんな答えが返ってきた。


「それなら、たとえば、オプシアに入ったとして、その上流にいるか、それとも下流にいるか、というのは、どうでしょう?」

「それも、どちら側か、というだけなら、わかります」

 期待通りの答えだった。


「それなら行けますね」

 由真がそう言うと、全員が怪訝そうな趣を見せる。


「……どういうこと?」

 晴美が問いかけてきた。


「まあ、たいした話じゃないけどさ」

 そう言いつつ、由真は地図帳の北シナニア県全体図を開く。


「河竜は、コモディアより上流にいる訳だよね?」

「まあ、そうね」

 コモディアを指さして由真が言うと、晴美はそう答える。


「ユイナさんにオプシアに入ってもらって、そこで川を見てもらえば、敵が上流にいるか下流にいるかはわかる。そして、オプシアにコモディアと同じ結界を張ってもらえば、敵は現にいる側、上流か下流からは出られなくなるよね。

 下流に閉じ込められたとしたら、途中のどこかに入ってもらって、同じことを繰り返す。そうすれば、敵は『そっち側』でしか動けないことがわかるから……残りの範囲は、警戒もいらなくなる。

 オプシアの次にこれを3回繰り返せば、敵の居場所は、コモディアとオプシアの間の8分の1に限定される。営業距離はだいたい310キロだから、単純計算でざっくり40キロ以下の範囲まで追い込める」


 由真の言葉に、全員が驚いた様子を見せていた。


「それは……もう1回で20キロ、さらに1回で10キロ……そこまで行けば……」

 ユイナが――この策で最も負担の重くなる彼女が言う。

「そこまで狭めてもらえれば、最悪一時的に川を干上がらせることもできるでしょうし、なんとかなりますよね」

 そう言って、由真はいったん全員を見渡す。


「ただ、これをするには、オプシアまで、僕が護衛についてユイナさんに入ってもらうことになりますから、ラルドさんたちの了解がいるでしょうし、敵が下流にいればともかく、上流にいたら、ナギナの方向に追い込んでいくことになりますけど……」

「それはさすがに、猊下に祈祷をしていただくという話なら、ラルドたちも異論はないかと思われますし、何かあるようなら、私が説得に当たります」

 タツノ副知事が言い切る。


「これ……言われてみれば納得だけど、なかなか思いつかないわ。『コロンブスの卵』みたいな感じね」

 晴美が感心したように言う。


「まあ、小難しく言えば、選択公理を使ってるんだけどね」


「空集合を要素に持たない任意の集合族は、その要素を選び出して新しい集合を作ることができる」という公理的集合論の公理。

 これが適用されれば、「川の流域」の中からは、必ず「河竜がいる側」という領域を絞っていくことができる、という寸法になる。


「これで、ユイナさんと僕がオプシアに入る体制さえできれば、敵を追い込んでいくことができます。

 敵が2体以上いて、上流と下流に別れていた、となったとしても、それぞれで同じことを繰り返せば、それぞれの領域は絞り込みが可能でしょう。

 河竜がいるかいないかの判定なら、僕でもできるかもしれませんし」


 由真のその言葉に、他全員に否やはない様子だった。


「それでは、河竜対策の方は、この『選択公理作戦』でいいですか?」


 由真が問いかけると、全員が頷いた。


「そうすると……」

「まずはオプシアまでの交通手段ですが、これは、昨日、シチノヘ理事官が陸運総監府に貨物列車の運行再開について指示を出していますので、運行が再開されれば、護衛を乗せる客車が連結されるでしょうから、それに特等客車もつけさせればよいかと」

「……まあ、神祇官猊下のためには、特等も必要ですよね」

 タツノ副知事が「特等」と言い出したため、由真はユイナをだしにして応える。


「それと、紅虎様の件との優先順位ですね」

「そちらは、大地母神様の神託は報告しましたから……総主教猊下も、内局の方々も、河竜の方に見通しも立たないうちにナギナに乗り込む、という判断はなさらないと思います」

 ユイナが答える。

 アスマ総主教府は、王国軍やベルシア神殿のような無謀な集団ではない――ということに期待するしかない。

「選択公理」とか小難しいことを言っているだけで、作者はZFCの御利益などを正しく理解している訳ではありません。

ただ、この主人公は、高校2年生でありながら「公理的集合論」なるものを知っている程度に早熟―という設定です。

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