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219. 瑞希の新アイテム

今回の主役は、「円筒形の金物」です。

 突如やってきた愛香は、ものの5分ほどですぐさまとんぼ返りした。

 事務官だという男性も一緒で、後には瑞希が残された。


 差し入れの品のうち、盾は衛の手に渡され、残るはテーブルの上に載せられた円筒形の金物だった。


「これは、やってみせた方が早いんだけど……」

「ちょっと、ここだと危ないから……隣の庭に出た方がいいかな。みんなも、見てみる?」

 その金物の正体に見当がついている由真は、他の面々にそう問いかける。


「そう……ね……」

「『ニホン』の、新しい魔法道具でしょうか」

「こんな小さな金物が、どうなるんでしょうね」


 晴美が応えたそばから、ウルテクノ警察部長とマリナビア内政部長がそんな声を上げる。


「日本の新しい道具だということなら、せっかくですし我々も見学させていただけますか?」

 そして、タツノ副知事までもがそんなことを言い出す。


「えっと、副知事、僕ら全員外して、大丈夫なんでしょうか?」

「何かあれば呼びに来るでしょうし……キーマンの局付理事官がコーシニアにいる以上、アトリアの動きもないかと」

 そう言われては返す言葉もない。


(『キーマン』じゃなくて『キーパーソン』……とかっていうのは、副知事は意識してないか)


 半世紀前に召喚されたタツノ副知事は、20世紀末に定着した「ポリティカル・コレクトネス」を知る由もないだろう。



 全員そろって、渡り廊下を越えて知事公邸の前庭に降りる。

 ちょうど庭師が手入れをしたばかりらしく、周囲を見渡すと枝葉のたぐいは簡単に集めることができた。


「このくらいでいいかな?」

 由真は瑞希に問いかける。


「あ、うん。たぶん、大丈夫だと思う」

「それじゃ入れるね」

 瑞希の答えを受けて、由真は小枝を筒の中に入れる。


「それじゃ早速」

 瑞希は、そう言って火起こしを取り出す。


「え? 火?」

「それ、これっぽっちのやつに?」

 晴美と和葉が声を上げる。

 瑞希は、火起こしを着火させて、その先端を筒の中に入れる。程なく、木ぎれに火が移った。


「これは、風よけつきの炉ですか。火を取るのが、いささか難しそうな……」

 ウルテクノ警察部長が言う。


「これ、本領発揮はこれからですよ」

 由真はそう答えて筒に目を向ける。木ぎれが順調に燃えだして――


「え?」

「な?」

 晴美とウルテクノ部長の声が重なる。


「あ! これ! そういうこと! やられたわ!」

 ウィンタが叫ぶ。風系統の魔法導師である彼女は、「これ」の仕組みと正体に気づいたらしい。


 その円筒の上面に、大きな炎が現れていた。

 その筐体のサイズや、燃料としてくべられた木ぎれの量からは想像しがたい炎に、瑞希と由真以外の全員が驚きをあらわにしていた。


「え? これ、どういうことなんですか?」

 ユイナがウィンタに尋ねる。


「これ、ただの筒じゃなくて、二重構造になってるのよ。それで、下に吸気口が空いてて、そこから入った空気で下の木ぎれを燃やすんだけど、その熱で、筒の中空を風が上がって、上の排気口から吹き出てくるのよ。その風も燃えて、あの炎になってる、って訳」

 ウィンタのその解説は、「百点満点」と言って差し支えないものだった。


「これは……私は寡聞にして知りませんでした」

 タツノ副知事が嘆息を漏らす。


「これは、アウトドア趣味の界隈だと有名なネイチャーストーブですけど、普通の人は知らないと思います」

 由真はそう応える。


 二重構造の円筒型ネイチャーストーブ。

 ウィンタが解説したとおり、下方で燃焼させた熱を利用して、外壁と内壁の間の中空に上昇気流を発生させ、上部の穴から排出された空気によって二次燃焼を発生させる。

 単純な構造で、それ故に信頼性が高い。


「土曜日……第6日に考えてたのって、もしかしてこれ?」

 由真は、瑞希が鍛冶場にいたときのことを思い出して、そう問いかける。


「まあ、ね。あの薪ストーブが『コンロ』って言われたら、さすがにきついかな、って思って。これは、うちにもあったから、作りは覚えてたんだ」


 ――ジーニア支部の購買部に陳列されていた「コンロ」と呼ばれる「移動可能な薪ストーブ」。それが「重い」と指摘したのも、他ならぬ瑞希だった。


「確かにこれは、野営にも十分耐えられそうですね」

 タツノ副知事が、感心したように言う。


「あの、ただこれ、五徳(ごとく)がちょっと、まだできてなくて……」

 瑞希は困ったような笑みとともに応える。


「ああ、確かに……せっかくなら、五徳も、多少不安定な場所でも支えられるように工夫したいところですね。そうすれば、ギルドの標準装備にできます」

 この前冒険者局長官が、すっかりやる気になっていた。


(まあ、それだけの代物ではあるよな、これ)


 由真自身、これを初めて知ったときは驚いたものだった。

 この「現代知識チート」は、冒険者ギルドにとって大いに役立つだろう。

「ソロストーブ」というのは商標なので、本文では遠回しな言い方になっています。

この言葉で検索していただければ、ここで描写されているアイテムはおわかりいただけるかと思います。

(燃焼シーンの動画もふんだんにあります)


なお、作者は全くのインドア派なので、コンロについて調べて初めてこのアイテムを知りました…

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