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216. ナギナの冒険者たち

今回は、視点が変わります。

「かしこまりました」

 それだけを答えて、ラルド・バルノ・フィン・オムニコは、その通信を終了させた。


「よかったんですか? タツノ長官から、久しぶりの通信だった、ってのに」

 ヘッドホン越しにそれを聞いていたグニコ・バルノ・フィン・フォルドが、ラルドに問いかけてきた。

「聞いてのとおりの用件だ。あれ以上、俺には答えられん」

 ラルドは、グニコにそう答える。


「お前は、どうなんだ? 伯父上から、連絡はないのか?」

「伯父貴? 元気でやってるか、とか、アトリアは暑い、とか、そういうのは、たまにありますよ」

 ラルドが問い返すと、グニコは肩をすくめる。グニコの伯父は、前内務尚書という高官で、アトリア市の筆頭副知事の職にある。

「今のは、それと同じだ。それ以上、何物でもない」

 ラルドは、あえてそう言い切る。


「俺なんかは、アトリアに帰った連中とは、今更組めないですけど……ユマ様って、別次元ですよね?」

 フルゴ・リデロ・フィン・フラストが、そう口を挟む。

「ああ、別次元だ。それは、間違いない」

 そう答えつつ、ラルドは映写装置を操作してムービを映し出す。



 えんじ色の神官服を着た若い女神官が祈祷を始めた矢先に、突如現れた多数の水鬼。

 すると、女子学生服を着た少女が棍棒を取る。


「【ウィンクラ・アクアリア】!」


 その詠唱とともに、水がせり上がって水鬼の全個体を拘束してしまう。

 直後、今度は巨大な竜が出現し、大きく口を開いて水を放つ。


「『大いなる天の光と地の恵み、我らを暫し衛らせたまえ』! 【天地の盾】!」

 今度は女神官が詠唱し、竜が放った水の塊を止める。


 女子学生服を着た少女は、立て続けに弓矢を放って竜を攻撃し、続けて現れた魔族にもすかさず対応した。

 魔族の相手は、革鎧を着た精悍な青年が当たり、相手の魔法は難なく回避して斬撃を与えていく。


「『イン・ヒース・アーレイース、ウーミディターテース・アブドゥーカム』……【シッキターテース・ロカーレース】!」


 少女のその詠唱とともに放たれた術で、竜は忽ちに苦しみもだえる。

 少女がさらに踏み込むと、竜の目が赤くなり、そして身体を霧状にして消え去った。

 それに驚く魔族に対して、革鎧の青年が容赦なくとどめを刺す。


「ユイナさん、この水鬼って、生かしておくと情報がとれたりしますか?」

「いえ! オーガと違って、人の言葉は話しません!」

「なら、用済みですね」


 そんな簡単なやりとりを経て、少女が棍棒を軽く振ると、水鬼どもはことごとく川面に倒れた。



「『大陸暦120年晩夏の月3日コモディア上位魔物襲撃事件』の顛末がこれ……何回見ても信じられないですよ」

 フルゴは、そう言って深い溜息をつく。


「なんだ、お前だって、水鬼36体をつぶしただろ?」

「あれは、雷撃を絨毯爆撃したんですよ? それに、河竜とかサゴデロとかいませんし。30体近い水鬼を水系統魔法で縛り付けたあげく、『用済みですね』で皆殺しって、あり得ないですよ」

 グニコの言葉に、フルゴは眉をひそめて応える。


「若い衆が、これなら自分もできる、と思うようなら、やっかいだが」

 ラルドは、そう言って2人の若者に目を向ける。


「いやいや、ラルドさん、こんなの無理っす! 竜が出てきて、逃げるどころか踏み込むとか、おかしいっすよ!」

 リスタ・リデラ・フィン・ルティアが、眼前で手を横に振りながら答える。


「お? リスタでも怖じ気づくのか?」

 フルゴがからかうように言う。


「いや、普通に怖じ気づくっすよね? まして、アレ、河竜っすよ? 火系統魔法とか、水であっさり消されるたぐいのやつっすよ?」

「まあ、そういうたぐいのやつだな。俺も、あれが出てきたら、まあ逃げるな」

 リスタの言葉に兄弟子のグニコも同調する。


「まあ、火系統とは相性が悪そうなやつですし、俺も、雷撃で仕留められなきゃ終わりですけどね」

 フルゴはそんな言葉を返す。彼もA級冒険者であり、決して無謀な戦いに軽々しく踏み込むことはない。


「相性が悪くとも、逃げ出したりしないのもいるがな」

 ラルドは、そう言いつつ別のムービを開く。



 ダンジョンの闇の中で。魔将マガダエロと七首竜に相対するパーティー。

 前衛は、戦士職の男性2人と女性1人、そして後衛は女性2人。



 アスマ公爵エルヴィノ王子が持ち帰り、アスマの冒険者ギルドでは誰もが一度は目にした、セプタカのダンジョン攻略のムービ。その「クライマックス」となる最終決戦の場面だった。


「コレ……聖女騎士様も大概っすよね。氷がダメなら次は光、って」

 リスタが溜息交じりで言う。


 この戦いで、「聖女騎士」ハルミ・フィン・アイザワは、火炎を放つ七首竜相手では氷系統魔法は分が悪いと判断して、光系統魔法による攻撃に切り替えて応戦した。

 ユイナは神官の本職である支援と強化に専念し、ユマはマガダエロと七首竜の魔法攻撃に対する「最後の砦」として防御に徹している中、ハルミ・フィン・アイザワは七首竜の攻撃を巧みに押さえ込んでいた。


「だいたいから、これって、バカ王子のために入らされて、くそったれ勇者様のせいで踏み込まされて、退くに退けなくなったダンジョン深層部じゃないですか」

 フルゴのその言葉は、冒険者たちの総意を代弁していた。


「ユマ様の武勲」として語られるこの戦いは、アルヴィノ王子の意向による「無謀な攻略」であり、この最終決戦は「勇者」ヒラタ男爵が考えなしに踏み込んだために発生した「不用意な会敵(エンカウント)」だった。


「それにしても、ゲント・リベロはすげえわな。ユマ様以外は、全員が『ニホン』の『召喚勇者』だってのに、そん中に混じって、当たり前に戦ってんだからな」

 グニコは、そう言って肩をすくめる。


 異世界「ニホン」から召喚された者は、必ず「ギフト」が与えられ、高確率で優秀な軍人や冒険者になる。

 前代未聞の「39人」が召喚されて、そこから選び抜かれたこの集団。

 その中に加わっている「現地人」ゲント・リベロは、戦力として全く見劣りしない。


「ユイナ様も混じってるが……」

「ユイナ様は、大地母神様の娘みたいなもんでしょ?」

 ラルドの指摘をグニコはそう言っていなす。


「それに、ユマ様を顕現させたのも、ユイナ様って話ですよね」

「……らしいな」

 フルゴの言葉に短く答えて、ラルドはムービに目を向ける。


「コスモはどう思う?」

 リスタが、それまで無言だった残り1人、コスモ・アムリトに話を振る。

「それは……ユマ様は、高き妖精なんですよね? それは、格が違うのは、仕方ないと思いますけど」

 16歳の若さでA級冒険者となったコスモは、20歳になった今でも強く自己主張しない。

「まあ、ねえ。あれだけ魔法を使って、弓矢もあんなにうまくて、物理も無敵、ってんだからね。まあ、高き妖精は、やっぱ違うよね」

 リスタも、「ユマ様」に対する考えはコスモと同様らしい。


 彼らをよそに、ラルドはムービを見据えていた。



「七首竜は魔法組で仕留める。ユイナさんは胴体を狙って『霧雨の嵐』、それで奴らの注意を引いて、晴美さんがこっちから見て右上から光をつけた『氷の剣』で絨毯爆撃、七首竜がそれに追われてる間で、僕が左下に踏み込んで無系統魔法を使う。

 それが通じれば、マガダエロは七首竜に気を取られる。そこを物理組が叩いて。和葉さんは先制攻撃、奴の目の上を狙って。仙道君も『守護』は必要ないから追撃、そして……ゲントさん、とどめをお願いします」



 ムービを介して聞こえる、少女の声。

「風弾十連・収束・追尾」の術で魔将マガダエロが追い回されているわずかな隙で告げられたその指示。

 その采配で、その場の「魔法組」2人と「物理組」3人の力を効果的に使い、強敵を見事に葬り去った。


 遡れば、この「決戦」に至るまで、「勇者」ヒラタ男爵が邪眼のダニエロに聖剣を振るった他は、この手持ち戦力を完全に「温存」し続けた。

 それ故に、この「不用意な会敵(エンカウント)」に対して、最強の面々が最大限の力を発揮することができた。


 今や将軍・子爵となった「勇者」マサシ・フィン・ヒラタは、戦士としても指揮官としても最低の部類だ。

 それに対して、この時点では「雑兵」、今やコーシア伯爵となったユマは、戦士として、魔法導師として、そして何より――パーティーを指揮する「マスタ」として、最高の存在だった。


(これは、俺には、まねができなかった)


 ラルドは、そう思わずにいられない。


 年齢はすでに40歳近く。

 戦士職なら、もう現役から退いている。

 魔法導師としては、力量を発揮し、ある程度後進も育てたつもりはある。

 しかし、パーティーを率いる「マスト」としては、とても実績を残したとは言えない。

 冒険者ギルドの「民間化」以降、ナギナの戦線を支えるのに手一杯で、冒険者たちを統率して知事や民政部長に対抗するようなことはできなかった。

 アトリアの冒険者たちとの「しこり」を残したまま、自分は冒険者としての残り少ない時間を過ごすことになる。


(俺に、これほどの指導力があったら……このギルドは、今頃……)


 ムービに映る少女は、仲間たちとともに強敵を倒し終えて、喜びを分かち合っている。

 その姿を見つめながら、ラルドは、そんな思いを抱いていた。

最年長のラルドさんは、パーティーのリーダーとしての「ユマ様」に複雑な思いがあるようです。


一応念のためですが、この人たちの会話は全てノーディア語(という設定)です。

召喚者の日本語は翻訳スキルを通ってノーディア語として彼らの耳に聞こえています。それは動画経由でも同じです。

他方で、ラテン語の呪文は翻訳スキルを通らず、元々の言葉がそのまま聞こえています。そのため、彼らにとっては意味不明のワードです。


なお、召喚されたのは「39人」で、それと別にユイナ様が「ユマ様を顕現させた」という話になっていますが、この5人は全員がそう認識しています。

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