215. その日のギルド日報
ちょっと寄り道して、新聞代わりのギルド日報記事で、この日のできごとをまとめます。
<コーシア冒険者ギルド日報 晩夏の月5日夕刊1面より>
ユマ様に 勅書発出
「艱難をことごとく排斥し、もって人心の安寧を堅持すべし」と
王国軍を牽制される御趣旨か
(5日アトリア雷信)
国王陛下は 5日 コーシア伯爵ユマ様に対して勅書を発出され、 アスマ公爵殿下を輔翼し、アスマ軍を統率して、アスマを害する艱難をことごとく排斥し、もってアスマの人心の安寧を堅持すべしと命ぜられた。
陛下は 今回の勅書において、アスマの万機はすでに信頼を寄せられる アスマ公爵殿下に委ねられていることを示されるとともに、親任のS級冒険者たる ユマ様に対し危機の打破に尽力するよう求められた。
大陸暦120年晩夏の月4日コモディア上位魔物襲撃事件が発生し州庁が対応に追われる中、アスマ軍総司令官イタピラ大将軍は、4日午後に、アスマ全土が重大な危機に瀕しているとして戒厳令の施行を要求する布告を行った。
これに対して、北シナニア県のエストロ知事は賛同する上申を行ったのに対して、コーシア県を知行される ユマ様は過剰な措置は不要との上申を行い、アトリア市を初めとする5県級市19県がこれに賛同する意向を示していた。
イタピラ総司令官は、5日朝に、事態は天聴に達しており、強力な措置が必要との上意が示されているとして、戒厳令の施行を強く求める旨を改めて布告した。
今回の勅書においては、軍務省と参謀本部からの上奏について具体性を欠くと指摘されるとともに、アスマに関しては全て 公爵殿下に委ねられていることが明示され、また ユマ様に対してアスマ軍を統率せよと指示されており、 公爵殿下の意に背き ユマ様と対立する姿勢を見せる王国軍を牽制された御趣旨によるものと拝察される。
この勅書においては、今 御心を最も悩ませられている問題としてイドニの砦の件が明示されており、今後、 公爵殿下の御意を受け、 ユマ様の主導の下で、冒険者ギルド一丸となってイドニの砦の対策に向かうことが求められる。
【勅書全文】
大陸暦120年晩夏の月5日
宮内省布告号外
畏くも国王陛下には 本日以下の如く勅書を発せられたり。
宮内大臣 ワスガルト子爵モルト
(勅書)
ナスティア市副市長 サリモ・ラミリオ殿
以下の儀を城伯に伝ふべく此の文をアスマ州コーシア県庁に雷信すると倶にアスマ州庁内務省地方局及び王国宮内大臣官房にも雷信すべし。
アスマ州庁内務尚書殿
卿が官員をして以下の文を朗読せしめ全県同報通信を以て州内全県に之を伝ふべし。
コーシア伯爵ユマ殿へ
昨日参謀総長及び軍務大臣よりアスマ州に於て戒厳令を施行すべき状況なる由を聴き両名に対し先ずは具体的事案に迅速適切に対処すべき旨指示し置きたるも状況判然とせず予は懸念を払拭する事を得ず。
思ふにアスマの地は北シナニア及び南シナニアを経て沿岸迄侵略せむと欲する魔族魔物の徒党に直面する事久し。
就中ナギナ近郊イドニの砦には此処に拠りて軍勢を集めベニリア川を下らむとする集団あり。之を放置せば独り北シナニアが蹂躙せらるるのみならず延て全土人民悉く壊滅に至らむ。
此儀がアスマの地に於ける最大の艱難にして予の最も憂慮する所なり。
如此危急存亡の秋に於て予は親ら其の征伐に赴くべけむも予の健康が之を許さず遺憾の極みなり。
予はアスマ公爵の忠義と器量に信倚し既にアスマの万機を公爵に委ねたり。
卿予が親ら任じたる冒険者としてセレニア神祇官と倶にアスマ公爵を輔翼し要すればアスマ軍を統率してアスマを害せむ艱難を悉く排斥し以てアスマの人心の安寧を堅持すべし。
卿克く予が意を体せよ。
大陸暦120年晩夏の月5日
御名親署
同日
臣侍従兼王都理事官兼王都ウェネリア県ナスティア市副市長 サリモ・ラミリオ 奉る
<コーシア冒険者ギルド日報 晩夏の月5日夕刊3面より>
晩夏の椿事
アスマ軍憲兵らTA貨物に全裸で闖入
「王国の威信を見よ」とわいせつ物陳列
(5日アトリア雷信)
5日午前8時半頃、アスマ軍憲兵第2小隊の隊長及び隊員合計15名が、TA貨物本社(アトリア市ジーニア区)に全裸で押し入り業務を妨害したとして、わいせつ物陳列罪及び威力業務妨害罪の容疑でジーニア支部保安隊に逮捕された。
逮捕された容疑者たちは、全裸の状態で社長室及び社内の執務室に押し入り、王国の威信を見よと言って性器を見せつけて業務を妨害した。社員が雷信によりジーニア支部に通報して、容疑者たちはまもなく駆けつけた保安隊により取り押さえられた。社員に怪我はなかった。
取り調べに対し容疑者たちは、王国の威信と我らの男を見せたと供述している。
事件後、TA貨物のミスト・フィン・モナリオ社長は、「緊急事態に忙殺されている社員たちを不安にさらしたことは誠に遺憾。実害がなかったことは幸い。重大な局面に引き続き全社一丸となって対応する」と語った。
戒厳令が喧伝されているさなかに発生したこの椿事について、アスマ軍憲兵司令部は事実関係を調査中とのみ回答している。
勅書の全体がこちらです。
戦前の詔勅では句点すらもない上にカタカナで改行もありません(「玉音放送」の詔書もそうです)。
それはさすがに読みにくすぎるので、句点だけは入れた上で改行もしています(現実の日本では、いわゆる「人間宣言」の詔書から句読点がつくようになりました)。
「3面記事」の方ですが、憲兵の人たちは着衣だけでなく記憶もごっそり消された状態で逮捕されています。そのため妙なうわごとを口走った模様です。




