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214. 第3日の顛末

「第3日」は「水曜日」のことです。この日のまとめに入ります。

「ナギナの戦力が1人でも欠ければ、ナギナは陥落する。故に、閣下のご依頼だとしても応じられない。その代わり、コモディアは、自分たちの縄張りではあるものの、コーシアの……すなわち閣下のご判断で処理していただいてかまわない。それが、ラルドの一貫した答えでした」


 タツノ副知事は、通信を聞いていなかった他の面々に向けて、内容を要約する。


「副知事、私たちは、コモディアに駐留する、ということでしょうか?」

 話の途中で言及された件を晴美が尋ねる。


「いえ、現時点で、ということではありません。ただ、敵が攻勢を強めた場合は、閣下と皆さんに対応をお願いすることになる、と、そう考えております。もちろん、拠点護衛と討伐の依頼として契約し、報酬もお支払いします」

「あ、いえ、それは……むしろ、早く行かなくても大丈夫なのか、と……」

 契約して報酬も支払う、と生々しい話を言われたためか、晴美は慌てた様子を見せる。


「現段階では、皆さんも遊撃戦力と考えております。河竜はコモディアに出現するとは限りませんし、それに……ラルドたちも、今後翻意するかもしれませんので」


 タツノ副知事は、まだあきらめてはいないのだろう。


「今の段階だと、まずはコモディア近くに出てくる河竜の対策にかかる、その上で、そっちに見通しが立ったら、本丸に攻め込む、ってとこじゃないかな」

 由真も――「仲間」に対する言葉を向ける。



 ちょうどそこで、扉がノックされた。


「失礼いたします。尚書府より、台命の伝達がありました」


 そんな言葉とともに、係員が1枚の紙を捧げ持ち、それを由真に差し出した。

 その所作は、先ほどの「勅書」の時より落ち着いていた。


「お疲れ様です」

 由真は、そう答えてその紙を受け取る。



大至急

晩夏の月5日15:38受信


コーシア伯爵閣下

セレニア神祇官猊下

全州務尚書各位

北シナニア冒険者ギルド理事長殿


 公爵殿下より 別紙のとおり台命を承りましたので、謹んでお知らせいたします。


大陸暦120年晩夏の月5日

尚書府長官官房長


(別紙)

 畏くも国王陛下には 本日コーシア伯爵に対し勅書を賜りたり。

 如此勅書を賜るに至るは我の非才不徳の致す所にして遺憾の極みなり。

 然れども勅書既に発せられたるからは其に遵ひ行動する儀が最優先ならむ。

 仍て茲に卿らに宣す。


1 コーシア伯爵

 陛下の 勅書を体し知行地の治安を確保し追而指示する所に依りて全州の艱難の解決に当るべし。


2 セレニア神祇官

 陛下が 勅書に於て示されたる聖旨を体しコーシア伯爵と倶に艱難に当り特に祭祀に遺漏なきを期すべし。


3 北シナニア冒険者ギルド

 陛下が 勅書に於て示されたる所に遵ひイドニの砦に拠る敵に対する防御に全力を尽すべし。

 併せ其の砦の攻略の可能性に就ても検討すべし。


4 全州務尚書(陸運総監を含む)

 此の艱難に対処せむが為卿らをして対策本部を組織せしむ。

 卿ら其の成員と為りて一致団結して事態に当るべし。


大陸暦120年晩夏の月5日

アスマ公爵



「台命の部分は、やっぱり文語になるんですね」

 勅書と同じような文語で、句点はあっても読点はない。


「こちらは、ノーディア語の伝統的文語体で記されており、標準ノーディア語の翻訳スキルは、日本語としては漢文調の文語で通します」

 副知事がそう答えた。


「内容は、まだ具体的ではない感じですね」

「ギルド日報の夕刊は、15時以降の対応はできませんので、こちらは明日の朝刊に掲載されます。その間で、この対策本部の会合を開いて、具体策の大枠を決める、という意図かと思われます」


 こういうときは、ニュースがリアルタイムで伝えられない方が助かるとも言える。


「朝刊の方の締め切りはいつぐらいなんでしょう?」

「臨時体制を取れば24時ですが、通常は19時です。今日のうちに殿下ご主催で第1回の閣僚会議を開き、閣下と猊下を中心として州庁一致団結してことに当たるべき旨のご指示を賜るとともに、理事官会議を設立する旨が決せられることになろうかと思われます。

 理事官会議が、各省の対策をとりまとめる旨を決める……というところまで進んで、そこまでを日報の朝刊に載せる、という流れかと」


 副知事は蕩々と言う。彼自身が取り仕切っていれば、おそらくその流れで進むことになるだろう。


「州庁全体としての対策、となると……」

「魔物対策は、冒険者の動員も含めて、民政省が担当します。関係地域の治安維持は内務省治安局、河川と道路の警備は内務省国土局が担当します。学校は夏休みですから文教省は生徒・児童に周知させる程度です。食糧に不足があれば農務省、物資に不足があれば商工省が対応に当たり、物流は陸運総監が取り仕切ることになります」


 もはやタツノ副知事をアトリアに出張させて仕切らせた方が速いような気がしてきた。



 内務省地方局から時折送られてくる雷信で、由真たちにも情報が伝えられた。


 全閣僚を構成員とする「イドニの砦魔物対策本部」が17時から開催され、アスマ公爵エルヴィノ王子から「州庁一致団結してことに当たるべし」との指示が下されるとともに、関係の局長級による「対策本部理事官会議」の設置が決定された。


 その理事官会議は、議長が尚書府長官官房長、メンバーは、民政省から冒険者局長、冒険者局付理事官、冒険者局魔族魔物対策部長、衛生局長、内務省から治安局長、国土局長、農務省から食糧局長、商工省から工務局長、商務局長、鉱業局長、動力局長、そして陸運総監府総務局長で、内務省地方局長と財務省予算局長が参与となる。

 その会合は18時から開催されることになった。


 その18時に、知事室にギルド日報の夕刊が届けられた。

 アトリアのそれと同じ、二つ折りの4ページ構成で、「1面トップ」は「ユマ様に 勅書発出」と題されていた。「王国軍を牽制される御趣旨か」との小見出しもあり、国王がアスマ軍を牽制したのではないかという推測も記されている。


「これで、ようやく本丸に当たる体制になった、ってとこですよね」

 手元の記事で「ユマ様」と何度も言及されているのが気恥ずかしくなって、由真はそう総括しようとした。


「それより由真ちゃん、これは何かしらね?」

 そんな由真に向かって、晴美はそう言うと、折られた紙面を開き、その「3面」を指さした。

 そこには「晩夏の椿事」「アスマ軍憲兵らTA貨物に全裸で闖入」などという表題があった。


「……全裸?」

「ユマさん、武装解除って、まさか身ぐるみ全部剥ぎ取ったんですか?」

 そういうユイナのまなざしが、心なしか「ジト目」に見える。


「そんなことは……僕は、ちゃんと武装を解除する、って呪文を……」

 実際「武装を(アールマ)」と詠唱したはずで――

「ああ、もしかしたら、鎖帷子も、消しちゃったかもしれませんね……」

 とっさの術式だったため、革鎧かプレートアーマーかといった区別はしていなかった。その勢いで、鎖帷子も対象に含まれたかもしれない。


「由真ちゃんって、時々とんでもないことするよね」

「まあ、えげつないかもしれないわね。丸裸でほっぽり出す、とか」

 和葉とウィンタがそんなことを言い出す。


「やっぱり、ユマさんを敵に回したら恐ろしい、というのは、痛いほどよくわかりました」

「そうね。天下の憲兵隊が、全裸露出の変態集団にされちゃうとなるとね」

 ユイナと晴美にそう言われて、由真は返す言葉を失ってしまった。

最後は、「憲兵さん」が「憲兵さんこっちです」されるという謎展開になってしまいました。

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