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213. ナギナ勢との対話

タイトルのとおり、直接対話にトライです。

 北シナニア県を巡る課題に立ちはだかるアトリア市・コーシア県との関係の不調。

 出口の見えない堂々巡りを突破する道は――


「あの勅語に、それを受けた台命が出ても、ですか……」


 そう口にしてはみたものの、少なくともエストロ知事が協力姿勢に転じるということは全く想像できない。

 冒険者たちにしても、依頼もなしには――


「たとえば、ですけど……」

 不意に心に浮かんだ考えをもって、由真はそう口を切る。


「たとえば、僕が依頼人になって、ナギナの5人に、イドニの砦の攻略を依頼して、依頼人として、僕自身も協力する、とか……そういうことも、難しいでしょうか」


 北シナニア県の事案を、正面から依頼する。その上で、手が足りないというなら、自分自身も加勢する。


「……それは、5人の考えによるかと思います。魔法導師が不得手とする砦攻略を受けるか、それに……閣下の参加を受け入れるか、というところは……」

 タツノ副知事は、そこまで言うと、深く息をつく。


「今この時点では、知事の締め付けも緩んでいるでしょうから、私から、彼らに連絡を取ってみましょう」


 思わぬ言葉だった。


「え? 副知事、それ、大丈夫なんですか?」

「普段は、民政部の締め付けが厳しいところですが……あの勅語を受けてコーシア伯の家臣筆頭が連絡して、それをなお妨げることは、さすがにできないかと思います」


 そう言うと、副知事は内線を呼び出す。


「タツノです。北シナニア冒険者ギルドの冒険者、ラルド・バルノ・フィン・オムニコさんと通信を取りたいのですが」

 副知事は、最年長のベテランを指名した。


「……つながるそうです」

 ややあって、副知事はそう告げた。由真はヘッドホンを装着して通信に備える。


『ラルドです』

 引き締まった低い声で、相手は短く名乗った。


「コーシア県庁のタツノです。ご無沙汰してます、ラルドさん」

『こちらこそ、ご無沙汰しております、長官閣下』


 その挨拶に、含むものは感じられない。


「早速ですが、そちらには、陛下の勅語の件は伝わっていますか?」

『はい。全県同報通信は、止められておりません』

「それであれば……その勅語を受け、コーシア伯爵閣下は、事態の解決に当たることになりましたので、私は、その家臣筆頭として補佐をすることになります」


 その言葉に、相手は、はい、と短く応える。


「勅語の御趣旨を踏まえれば、抜本対策、すなわちイドニの砦の攻略が必要、ということから、伯爵閣下には、皆さんに攻略を依頼することもお考えです。必要であれば、閣下ご自身も加勢する、という前提で」


 タツノ副知事は、そこでいったん言葉を切る。相手の反応はない。


「私が連絡しているのは、前冒険者局長官という立場からではなく、コーシア伯爵の使いとして、その意図をお伝えするという立場からです。閣下には、管轄云々の問題はもとより承知の上で、皆さんを中心として問題を解決するという方向でお考えです」

『長官閣下のお考えは、わかりました』

 そこで、ようやく相手はそんな言葉を返してきた。


『他の4人の考えは、本人たちに聞かねば答えられません。自分は、北シナニアのA級では、最も年上というだけですので』

 リーダー格として説得しろ、という指示なら応じられない、ということか。


『ただ、自分は……その依頼は、受けられません』

 端的な拒絶の言葉だった。


『今、ナギナは、我々5人で、どうにか押さえ込んでいます。116年対魔戦争並の攻勢に出られたら、この5人が1人でも欠けたら、とても追い返せません。今度は、ナギナが陥とされます』


 つい先ほど聞かされた「戦い」。最終決戦は、5人が総力を挙げることでどうにか食い止めたという。

 今、「5人が1人でも欠けたら」と考えるのは、きわめて当然のことだろう。


「閣下は、『ニホン』から召喚された、名うての冒険者も伴っていますが、それでも?」

『長官閣下、コモディアの河竜の方は、どうしますか?』

 ラルドは、一転して問い返してきた。


『今、申し上げたとおり、ナギナは、我々5人の1人たりとても、欠ける訳にはいきません。……コモディアも、北シナニア県ですが、そちらには、我々の戦力は割けません。

 コモディアは、ユマ様にユイナ様、それにお連れの冒険者、そちらに頼むしかありません。アトリアから助っ人を入れられても、我々はかまいません』


 単純な「縄張り意識」の問題ではない。

 ナギナから見て僻遠の地のことは、近くのコーシア県の手を借りることも容認する。それでも彼らは、ナギナの防衛に全力を投入しなければならない。

 ラルドの言葉は、それを如実に物語っていた。


「こちらは、アイザワ子爵、カツラギ男爵、ボレリア氏はコモディアに駐留、神祇官猊下は神殿で対策のご祈祷、そして閣下はセンドウ男爵を伴い遊撃対応、といったところを、私は考えていますが……」

『我々も、アイザワ子爵がたの活躍も、承知しております。他の4人も、異論はないと思います』


 コモディアは譲る。しかしナギナを防衛する戦力は貸さない。この平行線を破ることは、現時点では不可能と思われた。


「わかりました。状況が進展したら、また連絡するかもしれません」


 タツノ副知事の言葉に、相手は、かしこまりました、と答えて、そして通信は終わった。

少なくとも、最年長のラルドさんは、単にメンツだけで考えているわけではないのです。

「A級5人」で、戦力としてはギリギリという認識です。

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