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199. 全員そろって状況確認

冒険者チームが全員集合します。

 ことが慌ただしく動いた昨日とは打って変わって、この日は静かだった。

 ファニア支部から「アイザワ子爵、カツラギ男爵、ボレリア氏はアクティア湖9時20分発の『ファニア2号』に乗車した」という報告があった他は、アトリアからもコモディアからもナギナからも連絡一つない。


 マリナビア内政部長が手続きを取り、コーシア伯爵からコーシア司教に対してコーシア川・ファニア川水系領域保護結界強化の祈祷の依頼が行われた。

 その執行を要請されたユイナが中央神殿に向かうと、人の動きもなくなる。


(このまま何もないってことだったら、あの本でも読むんだけどな)


 無聊を癒やすために背嚢に入れていた「鬼ごろし」親子の伝記全3巻。

 一昨日出発してから昨夜まで、結局ページを開くこともなかった。

 それを読んで「時間をつぶす」というのは、「非常時」ではさすがに気が引ける。


 そうこうするうちに、時刻は11時15分を回り、知事室の扉がノックされた。


「お三方をお連れしました」

 そんな言葉に続いて、晴美、和葉、ウィンタの3人が知事室に入ってきた。


「お疲れ様。ウィンタさんも済みません。駅は、何かありましたか?」

 昨日同じように入室してきたユイナから「非常事態宣言」の件を告げられたため、由真はどうしても緊張してしまう。


「由真ちゃんこそお疲れ様。駅は、『非常事態宣言』が出てるから臨時ダイヤになってる、っていうアナウンスは流れてたわ」

 晴美が答える。駅の方も、昨日とは打って変わって動きがないのだろう。


「ユマちゃん、相変わらずすごいわね。河竜を、まるで蛇でも追い払うみたいにやっちゃうなんて」

 ウィンタは、ユイナと全く同じ比喩を使った。


「由真ちゃん、あの河竜って、大丈夫なの?」

 そして和葉は、不安げに尋ねてきた。

「まあ、正直、油断はできないと思う。衛くんが倒した魔族、あれが三人兄弟の末っ子で、上の二人はもっと強いみたいだから」

 由真は――油断されても困るので――率直に答える。


「皆さん、よくお越しくださいました。私、コーシア県副知事のタツノと申します」

 その3人に向かって、タツノ副知事は丁重に挨拶する。


「あ、私は、相沢と申します」

「あの、桂木です」

「カンシアから研修に来た、ボレリアと申します」

 3人もそれぞれに挨拶を返した。


「あ、皆さん、お疲れ様です

 そしてそこにユイナの声が通る。彼女も、祈祷を終えてちょうど戻ったようだった。



 全員がそろったところで――まずはコーシニアの地理の復習から入る。

 由真が持ってきた地図帳のページを開いて、テーブルの周りに集まった4人に見せる。


「このコーシニアは、北西から来たコーシア川と南から来たファニア川が合流するところにできてる街で、元は、ファニア川の右岸に開かれてたんだ」

「あ、由真ちゃん、今更なんだけど、『うがん』って何だっけ?」

 和葉が小声で問いかけてきた。


「あ、ああ、川の流れる方向、上流から見て、右側の岸が『右岸』、左側の岸が『左岸』だね。ファニア川で言うと、東側が右岸で西側が左岸になるね」


 山登りと沢登りに――祖父に連れられて――なじんでいた由真は、注釈なしで使っていたその言葉を解説する。


「それで、ファニア川右岸からコーシア川右岸、この辺はまとまって土地が開けてるから、ここが市街地になってるんだ。あと、途中で通ったサイトピアっていうのが、ファニア川の左岸なんだけど、ここが住宅街になってるね。

 それで、ここは、シンカニアの最初の路線が通った93年から、集中的に開発されてて、コーシア川の左岸、つまり北側に、『北コーシニア』っていう街が開かれたんだ。人口は、こっちの方が遙かに多いみたい」

「盛夏の月1日現在では、コーシニア市が約49万、北コーシニア市が約242万、サイトピア市が約61万となっております」

 由真の説明をタツノ副知事が補う。


「え? コーシニア、50万を切ったんですか? サイトピアに抜かれたなんて……それに、北市は240万ですか……」


 横で聞いていたユイナが驚きをあらわにする。彼女が由真たちに話した概数は「コーシニア市70万人・北コーシニア市190万人」だった。


「これ、橋はコーシニアとサイトピアの間に、いち、に……5本渡っているのに、北コーシニアとの間は2本なんですね」

 晴美が地図を指差しながら言う。


「コーシア川の方は、高水敷も入れると、川幅が……2キロまでは行かないにしても……」

「コーシニア周辺では、およそ1600メートルです」

 衛が言うと、やはりタツノ副知事が応える。


「ファニア川の方は、合流点でも950メートルですから、ファニア方面も、ユリヴィア方面も、こちらに架橋しています。コーシア川左岸に位置する北コーシニアとの連絡については、コーシア川本流に架橋せざるを得ませんが」

「そうなると、もし仮に、この橋を破壊されたら、壊滅的打撃になりますよね」

 由真は、コーシア川に渡る2本の橋を指さして、あえてそう指摘する。


 タツノ副知事が取り仕切った以上、これらの橋も相当の大災害があっても耐える構造を有しているだろう。

 それでも、「最悪の事態」は想定しておく必要がある。


「はい。敵が、建設中とはいえシンカニアの橋を落としたということは……コーシニア周辺のどの橋も、破壊される危険があるということでしょうから」

 副知事は、その可能性を率直に認めた。


「あの橋は、コンクリートがおかしくなってたよね?」

「……あの橋桁は、打設したのが第5日という話でした。3日しか経っていないのに、崩落したものは黒ずんでいました。中性化のような、何かの変質を起こす毒を、あの河竜が出した可能性があります」

 由真が話を振ると、衛が――副知事を相手とする丁寧語で――そう応える。


「それなんですけど……ナミトは、水圧で堤防や建物を壊しはするんですけど、猛毒のたぐいは出さないんです。眷属の水鬼に害が及ぶのは、どうやら避けるらしくて……」

 ユイナが反応した。


「ですが、一般の鉄道橋梁よりさらに頑丈に作られるシンカニアの橋梁が、実際問題として破壊されている以上、この河竜は、コンクリート……被凝固石材を破壊する能力を持つと考えるべきかと思います」

 タツノ副知事は毅然と応える。現実に発生したことは受け入れて対策を考える。老練な高官の振る舞い、と由真には思われた。


「そうすると、私たちは、川の警戒に当たることになりますか?」

 晴美が問いかける。

「現時点における、大方針としては、そのようになろうかと思われます」

 副知事の答えに、晴美は、わかりました、と答える。


「大方針……といえば、殿下へのご報告、まだでしたね」

 まさにその言葉で気づいたことを、由真は口にしていた。


「ご相談とか、しておかなくてよかったんでしょうか……」

「アクティア湖生息事件は、事後で十分な事案かと。水系領域保護結界の強化も、コモディアの事件が公になっている現状では、県として当然の判断と心得ます」

 由真の不安をかき消すように、タツノ副知事が言う。


「もうすぐ正午ですので、一連の経過を雷信でご報告……」

 副知事が言葉を続けたちょうどそのとき、内線の呼び出し音が響く。


「はい。知事室です」

 受信機を取ったのは、マリナビア内政部長だった。

「え? わかりました。すぐにつないでください。……閣下、副知事、殿下からご連絡とのことです」


 ――示し合わせたかのようなタイミングだった。

現在の舞台であるコーシニアの地理を含めて、状況を確認しました。


なお、タツノ副知事も「召喚者」なので翻訳スキルを持っています。この人の台詞は日本語で話されていて、主人公一行とは直接日本語で会話しています(ただし、彼女たちはそれを自覚していません)。

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