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195. アクティア湖へ朝の連絡

4時起きで、湖から県都に入り、隣県で竜を追い払って返ってきた主人公は――

 タツノ副知事は正門から入って右手の副知事公邸に帰り、由真たちは知事公邸に泊まる。


 渡り廊下で奥に進んだ先が宿泊区画で、2階が知事の居住区画、1階が来訪者の滞在区画とされていた。


 ユイナと衛は1階に1つずつ用意された個室に入り、由真は2階の寝室に入る。

 ベッドが目に映ったとたん、疲労感が急激にこみ上げてきた。

 由真は、全身の汚れを光系統魔法で洗い落とし、服を着替えると、そのままベッドに飛び込んだ。


 ――気がつくと、室内はすでに明るくなっていた。


 カーテン越しに夏の日が十分届く。

 身を起こして時計を見ると、6時半を指していた。


 ベッドから降りた由真は、傍らのテーブルに封筒と紙がおいてあるのに気づいた。


(これ、夕べは全然気づかなかった)


 封筒や紙以前に、テーブルがあったことにすら気づかなかった。昨夜は、よほど疲弊していたのだろうか。

 ともかく、紙を手に取る。


閣下


 お疲れ様でございました。

 明朝は8時30分より知事室において対策会議を行う予定でございます。

 なお、今夕ファニア支部より発信されました報告を別途封筒に入れてございます。

 朝食などの詳細は、明日女中頭に説明させます。


 ごゆっくりお休みくださいませ。


 タツノ



 昨夜の段階で由真が読むことを前提にした置き手紙だった。

 添えられていた封筒を開けると、中にはファニア支部から昨日送られてきた報告が入っていた。


(朝ご飯はここで食べるのか。けど、晴美さんたちには、早いうちに連絡しておきたいな)


 21世紀日本人の感覚としては、メッセージ1本で呼び出しというのは気が引ける。


 まずは、昨夜は認識も機能していなかった室内空間を確認する。


 空間は目算24畳程度はあろうか。ベッドのほかに、テーブルを囲むソファー、クローゼットとおぼしき観音開きの扉があり、入り口の近くにも扉がある。それを開けると、洗面台、トイレ、浴室があった。


 洗面台には、コップの他に粉末の歯磨き粉と歯ブラシも備えられていた。

 それで歯を磨き、ついでに顔も洗い、常のセーラー服に着替えて廊下に出る。


「あ、おはようございます、閣下!」

 廊下を歩いていたメイド服の女性が由真に気づき、裏返った声を上げて頭を下げる。


「おはようございます……あ、そうだ、済みません」

 挨拶を返してから、由真は相手に声をかける。


「は、はい!」

「あの、ファニアに通信をしたいんですけど、通信設備は、知事室に行かないとないですよね?」

「え、あ、はい、えっと、あの……あ、主任!」

 一瞬動揺を見せた相手は、廊下に姿を見せた同僚を見て声を上げる。


「どうしたの?」

「あ、あの、閣下が、通信を、と仰せで……」

 そう言われて、「主任」と呼ばれた女性は一つ息をつく。

「おはようございます、閣下。通信室は、こちらの1階にもございますので、ご案内いたします」

 そう言って、相手は由真を連れて廊下を進む。


 昨夜の小会議室につながる渡り廊下の直前に階段があり、降りた先に部屋が並んでいた。

 そのうちの1室に由真は通された。


「申し遅れました。私、知事公邸用務主任、ハモニア・ラルニアと申します。公邸内の管理、閣下と副知事の身の回りのお世話などを取り仕切らせていただいております」

 そこで初めて、相手は自らを名乗った。


「よろしくお願いします、ラルニア主任」

「恐縮でございます。県庁の通信室を呼び出します。連絡は、どちらへ……」

「ファニア支部のアクティア湖詰め所の方へ、お願いします」

 そう言うと、相手は、かしこまりました、と応えて、県庁の通信室を呼び出して通信の接続を指示する。

 それを見て、由真はヘッドホンを装着してマイクに向かう。


『はい! ファニア支部アクティア湖出張所です!』

 ヘッドホン越しに、昨日と同じティファナの声が聞こえる。


「ティファナさん、由真です。おはようございます」

『あ! ユマ様! おはようございます! 昨日は、早速大活躍でしたね!』

 ティファナは、いきなりそんなことを言い出す。


「昨日?」

『河竜を追い払って、水鬼を即死魔法でずばっと! あれがユマ様の本気なんですね!』


 ――あたかも見ていたかのように言う。


「あ、いえ……あの、それで……」

『ああ、皆さんですね。えっと……アイザワ子爵様が出られるそうです』


 他の面々も一緒らしい。


『ああ、由真ちゃん?』

 程なく聞こえてきたのは、紛れもなく晴美の声だった。


「おはよう、晴美さん」

『おはよう……由真ちゃん、昨日はすごかったみたいね。あの河竜、七首竜を思い出したわ』

 晴美もそんなことを言い出した。


「って、晴美さん、見てたみたいに……」

『見たわよ。本部が神殿からもらったっていう動画が通信で届いたのよ』


 ――この世界では「ムービ」と呼ばれている動画。それを配信することはできるらしい。


『それで、こっちに連絡してきた、ってことは、コーシニアに入って、っていうことかしら?』

 動画も見ているとなると、話は早かった。


「うん。こっちは、8時半から県庁で対策会議をすることになってるけど……」

『そう。私たちは、昨日ユイナさんが乗った9時20分の特別快速に乗るつもりだけど、それで大丈夫?』


 コーシニア中央駅に11時5分に到着する列車。ちょうどいい時間になるだろう。


「それなら、それでお願いできるかな?」

『わかったわ』

 そんなやりとりで、用件は終了した。


(さて、晴美さんたちを呼ぶ算段もついたし、今日も頑張らないと)


 大きく息をついて、由真は自らの心身を引き締めた。

ぐっすり眠って、晴美さんたちとも連絡をつけて、本日の活動開始です。

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