表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

195/451

194. 本日のまとめ

長い一日を終えて、一行はようやく帰り着きました。

 車窓は夏の日が傾き、夕暮れ時を迎えていた。


 18時5分に、列車はカリシニア駅に到着する。8分停車している間で、特等室に夕食として豚肉の焼きそばが配膳された。

 発車すると、時計の長身が一回りして7時15分近くを指す。

 19時40分にユリヴィアに到着して、食器類が片付けられると、後はコーシニアまで夜の闇の中をひた走る。


 21時ちょうどに、「臨時白馬510号」はコーシニア中央駅に到着した。

 ホームには、タツノ副知事が迎えに来ていた。


「お疲れ様でございました」

 副知事は、そう言って丁重に頭を下げる。


「副知事こそ、こんな時間にわざわざ済みません」

 午後9時という時刻にやってきた相手に、由真はそれだけでも恐縮してしまう。


「いえ、お帰りいただく知事公邸には、副知事公邸も併設されておりますので」

 相手は淡々と答える。

「知事公邸……ですか……」

「県庁の南隣にございます。神祇官猊下にセンドウ男爵も、今夜はそちらへお泊まりください」


 そう言って、副知事は由真たちを誘導する。

 自動改札機に切符を通して、南口の前に停車していたバソに乗る。

 県庁の前を横切ると、壁に覆われた区画があり、バソが近づくと門扉が開かれて中に入った。



 正面と右手に建屋があり、うち正面の方の玄関先でバソは停車した。


 そちらの玄関から中に入ると、ロビーのような空間が広がっていた。

 2階に上がると廊下が伸びていて、左右は渡り廊下が続き、正面には大広間と小会議室が並んでいる。

 由真たちは、いったん小会議室に入った。


「お疲れ様でございました。なお、アクティア湖の巣穴については、現地より速報が入っております」

 タツノ副知事の言葉とともに、手元に紙が配られた。



晩夏の月3日17:56受信


魔物速報(生息)


大陸暦120年晩夏の月3日

ファニア支部発信


1 時点

 大陸暦120年晩夏の月2日夜


2 場所

 ファニア市アクティア湖町ファラゴ鉱山跡


3 個体数

 オーガ 発見数19 討伐済19 交戦中0 逃走0

 ゴブリン 発見数223 討伐済223 交戦中0 逃走0


4 その他

 本件は同日夜の襲撃の際に逃走したゴブリン16体(上記内数)を追撃したもの。



「あの巣穴には、やはり200体以上いたんですね」

 ユイナが言う。

「これは、例の巣穴の?」

「ええ。調査結果の速報ですね。数がわかった段階で雷信を送ることになっています」

 由真の問いにユイナは答えた。


「それと、こちらはコモディアからの速報になります」



至急 極秘(送信後記録廃棄)

晩夏の月3日19:16受信


コーシア県副知事ヨシト・フィン・タツノ閣下


 ナギナの本部への速報を内々にて取り急ぎお伝えいたします。

 このたびは、 コーシア伯爵閣下とセレニア神祇官猊下の来訪を賜り、大変ご迷惑をおかけ致しました。深くお詫び申し上げます。


魔物速報(襲撃)


大陸暦120年晩夏の月3日

コモディア支部発信


1 時点

 大陸暦120年晩夏の月3日15:30頃


2 場所

 コモディア市タルトリア シンカニア・ナギナ線橋梁建設現場


3 個体概数

 河竜 発見数1 討伐済0 交戦中0 逃走1

 魔族 発見数1 討伐済1 交戦中0 逃走0

 水鬼 発見数27 討伐済27 交戦中0 逃走0


4 その他

 本件は、本日4時頃に襲撃されたシンカニア・ナギナ線橋梁建設現場における防御結界構築の祈祷の際に発生したものである。


北シナニア冒険者ギルド コモディア支部長 バリスト・リソルト



 やはり、ナギナに送ったものを「内々にて」伝えるという形だった。

 そこに、由真とユイナの手を煩わせたことを詫びる文言が含まれているのが、どうにも切なく思われる。


「こちらは、以前ならアトリアの本局に即時に上がっていましたし、そちらから隣県であるこちらにも直ちに転送されていました」

 タツノ副知事が言う。

「これも、『民間化』で?」

「はい。北シナニアギルドは、いちいちアトリアに報告をしている暇はない、として、月例の定期報告しか来なくなりました」

 そう言って、副知事は溜息をついた。

「あの、あちらには、『あえて最前線にとどまった』という、自負心のようなものも、あるそうですから……」

 ユイナにそう言われると、由真も理解はできた。


 あえて「最前線」のナギナに身を置いた自分たちが、後方のアトリアで安穏としている部類や、ただ指図をするだけの本局に配慮するいわれなどない。

 そういう思いが強いということだろう。


「詳細は、明日改めてご相談させていただきたく存じますが、さしあたり、アイザワ子爵、カツラギ男爵、ボレリアさんも、コーシニアに来ていただけると助かります」

 由真たちが考えていたのと同じことを、タツノ副知事が要請してきた。


「私たちも、帰りの特急で、その方がいいと相談してました」

 応えたのはユイナだった。

「それでは、3人を呼ぶのを含めて、対策とかは、明日改めて相談させてください」

 由真がそう言うと、副知事は、かしこまりました、と答えた。

アクティア湖の巣穴にいた連中の数がまとまりましたという報告、そしてコモディアで竜その他を倒した件を巡る込み入った情報提供です。

支部長さんは、微妙な立場で苦しんでいるという次第です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ