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193. 今回の敵の傾向と対策

一連のバトルと祈祷を終えて、一行は帰路につきます。

 祈祷を終えて、一行は慌ただしく駅に戻る。

 バソが到着した時点で、駅前広場の時計は5時5分を指していた。


 由真たちは、駅長に案内されて「特別待合室」という看板のある豪奢な部屋に入る。


「こちら、お帰りの切符でございます」

 神官長が、そう言って切符3枚をユイナに手渡した。


「わざわざ済みません」

「いえ。お越しいただきありがとうございました」

 そんなやりとりで、神官長たちは特別待合室を後にした。


「そちらは、すでに自動改札機を通してありますので、こちらへどうぞ」

 そう言って、駅長は由真たちをホームへと誘導する。


「『非常事態宣言』が発令されましたので、時刻は大幅に乱れております! 下りは、現在全て運転を見合わせております! 上りは、2番線の列車、『臨時白馬510号』アトリア西行、17時15分に発車いたします! この列車、ユリヴィアから先の最終列車となります!」

 ホームに入ると、駅員のアナウンスが響いていた。


 由真たちは、眼前のモディコ200系に乗り込む。

 駅長とはここで別れて、車内の係員に案内されて、往路と同じ個室に落ち着いた。


「この列車は、『臨時白馬510号』アトリア西行です。この先、カリシニア、ユリヴィア、コーシニア中央、タミリナ、終点アトリア西に止まります。ユリヴィアから先は、この列車が最終です。発車まで、ご乗車になってお待ちください」

 車内でも、そんなアナウンスが流れていた。


 室内の時計が5時15分を指して、列車は定刻通りに発車した。


「ともかく、これに乗れてよかったですね」

 ユイナにそう言われて、由真は「予定の列車に乗って予定通りに帰路についた」ことがようやく実感できた。

「まあ、そうですね。何というか……疲れましたね」

「それは、今日だけで、アクティア湖からコーシニアに入って、コモディアの現場に行って戻って、ですからね」


 ――ティファナに見送られて始発の列車に乗ったのが、遠い昔のように思われる。


「間が悪いのか間が良いのかわかりませんけど、ユマさんが着くなり災害級の魔物襲撃、というのが続くのは……」

「あれ、今日のはともかく、昨日のも災害なんですか?」

「オーガが10体出てきたら、地方の支部だとお手上げですから。手勢のゴブリンにいいように蹂躙されて、街も農地も壊されて、若い女性は繁殖のために連れ去られたりもします」


 コーシニアに入ってからの「イベント」が強烈すぎて忘れかけていた。

 オーガ10体・ゴブリン100体を超えると、都市部ですら被害が避けられない。

 ファニア支部のような地方の支部では到底対抗不能だった。


「そうなると、アクティア湖の方は……」

「ファラゴ鉱山跡は、ファニアから人を出して、ウィンタさんが立ち会って中を確認してます。ハルミさんとカズハさんは、鍾乳洞の方を探索してますね」

「俺は、何かあったら対応できるように、セレニア神祇官と詰め所で待機していた」


 ユイナと衛を遊撃隊として待機させて、他の3人だけで残敵の確認をする。

 それができるほど充実した戦力が差し向けられていたことで、「災害」は未然に防止できたといえる。


「問題が発生しなければ、明日の朝の日報に結果が出て終わりです。本来なら、メグミさんたちをこちらに呼ぶ、という話でしたけど……」


 元々、恵たちをファニア高原に入らせるために、過剰なまでの戦力を投入したはずだった。しかし――


「今日のあれ……河竜に逃げられたのが痛かったですね」

 川縁での戦いを思い出した由真は、溜息をつかずにいられなかった。


「普通は、河竜に立ち向かったり、ましてとどめを刺しに行ったりはしませんけどね」

「他の眷属は討伐したから、これで一件落着……だといいんですけど……」

「それは、むしろ厳しいですね」


 由真の願望を、ユイナは淡々と否定する。


「あのオスト・サゴデロは、ナミティア川で活動している『サゴデロ三兄弟』という魔族の末弟なんです。兄弟3体全員が、水系統魔法を得意としていて、水鬼の扱いも巧みです。ただ、末弟のオストは、若く未熟で、長兄のアルト、次兄のウムトには劣っている、と評価されていました」


 そう言われて、「サゴデロ兄弟」とたびたび言及されていたのを由真も思い出す。


「その、アルトとウムトっていうのは……」

「アルトは物理・魔法のバランスがとれた万能型、ウムトは大規模魔法が得意で近接戦闘は苦手という魔法型です。特にアルトがナミトと組むと、マガダエロと七首竜程度には、脅威になります」

「一番上の兄が、一番優秀なんですね」

 どこかの王族とは違って、という台詞はのど元で呑み込む。


「あの河竜は、そのナミトほどじゃない、ということですか?」

 それまで黙っていた衛が問いかける。


「そう……でしょうね。ナミトは、歴史に残っているだけでも3000年間君臨してきた存在ですから……昨日今日現れたばかりのあの河竜とは、さすがに格が違います」


 確かに、「局所乾燥」の術であっさり追い詰められたあの河竜は、少なくとも経験値が圧倒的に足りないということだろう。


「そうなると、あれをアルトが操るだけでも、相当厳しくなりそうですね」

「そうですね。警戒してかかるべきだと思います」

 そう、少なくとも、油断してはならない。


「戦力的には、晴美さんたちも、アクティア湖から戻ってきてもらった方がいい感じですかね」


 アクティア湖は、コーシニアまで特別快速でも1時間半以上を要する。

 竜すら出現した状況では、晴美たちのような戦力を、そんな場所に張り付けておく訳にはいかないだろう。


「そうですね。それこそ、今日問題が起きてなかったら、明日にはコーシニアに入ってもらった方が良いでしょうね」

 ユイナも同じ考えのようだった。


「後は……万が一、コーシア県まで侵入されてしまった場合、どうするか……」

 ユイナの結界を信頼していないような前提ではあるものの、「最悪の事態」も考慮しない訳にはいかない。


「そちらは、タツノ長官が備えると思います」

 ユイナは――特に不快感を示すことなく――穏やかに応える。


「本局と本部・支部の連絡網とか連絡手順とかを整備されたのもタツノ長官ですし、避難とか応戦とかも、問題なく仕切られるはずです」


 確かに、長年冒険者局の長官を勤めていた人物を信頼して任せればよいことだろう。


「それに、あの河竜を追い返して、オストを討ち取っただけでも大きな戦果です。河竜は、今日明日でまた来るということはないでしょうし、少なくともアルトは、『ユマさんがいる』、つまり『あの河竜程度なら簡単に討伐される』ということは、十分認識したはずです」

 ユイナは、由真を慰めるつもりなのか、そんなことを言う。


「……まあ、相手が、慎重になって……できれば、シンカニア攻略をあきらめてくれれば、御の字なんですけどね」

「まあ、そうなってくれれば、確かに御の字ですけどね……」


 由真の言葉にユイナはそう応え、そして衛は無言で溜息をつく。


 そんな展開にはならない。しばらくはにらみ合いが続く。

 そんな悲観を、3人は共有していた。

さすがに、もっと強い敵も出てきます。

晴美さんたちも、オーガとゴブリンをつぶしただけで任務完了にはなりません。

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